Change Agent(組織変革者)としてのHR②「個人行動の基礎」
あらすじ
前回、主人公であるHR部門主任の篠崎瑞穂が所属する日本の大手製造業の企業では、営業部門の売上低迷という重大な課題に直面した。この問題を解決するため、篠崎はCEOの山下圭介の期待を背負い、組織行動学の知識を活用して現場に向き合った。
営業部では、情熱的だが空回りしがちなDXプロジェクトリーダーの佐藤健太、現状維持を重視する慎重派の中堅社員矢島薫、現場経験を生かし橋渡し役を務める若手社員田辺翔太といった個性豊かなメンバーが、それぞれの課題に苦しんでいた。篠崎は、彼らに対して個別の支援と明確な短期目標を設定し、チーム全体の成功事例を共有することで、営業部の士気を取り戻すことに成功する。
本章では、篠崎が組織のさらなる成長を目指し、個人行動の基礎に基づく次の変革に挑む。社員一人ひとりの価値観や認知、学習プロセスを深く理解し、個々の可能性を引き出すための具体的な施策が描かれる。登場人物たちの成長と、篠崎のリーダーシップがどのように組織を新たなステージへ導くのかが鍵となる。
登場人物
篠崎 瑞穂(しのざき みずほ)
32歳。新設されたHR部門の主任。心理学専攻の知識を活かし、組織行動学を現場で実践することに挑戦している実力派。柔らかな物腰で周囲の信頼を得ながらも、自身の理論を深めるための勉強を欠かさない。
田辺 翔太(たなべ しょうた)
25歳。営業部の若手社員。顧客との信頼構築に情熱を持つが、最近はパフォーマンスが不安定。仕事への価値観のズレに悩む一方で、潜在能力の高さは評価されている。
中村 奈緒(なかむら なお)
45歳。営業部の課長。部下の成果を重視する堅実な管理スタイルを持つが、感情的なサポートにはやや不慣れ。部下とのコミュニケーション方法を見直すきっかけを模索している。
藤本 健一(ふじもと けんいち)
38歳。HR部門の課長で、瑞穂の上司。組織行動学の理論を現場に落とし込むのが得意で、瑞穂を信頼し支援する一方で、高い成果を期待している。
第1章:プロローグ - HR部門の新たな挑戦
篠崎瑞穂がHR部門主任に任命されてから2か月が経った。新設されたHR部門の使命は、単なる人事管理から脱却し、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体の成長を支援することだった。
瑞穂は、これまでのキャリアで人事業務において成果を上げてきたが、組織行動学を実践でどこまで応用できるか、自分の能力を試されていると感じていた。
第2章:問題の兆し - 営業部での混乱
瑞穂が最初に向き合う課題は、営業部でのトラブルだった。営業部の中村奈緒課長から、部下である田辺翔太のパフォーマンスが不安定だという相談を受けた。
「田辺さんは成績自体は悪くないんですが、最近、チームで浮いている感じがするんです。何が原因なのか掴みきれなくて……」中村の言葉には、部下を思いやる気持ちと自身のリーダーシップへの疑問が交じっていた。
瑞穂はこの話を受け、田辺との面談を提案した。
第3章:田辺との面談 - 価値観のズレを探る
瑞穂は田辺とカフェで落ち着いた雰囲気の中、面談を行った。最初は明るく振る舞う田辺だったが、瑞穂が「最近の調子はいかがですか?」と切り出すと、目を伏せてこう言った。
「正直に言うと、自分がこの仕事に向いているのか分からなくなってきました。やってもやっても成果が認められない気がして……。」
瑞穂は心の中で、彼の言葉に「価値観」の問題を感じ取った。田辺が仕事を通じて得たいものと、現状の仕事内容が一致していないことが彼の迷いの原因ではないか、と推測した。
「田辺さんが一番大事にしている価値観って何ですか?何が仕事の中で喜びに繋がりますか?」瑞穂の問いに、田辺は少し考え込んだ後、ぽつりと答えた。
「お客様との信頼関係を築くことが一番好きです。でも、最近は数字ばかり追いかけていて、それが本当に意味のある仕事なのか分からなくて……。」
瑞穂は、田辺が「顧客との信頼」という価値観を重視している一方で、営業部での業務がそれに応えられていない可能性を感じた。
第4章:中村課長との対話 - マネジメントの改善
田辺の話を受けて、瑞穂は中村課長とのミーティングを設定した。瑞穂は、田辺が抱える価値観のズレについて率直に話し、営業部の環境や中村のリーダーシップスタイルを見直す必要があると提案した。
「中村さん、田辺さんは数字だけではなく、仕事の意義を感じられる環境を求めているようです。今の管理方法に少し工夫を加えられる余地はありませんか?」
中村は少し考え込んだ。「確かに、田辺にはいつも数字を求めていました。でも、それが彼にとってどう意味を持つのか、深く考えたことはありませんでした。」
瑞穂は、以下のような具体的な提案を行った。
定期的な個別面談: 田辺が何を考え、何を目指しているかを共有する場を設ける。
業務と価値観の一致を図る: 彼が得意とする顧客関係構築にフォーカスした役割を検討する。
チーム全体での価値観の再確認: 営業部が共有する目標やビジョンを明確にし、個人の価値観とリンクさせる取り組み。
中村は「まずはやってみます」と答えたが、その表情には少し不安が滲んでいた。
第5章:学びの夜 - 組織行動学の深淵
瑞穂は帰宅後、書棚に並べた本の中から『組織行動学―入門から実践へ』を手に取った。「個人行動の基礎」の章を読み進めるうちに、いくつかの理論が今回の課題解決に役立つと感じた。
価値観と態度
個人の価値観が職場での行動に与える影響は大きい。田辺の場合、「顧客との信頼構築」が彼の行動を左右している要因といえる。
認知のプロセス
中村課長が田辺の行動を「数字への意識が低い」と捉えていたのは認知の偏りだった。実際には、彼が数字以上に顧客との関係に重きを置いていたのだ。
学習理論
田辺のモチベーションを引き出すには、成功体験を積ませることが重要だ。
瑞穂は、この理論を現場でどのように活用できるかを考えながら、次の日の計画を立てた。
第6章:再構築への挑戦 - ワークショップの導入
瑞穂は、営業部全体に向けた「価値観と仕事の結びつきを考えるワークショップ」を企画した。社員たちに「自分が仕事を通じて何を実現したいのか」「どのような価値を重視しているのか」を明確にさせるための場を設けた。
ワークショップ当日、田辺は迷いながらも「信頼」という言葉を書き出した。その後のディスカッションで、彼の価値観に対する認識が深まると同時に、チーム内の他のメンバーとも共感を得ることができた。
中村課長は、田辺の価値観に合わせた役割を考え、新規顧客との関係構築を任せることを決定。田辺はその仕事に大きな手応えを感じ始めた。
第7章:結果と展望 - 個人行動の基礎が導く変化
2か月後、田辺は新規顧客との商談で大口契約を獲得。その結果、彼の自信とチーム内での評価が大幅に向上した。中村課長も「感情的なサポートを重視する」管理方法を取り入れ、他の部下からの信頼も深めることができた。
藤本課長は瑞穂を称賛した。「瑞穂さんの取り組みが営業部に変化をもたらしましたね。組織行動学の理論を全社に広げる方法を考えましょう。」
瑞穂は、まだ見ぬ課題に向けて歩みを進める決意を新たにした。
学術的な要点:第2章「個人行動の基礎」の応用
1. 価値観と態度
理論:
価値観と行動の関連性(Rokeach, 1973)
個人の価値観は、意思決定や行動に大きな影響を与える。特に、価値観と職務内容が一致している場合、従業員のモチベーションやパフォーマンスが向上する。
応用:
田辺の「顧客との信頼構築」という価値観を理解し、それに合致する役割を与えることで、彼のモチベーションを向上させ、結果として大口契約を獲得するという成果に結びついた。
2. 認知のプロセス
理論:
帰属理論(Heider, 1958; Kelley, 1967)
人間は他者の行動を観察した際、その原因を内的要因(性格や態度)または外的要因(環境や状況)に帰属させる傾向がある。これにより認知の偏りが生じることがある。認知の偏り(Tversky & Kahneman, 1974)
認知のプロセスは必ずしも合理的ではなく、過去の経験や直感が判断を歪める可能性がある。
応用:
中村課長は、田辺の行動を「やる気がない」と誤解していたが、実際には「価値観のミスマッチ」が原因だった。瑞穂の指摘により、課長自身の認知の偏りが修正され、田辺への適切な支援が可能となった。
3. 学習理論
理論:
強化理論(Skinner, 1953)
行動は、その行動に続く結果(強化)によって変化する。ポジティブな結果が得られる行動は強化され、繰り返されやすい。自己効力感理論(Bandura, 1977)
自分が特定の目標を達成できるという信念(自己効力感)が、行動とモチベーションに影響を与える。成功体験はこの信念を強化する。
応用:
田辺に「顧客フォローアップ」の役割を任せ、彼が新規契約を成功させる経験を与えることで、自己効力感を高めた。このプロセスは彼の行動をポジティブに変化させ、チームの士気全体を向上させた。
4. 組織への応用と成果
理論:
ジョブクラフティング理論(Wrzesniewski & Dutton, 2001)
従業員が自発的に自分の仕事の内容や関係性を再構築することで、仕事に対する満足感やエンゲージメントを向上させる。
応用:
瑞穂はワークショップを通じて、田辺が自身の価値観を明確にし、それに基づいた業務に取り組む機会を作り出した。これにより、田辺自身が役割を「クラフト」し、仕事に対する満足度とパフォーマンスを向上させた。
5. 今後の課題
理論:
エンゲージメント理論(Kahn, 1990)
従業員が心身ともに仕事に没頭できる環境が、組織の生産性を向上させる鍵となる。
応用:
今回の事例は田辺のモチベーション向上に成功したが、次の課題は組織全体でのエンゲージメント向上である。瑞穂は今回得た知見を基に、他の社員にも価値観に基づいた役割を提供する仕組みを構築する必要がある。
組織行動学における「個人行動の基礎」
組織行動学(Organizational Behavior, OB)の分野では、組織内での個人の行動を理解することが基礎となります。個人行動を分析することで、従業員のモチベーション、パフォーマンス、満足度を向上させるための具体的な施策が見えてきます。「個人行動の基礎」とは、個々の従業員がどのようにして行動し、その行動が組織に与える影響を理解するための理論的なフレームワークです。
1. 個人行動に影響を与える要因
1.1 価値観
定義: 価値観とは、個人が何を重要視し、どのように行動するべきかを判断する際の基準です。
理論: Milton Rokeach(1973)の研究によれば、価値観は個人の態度や行動に直接的な影響を与えます。
例: 「自己成長を重視する従業員」は、新しいスキルを学ぶ機会に積極的に取り組む傾向がある。
応用: 職務内容と従業員の価値観が一致している場合、モチベーションと満足度が向上します。
1.2 態度
定義: 態度とは、特定の対象や状況に対して抱く感情、信念、行動意図のことです。
理論: Ajzenの計画行動理論(Theory of Planned Behavior, 1991)は、態度が行動意図を形成し、それが実際の行動に繋がると示しています。
例: 「上司に信頼を持つ従業員」は、積極的に意見を共有し、リーダーシップに従う傾向が高い。
応用: ポジティブな態度を育む職場環境が重要である。
1.3 認知
定義: 認知とは、情報を受け取り、処理し、解釈するプロセスです。認知が行動の選択に影響を与えます。
理論: フリッツ・ハイダーの帰属理論(Attribution Theory, 1958)は、行動の原因をどのように解釈するかが、その後の行動や態度に影響すると述べています。
例: 成果を「努力の結果」と認知する従業員は、自信を持って次の挑戦に取り組む。
応用: 認知バイアスを減らすためのフィードバックの提供が効果的です。
1.4 学習
定義: 学習とは、経験や訓練を通じて行動が変化する過程です。
理論:
強化理論(Skinner, 1953): 行動がその結果に応じて強化または弱化される。
例: 業績が認められると、その業績を再現しようとする行動が強化される。
社会的学習理論(Bandura, 1977): モデルとなる他者の行動を観察することで学習が進む。
例: 経験豊富な先輩を見習い、新人がスキルを習得する。
応用: 効果的な研修やコーチングを提供することで、従業員のスキルとモチベーションを向上させる。
2. 個人行動と組織パフォーマンスの関係
2.1 モチベーション
個人行動の重要なドライバーであり、組織の目標達成に寄与します。
理論:
マズローの欲求階層理論(Maslow, 1943): 個人の欲求段階を理解し、適切な刺激を与えることでモチベーションを高める。
自己決定理論(Deci & Ryan, 1985): 内発的動機付けを促進する環境の提供が重要。
2.2 業績評価
個人行動が業績にどのように結びついているかを理解するためのプロセスです。
理論: SMART目標(Doran, 1981): 具体的、測定可能、達成可能、現実的、期限付きの目標設定が有効。
2.3 組織文化への影響
個人行動が組織文化の形成に影響を与え、また逆に組織文化が個人行動に影響を与える。
理論: Schein(1985)の組織文化理論: 価値観、信念、行動が文化を形成する。
3. 組織行動学における「個人行動の基礎」の意義
個人のニーズを理解
個々の従業員が何を求めているかを知ることで、適切な管理と支援が可能となる。行動の予測と管理
理論に基づく分析によって、従業員の行動を予測し、適切な対策を講じることができる。パフォーマンス向上
個人行動を改善することで、組織全体の成果を引き上げる。
まとめ
「個人行動の基礎」を理解することは、組織内での効果的な人材管理の第一歩です。価値観、態度、認知、学習といった要因を深く理解し、適切な理論を応用することで、従業員が最大限の能力を発揮できる環境を構築できます。この基礎を基に、組織行動学の他の領域(チーム行動、リーダーシップ、組織文化など)を統合的に活用することで、組織の成功を持続可能なものにすることができます。
※上記のブログは以下参考書と自社独自プログラムを元に、著者がAIツールを用いて作成・編集・再作成したフィクションです。
ピープルマネージャーのためのChange Agent養成講座
最後まで読んでいただき有難うございました。
著者:松澤 勝充
神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事
2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶEvery HR Academyを展開している。
保有資格:
・SHRM-SCP(SHRM)
・Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
・Global Professional in Human Resources (HRCI)
・The Science of Happiness(UC Berkeley)、他