【短歌一首】 夕焼けの晩夏の空に暑さ置き雲は列なし秋へ流れん
夏の終わりになると雲も空も大気も夏と秋とがせめぎ合う。
台風の影響もあって雲の流れるスピードも速くなる。
高い空にある雲は残照を抱いて光る。空も水色に澄み渡っていて上空はもう秋。
一方、西の空の比較的低いところを、まだ夏の雲である積乱雲が流れていく。濃い灰色のところはまだ雨を降らすかもしれない。
時間が経つにつれて、夏の雲、夏の空と秋の雲、秋の空が綯い交ぜとなってゆっくり溶け出していく。
これは大好きなユーミンの名曲「晩夏(ひとりの季節)」(1976)の世界。
1976年ということは今からもう50年近く前になる。子供心に、こんなにも季節の移ろいを歌詞とメロディーで表現できるんだ、と感動した(というよりも深く大きくえぐられた)。
何十年も経って自分が短歌を詠むようになったのも、その一番最初のルーツはこの曲にあるのかもしれないと感じる。
以前、新聞のコラムでユーミンさんが、「今から何百年も経った未来の世界で、自分の歌が「詠み人知らず」の曲として残っていたら本当に嬉しい」というようなことを言っていた。間違いなく詠人とともに曲が残ると思う。
どんなに夏が踏ん張ろうと、空も雲も空気も陰影も秋には逆らえない。夏の雲がどんどん千切れては乾いた風に乗って流されてゆく。まるで夏に別れを告げて秋に向かう風に乗る順番待ちをしているようだ。
本格的な台風シーズンの到来。台風が一つ過ぎるたびに秋が進んでゆく。
いざ季節が変わり始めると、あれだけ猛烈に蒸し暑かった夏も懐かしくなってきて少しだけ寂しい。
猫間英介