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栗ご飯

わたしが暮らしているのは、全国でも有数の栗の産地。9月上旬頃から走りの栗が産直に少しずつ並び始め、10月には盛りを迎える。我が家にも立派な栗の木が2本あり、毎年大きな実をたわわにつけてくれる。近所の人から「栗拾いは夕方にするのがいいよ。夜をまたぐと猪に食べられてしまうからね」と、教えてもらったのは昨年のこと。それ以来、蚊が多い夕方に火バサミと栗を入れる大きな入れ物を持って、栗の木へと向かう。

昨年、栗のイガ用の厚手の手袋を購入したが、これが素晴らしく便利なものだった。それまで長靴の底でイガを踏みつけ、火バサミを使いながら、中腰でようやっと栗を取り出していたのが、半分の時間もかからずにささっとイガ剥きができるようになった。

まず、その年初めての栗を拾った日には、一晩栗を水に浸けておき、翌日に栗ご飯を炊く。一晩水につけた栗の皮は柔らかく、包丁で剥きやすい。時間がないときは熱湯に1〜2時間浸けるだけでも良いけれど、一晩水に浸けておくと虫が中に入っている場合は外に出てくるので、安心。今年もさっそく、栗ご飯を炊いた。やっぱり、なにはともあれ、栗ご飯を食べたい。

次につくるのは渋皮煮。とても手間はかかるけれど、大量に仕込んで冷凍しておけば、一年中お茶と一緒に愉しめる。昨年は仕事で使う分を除いても、ジップロックに10袋分はあったと思う。重曹を入れたお湯で何度も茹でこぼしながら、途中、やっぱり面倒だなと思ったのが栗に伝わったのか、昨年は実がたくさん割れてしまった。料理をするときには、食材に感謝しながら、心愉しく向き合わなければいけないなと、あらためて思った。

ほかにも、栗きんとん、栗のビスケット、栗のスープと、栗三昧の秋冬を過ごす。今年は栗入りのパウンドケーキをお届けする予定だし、友人から教えてもらった栗のパスタもつくりたい。秋はとにかく、栗仕事で忙しい。

2週間ほど前、栗の木のほうからなにやらチェーンソーらしき音が響いてきた。何事かと慌てて見に行くと、いつも草刈りをしてくださる近所のMさん(大家さんの叔父さんにあたる)が、栗の木の枝を豪快に切り落としていた。唖然としていると、「あまりにも枝が伸びていて、草刈機(車型)が通らないから下のほうだけ切り落としている」と言った。

わたしは栗の実がその分、少なくなるのを残念に思い、「あまり切らないでください」と言おうと思ったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。結構な広さのある敷地なので、草を手で刈るなんて到底不可能だ。いつも汗だくになりながら快く草刈りを引き受けてくれているMさんが、草刈りをしやすいようにすることが大切。

わたしが草刈りを引き受けることができれば「切らないで」と言えるものの、それもせず、ただ栗の実を残してほしいと伝えるのは、傲慢に思えた。

大きな木なので、上のほうにはまだたっぷりとイガがついている。きっと、わたしに必要な分の栗の実だけ残されているのだろう。欲張らず、美味しいものを少しだけ、季節ごとに食べられれば、それで幸せなのだから。

《栗ご飯》(2〜3人分)

米 2合
昆布(5センチ角)1枚
酒 大さじ1
塩 小さじ1
水 適量(いつもの水加減から気持ち減らす)

1. 米を洗って20分ほど浸水し、ザルに上げておく
2. 土鍋に(炊飯器でも)米と適量の水、昆布、塩を加えて軽く混ぜ、 
  中火にかける。沸騰したら極弱火にして8分
3. 火を止め、15分放置したらできあがり

炊き上がりに刻んだ茗荷や白胡麻をさっと混ぜ合わせたり、生姜を一緒に炊き込んだりするのもおいしい

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