【書評①】お役所の掟-ぶっとび霞が関事情(その①)
今から約30年前の1995年、霞が関の人の日常を描いて、ベストセラーになった本があります。その本は日本の不思議なムラ社会を描いていると海外でも話題になり、英語、フランス語、ドイツ語にも翻訳されました。本の名前は「お役所の掟ーぶっ飛び霞が関事情」。
そして、この本の作者の名前は、宮本政於さん。厚生労働省の現役の医系技官だった方です。
この方の人生は、短く、そして波乱万丈でした。
1948年に生まれ、東大医学部卒業後、1975年に渡米。精神分析医としてアメリカで助教授として働き、1986年日本に帰国後、厚生省に課長補佐として入省し霞が関の人になります。そして、その後不幸の連続で、1992年に週刊誌に霞が関の人の日常を描き、お役人とお役所の本音をあまりに率直に発表したため、1995年に懲戒免職となります。その後、何冊か霞が関の人についての著作を描きましたが、フランスに居られる時に、がんで早世されました。
この方の本、同業の上司から紹介された時に、「厚生労働省をディスった内部告発本だったから懲戒免職になった」と聞かされましたが、読んでみると、ご本人はきっと内部告発するという意図は全くなく、単に目の前に繰り広げられる奇妙な面白い日常を精神科医として客観的に俯瞰した目線で描いただけだったんだろうなあ…と思いました。
ご本人も前書きで「本書は、精神分析という手法を用いて官僚たちの実態を分析した比較文化論である。医者は科学者である。だから学術的な部分、すなわち事実はひとつのデータとして、できるだけ客観的に書きつづった。要するに本当のことを包み隠さず述べたのだ。ところがこれが霞が関に大きな波紋をもたらした。波紋の究極は、霞が関という共同体から、懲戒免職という破門の処分を受けたことだろう。」と書かれています。(公式な懲戒免職の理由は別の理由がつけられたようですが)
著者は、精神科医という俯瞰目線を鍛錬した職業、欧米帰りの途中入省という霞が関の文化をすんなり受け入れられない経歴の持ち主、そして30年前は今よりはるかに欧米に比べて男尊女卑・滅私奉公の「男社会・ムラ社会日本」。
この本を読んで、正直言って、私のブログもこの著者と同じようなコンセプトで霞が関の日常を切り取っているわ…やば、と思いました。そして、著者と私は別社会の医療業界から途中で霞が関の人になったということで、ほぼ同じ背景だ・・・(東大じゃないし、海外在住歴も短いけど)。書くことのモチベーションはきっと同じで、なんだこの奇妙な興味深い世界は!もっと色んな人にリアルな日常を知ってほしいという、途中から入ってきた余所者が感じるアルアルを正直に、余所者視点のちょっと引いた立場で描くというものです。それが、30年前に懲戒免職って…ガクブル((((;゚Д゚)))))))。
ただ、この方と私がブログで書くものの違いは、この30年で霞が関のムラ社会や日本社会がこれでもだいぶマシになってきて、パワハラや男尊女卑はちらほらあるけど、それがダメなことという社会的コンセンサスがある、ムラ社会で飲み会も残業もみんな一緒に揃っていないとはみられるという文化はだいぶなくなって個人主義になってきた、というのもあって、私の描く霞が関の人の日常はだいぶ穏やかな気がします。あと、著者と違って、職場で集団で嫌がらせを受けていないので、(威圧的な言動をしてきた人はいたけど、しっぺ返しにあってたので結果オーライだ)見える世界は明るめで、そしてサブカル濃いめかな・・・。
ということで、今回は、この方の描く30年前の霞が関のリアルな日常を、今の霞が関の日常と比較して、感想を書いていきたいと思います!とっても興味深かったので、何部かに分けて、書いていこうと思います。
30年前は霞が関の日常を描くことは懲戒免職ものだったけど(というか話せないくらいブラックだったということだと思うけど)、今の日本と霞が関はもっとオープンで言論の自由があると信じて・・・(公務員の守秘義務はもちろん守る範囲で!)