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【書評】松谷みよ子 小説・捨てていく話

小さな頃より、松谷みよ子さんのお話はたくさん読んできた。
モモちゃんとアカネちゃんの本を見るに、並々ならぬ苦労をした人生を歩んできたことはなんとなく察していた。

そこで、以前から読んでみたかったこの本を読んだ。
完全に大人向けの本である。

松谷みよ子 「小説・捨てていく話」

タイトルに敢えて「小説」とつけていることに、きっと意味はある。
なので、ただの私小説ではないかもしれないが、Wikipedia等を見るに、作者の実体験が大いに反映されている。
夫と離婚した理由
水面下から表面に出てきてしまう愛人の存在
離婚後の交流
元夫の死と納骨
「ヘドロ」と表現される、元夫との愛憎入り交じった関係
一気に読み終えた。

最初の章である「薔薇の家」から、すでに胸が重苦しくなる。
夫の愛人が残していった陶器の皿を使い続ける主人公。
なに食わぬ顔で、家族への家庭料理をその皿で提供し続けるのだ。
ここだけでわかるように、明らかに子ども向けの読み物ではない。

しかし、もう大人である自分には、その昏い雰囲気が共感できるものであった。
結婚も、仕事も、家庭生活も、全てバッチリ順調でく、いつでも幸せです、というわけにはいかない。
しかし、もう嫌だから離婚します、はいそうですか、というふうにもいかないのもまた現実。

さらに、松谷さんの時代はシングルマザーに対する風当たりはいまよりずっと強かったはずだ。
特に、いまでも非難されることのある
「赤ちゃんのときから保育園に預ける」
ことに対し、心ない言葉をかけられたこともあるはずだ。

そんななか、元夫とのなかなか切れない関係、見えかくれする夫の愛人の影(「お魚さん」と表現しているのがまた生々しい、、)、別れてもパパはパパだという娘さんの話など、作中にはいろいろな話が登場する。
そして、松谷さん母子を支えてくれる友人や元夫の親戚との交流。
まさにモモちゃんシリーズに出てくる「くまさん」である。
おいしいシチューを作ってくれ、子育てを手伝ってくれるくまさん。
くまさんは現実にいたのだ。

松谷さんはヘドロのような愛憎のなか、大きな苦労を背負いながら、元夫のへの愛情が捨てきれなかったのかもしれない。
語り口はあくまでも優しい。
この境地にいたるまで、どれだけの涙を流したのであろう。

最後に、この本で一番心に残った言葉を挙げよう。
共感しかない言葉だ。
持つべきものはやはり友だ。

「持つべきは女友達です。困ったとき、ここ一番というとき、私はいつも女友達に助けられました。」





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