
シンデレラの策略28-1:2つの戦い(noteバージョン)
使用人用の裏口から屋敷に入ったギルバートは、不審に思った。人の姿が見えない。声もしない。
屋敷を出てから、気になって一度様子を見に来たときは、新しい執事や使用人が数人いたはずだ。この広い屋敷に、エラが一人でいるとは考えにくい。
それに、表に止まっていた派手な馬車。あれは、ローズマリーが乗ってきたものだろう。そうであれば、ローズマリーとその付き人たちがいるはずである。
なぜ、物音ひとつしないのか。
ギルバートは嫌な予感がして、足を速めた。
台所を抜け、玄関ホールにさしかかったとき、女が一人倒れていた。うつ伏せに倒れた女の背中は、どす黒い血で染まっている。
ギルバートは反射的に、ホスウェル・グレイの最後を思い出した。
「…!」
目を逸らした先に、また別の女が横たわっていた。今度は腹から血を流し、口から泡を吹いている。
―どういうことだ。何が起こっている?
ギルバートは死体を避けながら、玄関ホールの中心まで歩いて行った。広間に続く扉の前に、初老の男が立っていた。
「ギルバート殿。ここはお通しできません」
執事の出で立ちをした男は、手に持ったナイフをギルバートに向けた。元は銀色であったろうそれは、今は赤黒く染まっている。
「お前は、この屋敷の新しい執事だな」
「はい。それ以前に、ローズマリー様のしもべでございます」
男は一歩、前に踏み出した。ギルバートは懐に忍ばせておいた小銃を取り出し、銃口を男に向けた。小銃はいざというときのために、前々から用意していたものだ。
「密偵だったのか」
男は何も答えず、地面を強く蹴ってギルバートに襲い掛かった。
いいなと思ったら応援しよう!
