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無意識の差別や障害に気づくためのデザイン【Day 4 レポート】

いよいよVCP FOR TOKYO TOURISM、ゲスト講師を呼んだ最後の講義です!
今回は先にワークで体感してから、講義で理解を深めていきますよ。



「障害はどこにある?」
インクルーシブやユニバーサルデザインという言葉を最近耳にするようになりました。
何かサービスを考えるときに、様々な背景の人をどの程度考えられているでしょうか?

現在のエクスペリエンスデザインの多くは健常者が中心になりがちです。
講義を通してどのような人がいるのか新たな見方を獲得してみましょう。

また、後半に「障がい」と「障害」の表記についての先生の解説があります。そちらに倣い、本記事でも「障害」の表記を採用しています。

ゲストは清泉女学院大学 准教授 / デジタルハリウッド大学 客員教授の榊原 直樹さん!

アクセシビリティを中心に様々なフィールドで活躍されています。

榊原 直樹さんってこんな人
ユニバーサルデザイン、webや情報のアクセシビリティや、情報の標準化を行っている。
主な研究テーマは以下
◼️ダークパターン : ユーザーを騙すインターフェースの研究
◼️ゲーミフィケーション : ゲームの社会的な活用。自治体でのシュミレーションゲームの作成研究。

ワーク:「コンセンサスゲーム・避難所運営時の配慮」

今回行うコンセンサスゲームとは、ビジネスでよく使われるゲーミフィケーションになります。
NASAゲーム。砂漠ゲームなどいろんなパターンがあるようです。
ゲームを通して、ビジネスではどのように意思決定をするのか学んでいきましょう。

どんなゲームなのか、みんな真剣です。

コンセンサスゲーム概要

100人収容できる避難所の内、配慮は必要な15人がカードになっています。
10人のボランティアスタッフで対応する必要があります。
どのように配慮の優先度づけをしますか?

【配慮が必要な15人のリスト】
実際のカードには詳細に悩みや求めていることが書いてあります。

・80代・女性・関節の痛みで柔らかい寝床が必要
・70代・男性・夜間頻尿
・40代・男性・視覚障害者
・30代・女性・聴覚障害者
・50代・男性・車椅子利用者
・20代・男性・知的障害あり
・30代・女性・妊娠8ヶ月
・3歳・男性・夜泣き・食事の介助
・5歳・女性・聴覚過敏あり
・40代・男性・シングルファザー
・30代・女性・シングルマザー
・60代・男性・糖尿病患者
・10代・女性・ナッツアレルギー
・20代・LGBTQ+・非バイナリ
・40代・女性・鬱病

最終的に皆さんには以下の3つを発表していただきます。
・優先度順
チーム内で順位づけをするときに、迷ったものや議論になった2人挙げる
・どのような配慮を実施するか
それぞれの人に必要な配慮を決め、前項で挙げた2人の配慮を紹介する。
・実施にあたっての課題・リスク

最終アウトプットは画像のように、2名ピックアップして紹介

ワークの様子

なかなか優先度づけが難しそうですね。
避難所でどのような対応をするのか、チームで決めていきます。

まずはカードと、避難所の状況資料をしっかり読み込みます
カードを並べ替えながら、話し合いを進めていきます
真剣
自分たちの考え方が伝わるように、一枚にまとめていきます

各チーム発表

Aチーム
緊急度が重要な場合、「命」か「コントローラブルな状況」かを判断しました。
今回は後者。パニックは波及しやすいので、その方からケアしていきます。

  • 配慮優先度1位「20代・男性・知的障害あり」

    • ボランティア以外のお手伝いチームを結成。

    • どういうヘルプがいるのかみんながわかるようにカードをつくる。

  • 配慮優先度2位「60代・男性・糖尿病」

    • 看護師を探す。

    • インスリンの早期調達が必要。

Bチーム
何か対応を考えたときに、妬みや不公平感につながらないかは議論になりました。

  • 配慮優先度1位「60代・男性・糖尿病」

  • 配慮優先度10位「3歳・男性・夜泣き・食事の介助」

  • 避難所全体でサポーターの募集、グループを作成してグループ単位でスタッフが管理するなど。(共通)

  • 仕切りがない場所でどうやってスペースを作るか。

Cチーム
優先度の判断ができるように四象限×2で決めることにしました。

  • 配慮優先度1位「10代・女性・ナッツアレルギー」

    • 食事管理する人の配置、空間の分離、栄養士の配置など

  • 配慮優先度1or15位「60代・男性・糖尿病」

    • 【避難所対応の場合】薬を保管する冷蔵庫を用意する

    • 【避難所外対応の場合】救急車の要請や、避難所で医療関係者を探す

Dチーム
優先度を決める上で「命」に関わるかどうかを軸に議論を進めました。

  • 配慮優先度1位「60代・男性・糖尿病」

    • 優先的に搬送などをする。

    • できない場合は現場で医療関係者を募り、人手を使って対応。

    • 医療に繋ぐ必要がある。

  • 配慮優先度2位「40代・女性・鬱病」

    • パニックになり、命に関わる危険性がある。

    • 「空間」「人手」「備品」を中心にケアする。

Eチーム
前提としてそれぞれの方の課題感の程度がわからないので、インタビューなどが必要だと思いました。

  • 配慮優先度6位「20代・LGBTQ+・非バイナリ」

    • 避難所が学校の場合、専用のトイレ、更衣室を用意する。

  • 配慮優先度7位「40代・女性・鬱病」

    • 空間を区切るのが難しい可能性があるので、耳栓を配る。

      • 避難所の必要なアナウンスが聞こえなくなる場合があるので、そこは調整したい。

講義:無意識の差別や障害に気がつくためのデザイン

榊原先生
ワークを通して、皆さんがどういう判断に基づいて反映しているのかを知ることができました。

昔、海外の災害避難の事例で驚いたことがあります。
高層ビルで車椅子の人を、どのように避難させると思いますか?
そりに車椅子の人を乗せて、階段を滑り落とすんです。

当時びっくりして、大丈夫なのかを聞きくと「骨が折れるかもね」と言われました。
でも、骨が折れても助かれば大丈夫という考え方なんです。
逃げることが一番大事なので。

非常時には日常とは違う判断が求められます。
先ほどのワークでもリソースが限られる中で、皆さんが優先しているの「命」でした。

もし皆さんがゲームではなく、実際に避難所を担当する場合はどうでしょうか。
自分が判断を下し、責任が取れるのかを考えられますか。
組織に属している場合、現場で判断できないと上司の判断を仰ぐべきか葛藤が生まれますよね。

今回のワークでの配慮は、よくある観光におけるお客様への配慮とは意味が違っているのではないでしょうか。

障害のある人に対する配慮「障害はどこにある」

車椅子の人とエスカレーターの写真

こちらは車椅子の人とエスカレーターの写真です。
どこに問題があるとするかは、学術的には2つの考え方があります。

車椅子に乗っている女性に問題があるという考え方
⇨医学モデル

車椅子や環境に問題があるという考え方
⇨社会モデル


現在では障害はその人個人と社会のミスマッチで起こるのではないかという「社会モデル」の考え方が一般的になってきました。

日本にある障害に関わる法律

日本でも2016年に障害を理由にした差別の禁止の法律「障害者差別解消法」が制定されました。
そして2024年4月に改正され、「合理的配慮」という内容が盛り込まれました。
義務ではないですが、スロープをつけるなどの環境整備も求められています。

この「合理的配慮」は、元々アメリカから来た概念で言葉の問題があります。

1990年にアメリカで成立したADAという法律の中で、「リーズナブルアコモデーション」という内容がありました。
英語のニュアンスとしては「配慮」ではなく「調整」という感じですね。
日本語にしたときに「配慮」と表記したのは、議論があるところです。

皆さん真剣に耳を傾けています。

「障害」と「障がい」の表記について

理由がいくつかあり、私は絶対に漢字にします。

まずは「障害者差別解消法」は名称が漢字なので変えられません。

次に、webアクセシビリティの問題があります。
目が見えない人が音声読み上げソフトを使うと「さわりがいしゃ」という異なる発音になってしまうんです。

そして、障害の「社会モデル」に基づいた考え方です。
社会の方に問題があり、本人たちに問題があるわけではないので。

例えば、足の不自由な方ではなく、車椅子の上がれない階段に問題があるというような。
障害を個人の責任ではなく社会を良くして解決しようよ、という考え方です。

「合理的配慮」とは

普通の人が使えるものでも、障害のある人の行動を制限してしまっている場合があります。
利用者さんと対話をしながら、どのような配慮にするのか決めていく必要があります。

◼️物理的環境への合理的配慮
飲食店などで、車椅子で座ったまま机につけるかなど

◼️意思疎通への合理的配慮。
細いペンだと読めないという申し出があったなど

合理的配慮の提供プロセス:①情報公開する

環境整備やサポートの情報を公開することが必要です。
障害のある人が旅行に行く前は、90%情報を調べてから出かけます。
サービスを提供する側は必要な情報を明示することで、選んでもらえる可能性が高くなります。

旅行は観光スポットの一箇所で完結するわけではなく、ルートや駅などの道のりの全てが含まれます。
特に利用者に対して線や面の情報を提供しないと、不十分であると言えます。

合理的配慮の提供プロセス:②意思表明と声掛け

先回りして提供するのではありません。
利用者からの意思表明から始まり、双方の対話から合理的配慮のプロセスが始まります。
日本ではまだ意思表明することに慣れていないので、相互に声かけ合うことが大事になってきます。

障害があるということを知られたくない人もいらっしゃいます。

聴覚障害の場合、人前で障害を話したくない人もいます。聞こえないとわかると悪意がある人に狙われる可能性があるためです。
また、見た目で判断できる障害ではない場合もあります。
そのため、さまざまな背景で障害について人に聞かれることを避ける人がいます。

伝えやすい環境やコミュニケーションツールが重要です。

クイズ:「専用の筆談ボードがあるのはなぜ?」

市役所などで筆談は紙やペンでメモできるのに、専用の筆談ボードを用意するのはなぜでしょうか?
理由を考えてみてください。

私が重要だと思うのは消せるということ。
役所の受付で話すことはプライバシーに関わるものですよね。
メモが残ると、どう使われるのかが心配になります。

一方で普段多くの人がしている会話は録音しない限り残らないですよね。
聞こえない人も同様に会話の内容が残らないように配慮する必要があります。

対話の重要性

「合理的配慮」は事業者、配慮を受ける側の双方の対話によって成立します。
対話で過剰な負担をどう乗り越えていくのか、できない場合どうするのか。
合理的配慮において建設的に話を進めていくために、対話は最も重要なことです。

Day5はフィールドワーク!!

  朗らかにプレッシャーをかける丸山先生

次回はいよいよフィールドワークです!!
実際に学んできたことを使っていきましょう。

今まで武蔵野美術大学の観光プログラムを通して様々なことを学んできました。
新たなエッセンスを得て、見方が変わったのではないでしょうか。

「エクスペリエンスデザイン」「ふわふわ」「文化のエイジング」「ラグジュアリー」「ユニバーサルデザイン」……などなど。
いろんな引き出しがあれば、気付けることが多いはず!

皆さんがどんな発見をするのかワクワクしますね。
お楽しみに!


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