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激寒フレーズの名手・太宰治

太宰治の作品には、「激寒(げきさむ)フレーズ」とでも呼ぶべき、虚しい響きを持った言葉が登場する。

『人間失格』では、しがない漫画家となった主人公・葉蔵の連載作品のタイトル、「キンタさんとオタさんの冒険」が激寒である。冒険物のはずなのに全く格好よくないタイトルだ。「キンタさん」はまだしも「オタさん」とは? そもそも何故、さん付け…?

また、同じく葉蔵の漫画作品「セッカチピンチャン」。彼の幼い娘が、飼い始めた兎のことを「セッカチピンチャンみたいね」と母親に言う場面の内輪ネタ感がなかなか虚しい。兔と戯れる妻子の幸せそうな姿を目にした主人公は、何故かそのまま二人の元を去ってしまう。

『斜陽』からは、「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」。主人公・かず子が惚れた、妻子持ちの作家が開く飲み会で流行っている謎の掛け声である。人生の落伍者たちの無駄な陽気さが虚しい。「ギロチン」だから、メメント・モリ的な意味もあるのだろうか。「シュルシュルシュ」はギロチンの刃が落ちる音か。縄の音っぽいので、むしろ絞首台? いや、意味など考えても仕方あるまい。

いずれも、激寒すぎて凍ってしまいそうなフレーズである。

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