【短歌一首】 真っ昼間のガード下には熱溜まり昨夜の酒の残り香炙る
何年かぶりに東京都杉並区・高円寺に行った。 JR中央線・総武線の高円寺駅で降りて、特に当てもなくぶらぶらと歩き回る。
いつ来ても高円寺駅の周辺は飲み屋だらけ。
高円寺は子供の頃に一時期住んでいたことがある懐かしい街。今でこそ若者が住みたい街の上位に上がるが、子供の頃のイメージはとにかく飲み屋や風俗営業の店が多く、おっかなそうな、危なそうな大人がたくさんいるな、という印象が強かった。
駅に向かう商店街や裏道にキャバレーやピンクサロンがたくさんあり、威勢の良い呼び込みのお兄さんが子供にも宣伝のチラシを配るので、小学校の頃にそれを家に持ち帰っては母親に叱られていた。
この日も気温は35度越えの猛暑日。久しぶりの高円寺をゆっくり歩きたいがあまりにも暑いので電車のガード下に逃げ込んだ。このガード下も飲み屋しかない。子供の頃と同じ光景。
子供の頃に早起きして高円寺駅に向かっていると、よく徹夜明けの酔っ払いのオヤジやニイちゃんがゲロしながら歩いている姿を目撃した。子供心に、なぜあんな苦しそうなのだろう、なぜそんな思いまでして酒を飲むのだろうと思っていた。(いずれ自分もそうなるとはつゆ知らずに。)
当時、ベトナム反戦運動のヒッピースタイルが世界中に流行っていて、肩まである長髪に何十センチもある長い髭、パンタロンジーンズにビーチサンダルという格好の大人が早朝にガード下で酔い潰れているのをしばしば目撃した。
たまに彼らから声をかけられるが、それが恐ろしくもあり、面白くもあった。絡まれそうな時はダッシュで逃げる。(そうそう、一度、酔っ払った怖そうなお姉さんに、邪魔なんだよクソガキ、と言われて火のついたタバコを投げつけれたことがあった。)
猛暑でガード下には熱気が渦巻いている。その熱気がなんともいえない不思議な匂いを連れくる。ビール、焼酎、日本酒、ウイスキー、ジン、ウオッカ、ワインなどあらゆる酒の匂いをミックスしたような独特の匂い(カクテル高円寺ガード下ミックス?)。
前夜の営業で出された酒の匂いがガード下の至るところに残留してるのだろう。そしてそれが外の炎天の熱によって昼に立ち昇ってくる感じ。地面や店の外に出されたゴミの匂いと相まって、生ぬるくベットリした土くさいような匂いが鼻腔の奥に入り込んでくる。酔いそう。
匂いはものすごいスピードで人の記憶を蘇らせる。中学生の時にクラブ活動のための自主トレーニングとして、夜にランニングをしていた。そのときに走るコースに必ずこのガード下の飲み屋街の通路が入っていた。息が上がって苦しくなっている時にこのガード下を走ると酒の匂いで気持ち悪くなるのに、なぜかいつも走っていた。理屈ではない深い魅力がこのガード下にあったのだろうか。(大人への憧れか、怖いもの見たさか、それとも単にスポーツの忍耐力の強化か。)
このガード下の道は電車の高架線の下をずっと走っていて、このまま直進を続けていくと隣の阿佐ヶ谷駅まで行くことができる。阿佐ヶ谷も飲み屋が多い。
このまま蒸し風呂状態のガード下でノスタルジーに浸っていると、暑さと酒の匂いにやられてしまいそうだ。外は猛暑だが新鮮な空気を吸いに行こう。
やはり高円寺は自分のふるさとの一つなんだろうな。今度は夕方に来てじっくり飲むか、ハッピーアワーで。
猫間英介