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シンデレラの策略27-2:取引(noteバージョン)
ギルバートは屋敷へと馬を走らせていた。焦りと不安で、手綱を握る手が自然と強くなる。
一頼む、間に合ってくれ。
先刻、ギルバートは身を寄せていた街の宿屋でオーリーから忠告を受けた。
『グレイ家の者がベアーリング家の周辺を嗅ぎまわっていると、私の配下から報せがありました。おそらくローズマリー様の指示でしょう。』
オーリーはそう言って、『あの方は少々、思い込みが強い。王子の婚姻に影響がないと良いのですが』と付け足した。
その後すぐに、ギルバートは嫌な予感がして宿屋を出たのである。
―監視されているとは知っていたが、まさか宿屋まで訪ねて来るとは。屋敷を出て正解だったな。
ギルバートは、例の事件のことをエラに知られたくなかった。万が一、オーリーがエラに真実を告げてしまったらと思うと、怖くて夜も眠れなかった。だから、そうならないために、エラの元を去ったのだ。
―今のお嬢様であれば、私が殺人者だと知ったところで、拒絶することはないかもしれない。お嬢様はもう昔のような、無垢な少女ではないのだから。
ギルバートの頭の中で、エラが生まれてから現在に至るまでの出来事が、走馬灯のように駆け巡った。初めてギルバートの名前を呼んだ日、母であるイザベルとケンカして泣いた日、家族を亡くして一人ぼっちになった日。全てを、ギルバートは近くで見てきた。
―私はただ、見ていることしかできなかった。
使用人として仕えていたギルバートには、エラの悲しみを理解できても、それを拭い去ることはできなかった。それは彼にとって、主従の関係のあいだにある一線を越える行為だったからだ。
―復讐を終えても、お嬢様の心が満たされることはないと知っていたのに。お嬢様は誰よりも愛を必要としている方なのだから。
気が付くと、ギルバートが乗った馬は屋敷の前まで来ていた。門の前には、この場所には不釣り合いな豪奢な馬車が止められている。ギルバートは何食わぬ顔でその前を通り過ぎると、素早く屋敷の裏に回った。
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