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※プロフィールに勤務校名を出していますが、
 全ての記事の文責は個人にあります。
 以下、2022年10月の校内向けの通信に書いたものです。

Q:「探究する人:Inquirers」という学習者像に近づくためには?(4)

A:  「探究学習」はIBだけでなく、新しい学習指導要領の大切なテーマですので、重点項目になっている今月いっぱいかけて考えてきました。
 生徒のみなさんも、保護者のみなさんも、特に今月は「探究する」ということ自体についても探究してみてください。
 今回は、「謙虚な問いかけ」の話です。

「質問する」こつは?

 前回、「質問する」こつは?と問いを投げかけた状態でした。この問いへの答えとしてどのようなことを思い浮かべたでしょうか?
 修学館では、高校生の課題研究の指導においても、できるだけ生徒たちに対して「質問する」ことを大切にしています。(一人一人の研究内容や研究手法に対する助言やよりも。)
 ここ数年、教員の側も生徒たちと同じように様々な問いの種類(「定義に関する問い」「信ぴょう性に関する問い」等々)を学んだり、小林昭文先生から質問するトレーニングを受けたりしながら、課題研究のサポートにも役立てようとしてきました。
 「質問力」と名のつく本や「問う」・「質問する」ことに関して書かれた本にも意識して目を通します。

   その中で私自身が最も印象に残った本をご紹介します。『問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる』(2014)です。筆者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授で、アップル、P&G、ヒューレット・パッカード、シンガポール経済開発庁などのコンサルティングを務めたエドガー・シャインです。
 原題は、Humble Inquiry: The Gentle Art of Asking Instead of Tellingであり、直訳すると「謙虚な問いかけ:話すかわりにたずねる穏やかな技術」というような意味になります。
 書かれていることは、マニュアル的な「技術」というより、「謙虚な問いかけ」をする姿勢を身につけるために、「謙虚な問いかけ」がなぜ大切なのか、「謙虚な問いかけ」がなぜ難しいのかといったことが中心です。

 MITの経営学というイメージから、理論的で難しいと思っていたのですが、翻訳でも理解しやすい本でした。また、読み始めたあたりで、下のようなわりとなまなましい筆者の心情が書かれていて、すぐにイメージが変わりました。

  私たちはとかく自分がしゃべることに一生懸命になる「自分が話す文化」の中にいるので、相手に質問するのが上手ではない。ましてや謙虚な姿勢で聞くとなると、特に難しい。(中略)
  すでに自分も知っている、あるいは検討済みのことを相手に言われてしまうと、私は少なくともイライラするし、それがあまりにひどいと不愉快になる。

エドガー・H・シャイン(著), 原賀真紀子(訳), 金井壽宏(監訳)『問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる』(2014)英治出版(p.30~31から抜粋)

 

  アメリカ人がアメリカの「自分が話す文化」をここまではっきりと批判的にとらえて、そのことよりも「謙虚な問いかけ」が大切だという考え方が経営学の分野でも受け入れられるほどアメリカ社会も変わってきていることにも驚きました。
  (ひょっとしたら移民系の出身かなと思いながら読んでいたら、最後のあたりの監訳者の解説で「ユダヤ系ハンガリー人の父とドイツ人の母のもとに生まれた。(10歳の頃アメリカに移住してきたときには英語を全く知らなかった。)」と書かれていました。同じくMITで『U理論』の筆者オットー・シャーマー博士もドイツ出身の移民であり、多様性や批判的な言論を包含するというアメリカ社会の文化の強さを感じました。)

   個人的には、「無知の知」とつながりました。決めつけや「わかったつもり」で考え、人に接するのではなく、「どうして相手はこのように言っているのだろう?」「自分は本当にわかっているのか?」という「謙虚な」姿勢で「問いかける」ことをコミュニケーションの中心にする。
   私自身、子育てのときに読んでおきたかった本でした。仕事上でももっと早く読んでおけば、思い出すだけで恥ずかしいことだらけの現状とは少し違ったかもしれません。わかったつもりでも実践は難しく、私は何度も何度も読み返さなくてはならなそうな本です。(現にもう3回ほど読みましたが、実践は...)
   我が子のことだからと決めつけたり、わかったつもりで(相手のためになっているつもりで)伝えようとして、「伝わらないなぁ」「何でわからないの?!」と感じることはありませんか? 
 心から「謙虚な問いかけ」をしようと思って(誘導する質問ではなく)、人と接することができていますか?

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