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魔法瓶
昨今は「魔法瓶」という言葉を使わなくなって久しい。形状によって「ポット」と呼んだり、「水筒」や「タンブラー」と呼んだり。もちろん現役の言葉かもしれないけれど、わたしの周りではあまり耳にしない。字面だけ見ると、なんとすばらしい品なのだろうと思わせる。「魔法」だなんて。
魔法瓶は、熱いものや冷たいものを、その温度で保ってくれる容器だ。夏には氷と冷たい飲み物を、冬には熱いコーヒーや番茶などを入れて持ち歩く。社会人になってすぐ、自分のために象印の魔法瓶(水筒)を買った。鮮やかなピンク色の500mlサイズで、スリムなシルエットがカッコよく、手にも馴染む。
当時もメーカーものの値段が高いものから、安いものまでピンキリあったが、せっかくならと値が張る気に入ったものを購入した。機能性に申し分はなく、朝方入れたお茶が、夕方になってもまだ湯気を立てている。実はこの魔法瓶、現役で使っている。かれこれ、もう20年以上になる。
何度も、何度も、落とし、縁の塗装が若干剥がれている箇所がいくつかあるけれど、それでも律儀に熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、保ってくれている。小さなフタがついているので、熱いものを飲むときに、唇をやけどしないで済むのもうれしい。
これまでにも何度か、新しいものを、とも考えたことがあるが、機能は十分だし、なにせ愛着があるのでなかなか手放せない。きっと、魔法瓶としての役目を全うするまで使うのではないかと思っている。
普段、ピンクのものはあまり手にしない。黒やグレー、ベージュなどの色を好むので、服はもちろん、バッグや手帳、ペンケースなどの類も落ち着いた色合いのものを選んでいる。だけど、実はピンクは好きな色でもある。身につけるには躊躇してしまうけれど、生活アイテムには取り入れることができるのではないだろうか、と思った。
そして選んだピンクの魔法瓶。全体が落ち着いた色合いなので、この魔法瓶はアクセントになってくれている。バッグの中に忍ばせたり、車のドリンクホルダーに立てたり。日常の中でチラッとピンクが見えると、心が浮き立つ。密かな「推し色」。
つい先日、新たな魔法瓶を迎え入れた。入れ替えではなく、あくまで仲間入りとして。ちょっと近所に出かけるとき、500mlの魔法瓶は大きいと感じることがある。1〜2時間出るだけなら、350mlで十分だ。今回は迷うことなく、シルバーとブラックの組み合わせにした。
いまも目の前に、2つの魔法瓶が並んでいる。背が高く、すらっとしたピンクの魔法瓶は、しっかりものの姉のよう。背の低い新入りは、どことなく頼りなげで、でもこれからの成長に期待したい、といったところか。すぐにモノを人にたとえてしまうのは常の癖だが、そう見えてしまうから仕方ない。
20年以上も一緒にいてくれることこそが、「魔法」のなせる技なのかもしれない。