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散文

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#短編小説

一連

一連

取り留めも無く希望を探す心持ちで、トングをかちかちと鳴らす。ブルーベリーの青を溶け込ませたベーグルが、昔飼っていた犬に似ていた。名前はミゲルだった。外国の犬種だと聞いて、当時の知識を総動員して、おしゃれな響きの名前をつけたような覚えがある。進めば、床のタイルが禿げてざらざらになったところが、クロックスのかかとに引っかかる。ベーグルが揺れて、咄嗟に庇う。ミゲルはフリスビーが苦手だったから、結局俺が近

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反芻

反芻

名久井が指差したのは、積もった埃が形を成したような雑居ビルで、思わず怯んだ。階段の一段ずつに足跡が、それは新しく、残っていた。鉄の凹凸を見る。何度も、何度も通り過ぎた人がいるという形跡が、登った先に店があるという確信へ姿を変えたとき、異様に怖かった。場所も、勝手に他人に暴かれる自分自身のことも。別に気づいて欲しい訳ではなかった。誰かに伝えておきたいなら、もうとっくに心の内から溢していたはずだった。

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あぶら

あぶら

 振り返ってみれば、小原はいつもぎこちなかった。ぎこちないというのは、主に立ち振る舞いについてだが、広義なら小原の生活そのものを指していた。大きく出っぱった額には、常に汗をじったりと滲ませて、それを隠すように長い髪を伸ばしていた。
 電車を間違えた、と連絡が来る。僕は改札の前で待つのをやめて、駅に併設する小さな本屋に入った。新刊のコーナー、文芸書、建築雑誌を眺める。本屋への興味が尽きかける瞬間に、

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犬

犬だ、とオカジは言いました。

思い返せば、犬を見たのは久々のことでした。視力の弱いわたしにとって、その姿はゆらめく黒点のようにしか見えませんが、オカジが犬だというならきっとそれは本当でした。なぜならオカジは、わたしを一度も騙そうとしたり、馬鹿にしようとしたことが無いからです。きっとどんな親友でも、恋人でも、お互いに暗く閉ざした過去を持ち合わせているでしょうが、ずっと二人一緒に育ち、おなじ数のアブ

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斑点とグレープフルーツ

斑点とグレープフルーツ

なんでだか、シャツには小さな染みがある。
どうやっても思い出せない、今日じゃないかも、この間かも。絵の具を筆でとばしたみたいな、ちいさい染み。

私がそんなことで悩んでいてもみんなは変わらない。だってほら、朝陽ちゃんは今日もキラキラしている。眩しく笑っている。私から「アサちゃん」を奪ったのに、よく笑っていられるものだ。きっと朝陽ちゃんのシャツには、染みもシワも、ほつれも伸びも、何一つないんだろう。

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知らない森

知らない森

いや、その、結構早めに家を出ようと思ってたんですけど、あのーなんでしょうなんでしたっけアラ、アラート、じゃなくてアラームだ笑、あれ逃してて、音小さかったんですよね。それで、あ、ヤバいなー笑、と思って、とりあえずシャツ着て、パンツ履いて、あ、僕裸族なんですよ、だから寝るときとか家の中とか大体裸で、でも靴下は履くんですけどね笑、裸足って汚いじゃないですか笑 …なんの話でしたっけ、あ、そう!それで急がな

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