読了!村上春樹「スプートニクの恋人」
《粗筋》
22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。そんなとても奇妙な、この世のものとは思えないラブストーリー。
《感想》
滑らかな文章?でサクサク読めた。自分はハッピーエンドが好きだし、もちろん最後はすみれがこっちに帰ってきたと都合良く思ってる。"ぼく"が救われたら良いなと願いながら。
《引用》
すみれは母の顔だちを頭に焼きつけようと努力した。そうればいつか夢の中で母に会うことができるかもしれない。手を握ったり、話をしたりすることもできるかもしれない。(P18)
「君に必要なのはおそらく時間と経験なんだ。ぼくはそう思う」
「時間と経験」とすみれは言って、空を見上げた。
「時間はこうしてどんどん過ぎ去っていく。経験?経験の話なんかしないで。自慢じゃないけどわたしには性欲だってないのよ。性欲のない作家にいったいどんなことが経験できるっていうの?そんなの食欲のないコックと同じじゃない」(P27)
胸の中では心臓が、まるで木の橋を走り抜ける狂った馬のひづめみたいに大きな音を立てていた。(P32)
「どうしてわたしが役に立つってわかるの?」
ミュウはグラスの中でワインをくるりと小さく回転させた「わたしは昔から人を顔で判断することにしているの」と彼女は言った。「それでつまりわたしはあなたの顔立ちと表情の動きが気に入ったの。とても」
まわりの空気が急にすっと薄くなったような気がした。ふたつの乳首が着衣の下で硬くこわばるのがわかった。すみれは手をのばして半ば機械的に水のグラスをとり、残っていた水をひと息で飲んだ。猛禽類のような顔つきをしたウェイターがすかさず背後にやってきて、空になった大きなグラスに氷水をついだ。そのからからという音がすみれの混乱した頭の中で、洞窟に閉じこめられた盗賊のうめき声みたいにうつろに反響した。(P39)
「あなたってときどきものすごくやさしくなれるのね。クリスマスと夏休みと生まれたての仔犬がいっしょになったみたいに」(P80)
(2021/12/11)