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読了記録 2024

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#戦後文学

芝木好子「洲崎パラダイス」

1954年発表作。「青果の市」から13年が経ち、戦争は終わって、人々は傷付いた身体と心を引きずって、壊れた街で生きている。

読む前はタイトルの些か能天気さに惑わされていたけれど、これは素晴らしい戦後文学作品の達成だ。

芝木好子は1914年生とのことなので、がっつり“第一次戦後派”世代なのである。

濃厚に戦争の傷跡が残る洲崎で、様々な男と女の、様々な人生の道行が、交わり、すれ違い、やがてまた離

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埴谷雄高『死霊』

埴谷雄高『死霊』

再読だったけれど、ほとんど何にも覚えてなかったのでほぼ初読のようなもの。で、読み終えてみて、では今回は何かを覚えていられるのかというと甚だ心許なく、はて僕は何を読んだのだろう。

延々と繰り広げられる形而上学的議論について、素養もない身としてはちんぷんかんぷんと言わざるを得ない。

自同律の不快とか虚体とか、重要な概念についても、率直に言って何が何やら、である。

では全く詰まらなかったかというと

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『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』田邊園子

福永武彦『秋風日記』に坂本一亀の名前がちらっと出てきたので、積んでいたこの本を読んでみた。

若い頃高橋和巳を熱心に読んでいたので、坂本一亀の名前も何度か耳にはしていたけれど、よく知らなかったので興味深く読んだ。

日本の戦後文学に関する貴重な証言集でもあるけれど、作家の裏話的エピソードが散りばめられているところが愉しく読めた。

たとえば―

『エホバの顔を避けて』でデビューした丸谷才一について

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