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【短歌一首】 太陽と外灯照らす真昼間の切り割りの闇に蠢くは何
太陽と
外灯照らす
真昼間の
切り割りの闇に
蠢(うごめ)くは何
鎌倉時代からある鎌倉中心部の扇ヶ谷と北鎌倉側の山ノ内を結ぶ「亀ケ谷坂の切通し」。
「切り通し」または「切り割り」とは山などを切り開いて通した道のことを言うが、その構造上、まわりは山の岩肌が剥き出しになっていたり、木々がうっそうと生い茂っていたりすることが多い。
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仕事でもプライベートでも鎌倉を訪れた時にはよく通る坂だが、いつ訪れてもほとんど人に会うことがない。前回来たのはまだ厳しい残暑の2024年9月だった。
そのころは今よりももっと緑が鬱蒼していたが、真冬になって枯れ枝も見られる中、相変わらず両脇から生い茂る草木で切り通しはトンネルのようになっている。
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夏期と異なり、真冬の時期は枯れ枝越しに見える空のスペースも大分多くなるが、それでも昼なお暗い場所も多く、切り割のピークあたりにある外灯は今日も点いている。
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誰も人がいない昼なお暗い切り通しに、風に鳴る大きな葉擦れの音だけが何度も何度も繰り返される。 それを聴きながら、葉叢の間に灯っている外灯を眺めていると、まるで「行灯(あんどん)」のように見えてくる。
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冬枯れの間から真冬の薄日が差し込んでくる。夏の間は太陽はほとんど見えないが、薄日と外灯が並んで切り通しを照らしているはかえって不気味にも感じられる。
いつも人の気配のない切り通しを歩いていると、落武者伝説とか、物の怪だの妖怪だのとどんどん怖い妄想が勝手に膨らんでしまう。
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切り通しは落石もよくあり、「注意 落石あり 頭上注意」の看板が何箇所かに置かれている。
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これまでも歩いていると、小石か何か硬いものが枯葉の上を転がるような音が聞こえたり、リスや野ネズミなどの小動物が動いたりするのを目撃することがしばしばあった。深い静寂の中でいきなり物音がすると心臓が飛び出そうになる。
恐怖心・猜疑心に囚われ、落武者伝説の妄想を膨らませながら歩いている身には、この切り通しには絶対何か得体の知れない力が働いていると思えてしまう。 鬱蒼とした草木の向こうの闇では、いったい何が蠢いていのだろう。
猫間英介
鎌倉にまつわる短歌を集めました。