【東京黄金湯】サウナ戦記〜寒空の下で〜

東京都墨田区。
ファッションモデルの梨花さん、振付師のラッキィ池田さんを輩出した東京下町、錦糸町にそのサウナはある。

時間という洪水は全てを平等に押し流し、時に優しく時に厳しい。

戦前より続くこの銭湯も、時の洗礼を受け廃業を迫られていたわけだが、新オーナーの尽力により、そしてそれを支援する方々のクラウドファンディングによって再生することになる。

そんな想いの詰まった黄金湯に、正月早々訪れたものの、入った途端に出鼻を挫かれる展開となった。

入るまでに45分待ちだそう。

平日のビックサンダーマウンテンくらいかぁと脳内変換して、その時を待つ。

ちなみに平日にディズニーランドに行ったことはない。

番台は明るく、綺麗でDJブースもあり、ビールサーバーも完備。端には、立ち飲みスペースもあり、さながらバーのよう。
リニューアルも大変だったんだろうなぁ。

さて、いよいよ入室の時間。
靴箱の木の鍵の裏側には、クラウドファンディングに参加した方の名前が刻まれている。

「千代田さん」ありがとう。

心の中でそう呟きながら、脱衣所を越える。

中はまさに銭湯といったタイルの風合い。
黄色いケロリン桶が白い床に眩しい。

身を清め、一旦炭酸泉で湯通し。
段差に腰をかけながら端の出入り口を眺める。

看板に
「ここから先はサウナ専用、リストバンドのある方のみ」と記載されている。

受付でいただいた手首のバンドを眺め、
出陣のほら貝がなる。

ドアを開けた瞬間冷気が身体にまとわりついてきた。
なんだ、めちゃくちゃ寒い!!

コンクリートの打ちっぱなしの廊下を抜けた先にサウナはあるのだが、これを待つ人が並んでいる。

左手には青い光に照らされた幻想的な水風呂と、外気浴のスペース。

そうかここは外なのか。
吹き抜けの天井から冷風が浴びせられ、夏であればまだしも、冬にこの環境に裸で晒されるのはなかなかに辛い。

予想外の展開に、
本日のサウナ戦略を再構築する必要が出てきた。

もじもじしながら我慢強く待ち、ようやく自分の番に。
凍てついた心身を暖める...

どうする、どうする、今日のプランが頭を駆け巡るが、頭の中を空っぽにするためにサウナに来ているのでこれでは本末転倒であると思い直し、一度思考を止める。
ここはテレビもなく静かだ。

無...

温度計は92度を差し、長めに10分ほど蒸された後、水風呂に飛び込み、30秒ほどであがる。

寒さが苦手な僕は、冬場は室内で休憩することが多いのだが、今日は外気浴しか選択肢がないため止むなくチェアーへ身を任せる。
そこで今日のプランをととのえる...

サウナ長め、水風呂、休憩は最短。
これで行こう!!

思い立ったが吉日、おみくじで凶を引いた僕は立ち上がり、冷水機で水分補給。

コーナリングインサイドをギリギリに攻めながら、最短ルートで再度サウナへ転がり込む。

先程はストーブの前だったが、今度は端の席。

少しあぐらをかこうと足を広げた瞬間、
左膝に激痛が走る!!

程なくして、尋常ではない熱さが伝わってきた。
一体何が起きたのか？
静寂のサウナで、動揺するおじ。
？？

ゆっくり左を見ると先ほどのコンクリート打ちっぱなしの廊下の内側が壁面となっていた。

つまり、コンクリートの熱気と膝が触れたのである。
黄金湯初心者は是非気をつけていただきたい。

肌を石で焼くのはカイジの世界だけであり、ここはエスポワールでもなければ、帝愛グループの地下でもない。ただのサウナだ。

完全に萎縮した僕は小さく体育座りをする。

無...

心地良い汗と共に、
今しがた起こった惨事も流し水風呂へ。

コンクリートを見つめると、
猫みたいな虎みたいな猫が描いてある。

寅年...？関係ないか。

後で調べてわかったことだが、
こちらは「今日の猫村さん」で知られる、漫画家のほしよりこさんが描いた物で、絵巻風に至る所にイラストが散りばめられていた、なんとも憎い演出である。

そんな虎猫を横目に休憩チェアー、冷水機を、迅速に駆け抜ける。

さぁラストサウナ。

席は2段になっており、上段が空いたので最後は熱めに蒸される。
タイミングよくオートロウリュの時間と重なり、ストーブの上からアロマ水が噴きつけられた。
ジュウっと音が鳴り、左膝の古傷が疼いたが僕はそっと目を閉じる。

無...

ゆっくりと目を開く。
扉を開いて、汗を流し、
冬の青い水に包まれる。
静かだ...

チェアーへ向かい、タオルを頭からかぶり、身体を預け足を伸ばし、全身の力を抜く。

ふぅ。
1月の外気と冷気。

寒...

くない。

僕は思わず吹き抜けの天井から見える、夜空を見上げた。

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