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【短歌一首】 街じゅうに金木犀の匂ひ沁み無限に出づる海馬の記憶

街じゅうに
金木犀の
匂ひ沁み
無限に出づる
海馬の記憶

金木犀が満開を迎えている。
朝も昼も晩も、街じゅうに、路地裏の津々浦々まで、金木犀の匂いが満ち満ちている。

まだ3分咲きの木でもいい匂い

子供の頃住んでいた家の庭に大きな金木犀の木があり、秋になるとある日ふと朝の布団の中に金木犀の匂いが漂ってきた。今でも金木犀の匂いをかぐと、今はもう無くなってしまった生家での幼い時の記憶が次々と蘇ってくる。

塀の隙間にも金木犀

嗅覚は人間の五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)の中で、最も記憶との結びつきが強いとのこと。 それは、人間の五感の中で嗅覚だけが人間の記憶をつかさどる脳の海馬に直接刺激を与えることができるから。 そういえば、何かの匂いを嗅いだときに昔の記憶がものすごい速さで鮮明に蘇ることがある。

金木犀の花

脳の海馬は、人間の感情や本能を操る大脳辺縁系の中にあって、人間の日々の記憶を貯蔵している。子供の頃には金木犀の匂いのことを「遠足の匂い」と呼んでいた。

大きな金木犀の木

最寄り駅までの往復の間も、路地裏の至る所に金木犀が咲いていて、なんとも言えない甘く柔らかく、それできてとても鮮烈な匂いを放っている。その匂いが鼻から入り込んできて、海馬から記憶を次から次へと引き出し、懐かしく切ないような気持ちが溢れてくる。

金木犀の花
満開の金木犀

10月の終わりには母や兄弟の命日が続く。生前に母ともよく生家にあった金木犀が素晴らしかったとの話をしていた。母が亡くなる直前には手折った金木犀の花を持っていき、目を閉じで眠っている母に嗅がせたこともあった。母は何度もうなづいていた。

しばらくの間、金木犀の匂いをとことん味わいたい。

猫間英介



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