北大西洋本鮪(クロマグロ)定置網事業その9
<2016年シーズン~(ルパラ期)>
その7でスペインのマグロ食文化について触れたが、この時期にはスペインを中心とするEU圏内に日本食レストランや寿司屋がかなり増えてきており、刺身商材としての鮪の需要が急激に増え始めたのである。その影響で定置網の網元たちが現地で消費を始めたのであるが、自分たちで刺身として現地で売ってみて初めてその鮮度感の重要さに気づき、率先して取り上げ技術の近代化を進めたのであった。彼らは実に真摯に日本側の技術提案を受け入れた。そのためにはルパラを使用してマグロを瞬殺することは必須であった。ただ日本人との技術共有が日本側にとってはアダとなり、高鮮度での生産が現地でのマグロ需要を加速させ日本の買い負けが始まったのもこの頃である。せっかく高鮮度で生産できるようになったのに、なんともどかしいことであろう。それでも数年前までは日本サイドのスケールメリットは大きく、買値は安いが量をたくさん買い付ける存在ではあった。しかし現地での消費は年々急増傾向にあり、2021年現在も日本の買い付け数量は減らされて、私の予想だとこのままだと5年後にはこの北大西洋定置網本鮪だけでなく全ての輸入鮪の日本向け数量はゼロになるのではないかと危惧している。実際にメキシコで生産されている養殖本鮪は10年前にはほぼ100%が日本に輸入されていたが、近年売価の高いアメリカでの消費が増え続け2021年ついに日本に来なくなってしまっている。既に世界中で食される食材になっているのである。ヨーロッパで食事をするとランチでおよそ20ユーロ(約2600円)、ハワイに行った時にファミリーレストランで朝食を取ったら2000円。食費に対する意識、土台が違うのである。しかし今後は彼らのマーケットと戦っていかなければならないのである。そのためには日本での販売方法をもう一度流通の在り方から見直す必要があるであろう。
↑ポルトガルのレストランで提供されるツナサラダ。平均して10ユーロ(1300円)は下らない。ただしツナ自体も野菜も味がしっかりしており、日本のツナサラダとは一線を画す美味しさ。
また日本国内での畜養本鮪の重要が天然を凌ぐほどになっており、モロッコでもスペインでも何と定置網に入った脂のある天然マグロを生け簀に移してさらに養殖するということが恒例化し始め、2018年ついにモロッコでは天然で日本に搬入された本鮪はゼロになってしまう。私にとっては実に悲しい出来事である。スペインはまだほとんどの定置網は天然で生産されている。この理由としては、アフリカ沖で中国の漁業者が小魚を大量に漁獲したり、大型哺乳類に天敵がいないため激増し小魚を根こそぎ食べてしまいマグロまでエサが回ってこないため、モロッコ沖の本鮪の脂の質が低下し日本の市場でのモロッコ定置の価格が下がったこと。また前述したように畜養本鮪の需要が天然を凌ぐようになったわけだが、この背景としてスーパーなどの小売店が味の良い天然魚よりも、品質が安定し管理しやすい養殖魚を好んで販売するようになったことなどが考えられる。つまり一部のマーケットにおいては天然と養殖の評価(価格)が逆転してしまっているのである。ただしこのことは必ずしも消費者の満足度を反映してはいない。品質が安定するとは、いつ・どこで食べても同じ味ということである。このことは私の考えるマグロの魅力から逸脱している。
その魅力を消費者に伝えていくことが今後の私の使命だと心得ている。
↑2017年最後のモロッコ出張での朝食。まさかララチェでこんなにオシャレなものを食べられるとは笑。。。
↑おなじくララチェのカフェでコーラを飲みながら談笑。ストローがカワイイ笑
。。。続く
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