【短歌一首】 ベランダの声なき蝉は虫の息夏と去らむや豪雨の夜半に
8月最後の日。日本列島を台風が進み、その影響でまだ台風から離れた地域でも線状降水帯が発生し大雨に見舞われた。
朝からとても蒸し暑く、断続的に激しい雨が降った。雨が止み束の間晴れ間が出るとより蒸し暑さを増し、地上の湿気が温められてさらに雨雲を形成し、また雨をもたらす。
夜になりふとベランダに目をやると、一匹のアブラゼミがベランダの壁に張り付いていた。蝉はいきなり触ったり刺激を与えたりすると、鳴き声と共にオシッコをかけて飛んでいくということは子供の頃からの経験則で十分に承知。しばらく様子を見ることにした。
しばらくして少し触れてみたが、鳴き声も出さないし暴れる様子もない。蝉は寿命が尽きる少し前の時でも、触れたりすると鳴きながら転げ回ることはよくあるが、この蝉はほとんど動かず、たまに壁にしがみついた足を震わせるだけ。
これはかなり弱っている。何度も豪雨にさらされて疲労困憊し、束の間、ベランダにビバークしたのだろう。羽も一部損傷している。
一般的に、蝉は地下の7年、地上の7日と言われるが、今、地上の7日間の最期を迎えようとしているのかもしれない。
また少し雨が降ってきた。雨が降るたびに夏が一つ旅立つ。8月最後の夜、この蝉も夜遅くには夏と一緒に旅立つかもしれない。
猫間英介