読了!朝井リョウ「時をかけるゆとり」
《粗筋》
就職活動生の群像「何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初エッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」 を見た、切なさとおかしみが作裂する23編。
《感想》
愉快で良かった♪
書き方の癖が強くてイラってする部分もあったけど(笑)
《引用》
「君、目がすごく汚れてるね……コンタクトつけっぱなしで寝たりしてない?」
さすが眼科医、お見通しである。私はそのころ「コンタクトをつけっぱなしで朝まで遊んでいること」「寝不足であること」がかっこいいと感じているような、私立おのぼりさん大学の一年生であった。「寝不足で逆に元気」という最も腹の立つ定説を布教していた馬糞のような学生であったため、「そうですねえ~コンタクトつけたままっていう日もけっこうあったりしますねえ~」と頭をかきながら答えた。
…眼科医は甘い声で言った。
『君は愚かだね』(P120)
テレビでよく見る「抱かれたい芸能人ランキング」の「抱かれたい」とは本当に文字の意味のまま「抱きしめられたい」という意味だと信じて疑わなかったあのころの澄んだ瞳を取り戻したい。(P121)
一台、また一台と検問を通過していく中、母もいそいそと免許証の準備をする。そしてついにそのときがきた。「免許証を見せていただいてよろしいですか?」窓から覗く警察官のおだやかな表情。もちろん母もおだやかに免許証を提示する。自分の好きなようにハサミでカットした免許証を。母は検問に引っかかった。当然である。切り刻んだ免許証など検問に引っかかるための黄金カードみたいなもんである。私はこの話を聞いたとき一切笑えなかった。意味がわからなかったからだ。母は「お財布に入れやすい形にしたかったのよ」どや、という感じで理由を告げてきたが、それは私を少し悲しい気持ちにさせただけだった。(P133)
ESとは私の書いてきた文章とは全く違うものであった。情景描写も、比喩も、リアルな学生の会話文も、起承転結も、伏線も、何も必要ないのだ。やめるってよとか言っちゃダメなのだ。与えられた質問に、簡潔に、わかりやすく、指定された文字数以内で答えなければならない。(P219)
(2022/2/7)