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シンデレラの策略(童話アレンジ)

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童話シンデレラをアレンジした恋愛小説。したたかな少女の野心と、それに翻弄される2人の男性の行く末とは?長編【完結】
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#恋愛

シンデレラの策略 8.5 【ギルバート過去編】

*あらすじ* 継母たちに虐げられながら、屋敷を守るため召使のように働く少女・エラ。 エラを側で見守る執事で魔法使いのギルバートは、継母たちへの復讐に手を貸すことを約束した。 ギルバートは昔、森に住んでいたが好奇心から人間の世界を覗こうとする。そのとき偶然、赤い髪の少女に出会って…。 「あんなことで失神するなんて、魔法使いって繊細なのね」 赤い髪の少女は、呆れたように言った。先程ギルバートに向けられていた短剣は、今、彼女の細くくびれた腰のベルトに収められている。 あの後す

シンデレラの策略15 門での再会

*前回までのあらすじ* 馬車に揺られながら城を覗き見たエラは、その姿に既視感を覚える。家族との幸せだった頃を思い出し、継母たちへの復讐を再度誓うのだった。 「魔法は12時に解けてしまうので、それまでに必ず屋敷に帰って来てください」 エラが馬車を降りるとき、ギルバートは念を押すように言った。その顔には不安がにじんでいる。今すぐにでも引き止めたい、といった様子だ。エラはそれに気付かないフリをして軽く頷き、城の大きな門に向かった。最後に、ギルバートは何かあったらコインを投げて知ら

シンデレラの策略17:リチャード王子の葛藤

*前回までのあらすじ* 舞踏会の会場にたどり着いたエラ。そこは若く美しい娘たちで埋め尽くされていた。入口付近で戸惑うエラに、ひと際華やかな令嬢ローズマリーが話しかける。彼女はリチャードと親交があり、彼を慕っていた。 何度目かのダンスの後、リチャードは心の中でため息をついた。自分のいるところが花畑だったら、こんな風にはならないだろう。花はしゃべりもせず動きもしないが、ここにいる花は違う。皆、リチャードの一挙手一投足に注目し、何とか気を引こうと視線で訴え、抜け駆けする者が出ない

シンデレラの策略27-2:取引(noteバージョン)

ギルバートは屋敷へと馬を走らせていた。焦りと不安で、手綱を握る手が自然と強くなる。 一頼む、間に合ってくれ。 先刻、ギルバートは身を寄せていた街の宿屋でオーリーから忠告を受けた。 『グレイ家の者がベアーリング家の周辺を嗅ぎまわっていると、私の配下から報せがありました。おそらくローズマリー様の指示でしょう。』 オーリーはそう言って、『あの方は少々、思い込みが強い。王子の婚姻に影響がないと良いのですが』と付け足した。 その後すぐに、ギルバートは嫌な予感がして宿屋を出たの

シンデレラの策略28-1:2つの戦い(noteバージョン)

使用人用の裏口から屋敷に入ったギルバートは、不審に思った。人の姿が見えない。声もしない。 屋敷を出てから、気になって一度様子を見に来たときは、新しい執事や使用人が数人いたはずだ。この広い屋敷に、エラが一人でいるとは考えにくい。 それに、表に止まっていた派手な馬車。あれは、ローズマリーが乗ってきたものだろう。そうであれば、ローズマリーとその付き人たちがいるはずである。 なぜ、物音ひとつしないのか。 ギルバートは嫌な予感がして、足を速めた。 台所を抜け、玄関ホールにさし

シンデレラの策略28-2:2つの戦い (noteバージョン)

ローズマリーのナイフはエラの右腕をかすめ、彼女の袖を切り裂いた。裂けた布の下から、白い肌と細く赤い線がのぞく。 ナイフを避けるため咄嗟に横に飛んだエラは、バランスを崩してその場に転がった。 「意外に、素早いのね」 エラの急所を狙っていたローズマリーは、予想が外れたことに驚いた。しかし、すぐに体勢を整え、再びエラに向き直る。 ―このままじゃ、本当に殺される…! エラの身体を死の恐怖が走り抜けた。次にローズマリーが襲ってきても、前回のように避けきれる保証はない。 ―早

シンデレラの策略28-3:2つの戦い (noteバージョン)

「あは、あははははっ…!」 ローズマリーは狂ったように笑い続けた。彼女のナイフはまだエラの胸、ちょうど心臓があるあたりに刺さったままだ。 彼女はすでにナイフの存在を忘れていた。というよりも、時間を追うごとに意識が遠のいていき、何も考えられなくなっていた、というのが正しい。 薄れていく意識とは反対に、赤い靴を履いた足は熱く、脈打っている。まるで足だけが、身体から切り離されて生きているかのようだ。 こうなることは、最近、度々あった。しかし、今回はとくに強い気がする。 ―

シンデレラの策略29-1:別れ(noteバージョン)

―ふん。人間とは、なんともろいものだ。人に危害を加える魔法は禁忌とされているが、そんな魔法使わなくとも、人を殺め、支配することなど容易い。 オーリーはローズマリーを操りながら、彼女の目を通して男の死体を見た。 ―私は、「エラを亡き者にしたい」という、この娘の願いを叶えてやっただけ。嫉妬深い主人を持ったこの男には同情するが、今、ギルバートに死なれては困るのでな。 ローズマリーは、腹から血を流して横たわっているギルバートに近付いた。 「私はオーリー。この娘は今、私の操り人

シンデレラの策略29-2:別れ(noteバージョン)

耳をつんざくような、恐ろしい悲鳴が屋敷中に響き渡った。ローズマリーは左胸にナイフを突き刺されたまま、地面に倒れ、そのまま息絶えた。 ギルバートは目の前で起こった出来事を、すぐには理解できなかった。 「ギルバート…!」 ローズマリーの死体のすぐ後から、エラが飛び出し、ギルバートに駆け寄る。彼女の身体は真っ赤に染まっていたが、ギルバートは近くに来るまで、それが血によるものであると気が付かなかった。 エラがギルバートに触れたとき、ギルバートはぼやける視界の中で、彼女の全身が

シンデレラの策略30:エピローグ(noteバージョン)

屋敷で惨劇が起こった後のことを、エラはあまり覚えていない。気が付くと、城の中に用意された自分用の部屋で、豪華なベッドに寝かされていた。 ローズマリーがエラの屋敷を訪れた日、オーリーは城から姿を消した。リチャードは胸騒ぎを覚え、すぐエラの元に向かったが、そこには見るも無残な光景が広がっていた。 辺りに立ち込めた血の臭いと、いくつもの死体。その中には、背中にナイフが刺さったまま、うつ伏せに倒れているのローズマリーの死体があった。 ―もっと早く、気付いていたら。 リチャード