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#辻邦生

辻邦生『黄金の時刻の滴り』

「もう一度、生きているこの人生のさなかから、何か〈物語〉に生命を吹き込む〈詩〉を掴みとる」(「あとがき」)という試み。

物語が、単なるストーリーに堕せず、人生をかけた一瞬の光芒として輝くその瞬間の美しさ。一篇一篇が短いがゆえに、その刹那の光の美しさも目映くて濃い。

12人の作家を取り上げて、その作家らしいフィクショナルなエピソードなども交えながら、その作家が物語に魂を注ぎ込む姿を描いて、小手先

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芝木好子「ルーアンの木陰」「ヒースの丘」

芝木好子「ルーアンの木陰」「ヒースの丘」

『芝木好子名作選』の下巻巻末に収められた2つの短編は、老いた夫婦がヨーロッパを旅する物語。

「ルーアンの木陰」はモネが、「ヒースの丘」ではブロンテ姉妹が、物語を彩る。

短い短編ながら、充実した筆致で読まされる。名作選はこれ以外は全て長編(須崎パラダイスを連続長編と僕は思う)なので、最後に芝木好子は短編も巧かったのだなあと感心させられる。

死と芸術と、愛と失意と。人生なんてそんなもの、とも言え

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