スーパー戦隊シリーズ第21作目『電磁戦隊メガレンジャー』(1997)
スーパー戦隊シリーズ第21作目『電磁戦隊メガレンジャー』は色々な意味で「不憫」なイメージのある作品であるというイメージがどうしても付きまとってしまいます。
高寺プロデューサーもインタビューやラジオなどで度々公言してますが、本作はとかく「難産」であり、色々と試行錯誤がなされた過渡期の作品でした。
しかも前後の戦隊がそれぞれギャグに特化した「カーレンジャー」と王道中の王道である「ギンガマン」ですから余計に「地味」な印象が強くなってしまうのです。
歴代戦隊を俯瞰で見直したときに、本作が何か凄い偉業を成し遂げた作品と評価されることは滅多になく、私個人も全然ハマりませんでした。
まあ私の周りでは1つ下の学年の仲良い子達が「ギャラクシーメガ」「久保田のおっさん」とやたらに騒ぎ立ててネタにしていたのはしっていましたが、それくらいです。
その年は私も小学6年生で戦隊ものからは完全に卒業し、ハイパーヨーヨーとかSMAPとかKinkiとか違う方向の娯楽に夢中になってましたし、ゲームも「ポケモン」「FF7」ばっかやってました。
リアルタイムで見たのはメガボイジャー初登場回と最終回近辺の2話くらいで、ぶっちゃけそれで見たときは何が面白いのかさっぱり理解できず「いまの戦隊つまんねえじゃん」で切ったのです。
のっけからネガティブコメントで始まっていますが、それくらい当時は夢中になれる戦隊ではなく、一つ下の学年の子たちが何でこんなものにハマっているのかと理解できませんでした。
その後改めて2011年のYouTube配信で見直すことになったのですが、「メガレンジャー」のいい点も悪い点も気づいたのはこの時であり、意外にも悪くない作品だと気づいたのです。
ただ、その魅力はどうしても外に伝わりにくい大変地味なものですから、そりゃあ子供が見たところで伝わるわけないと思いますし、実際視聴率は高かったものの玩具売上は大幅に下がりました。
そんな本作ですが、改めてその良し悪しについてじっくり考えて語っていきましょうか。
(1)軸足の定まらなかった初期1クール
まずとにかく初期1クールが「可もなく不可もなし」みたいな話ばかりで、もちろんいい回もあったのですが、とにかく初期1クールは作風としてフワフワしてて相当退屈です。
「退屈とはオサラバさ」と主題歌で歌っているくせに「全然オサラバできてねえじゃねえか!」なんて画面の前で突っ込んでました…これなら全然「カーレンジャー 」の方が退屈せずに済みます。
アクションもスーツデザインもメカニックも悪くはないものの、どうにも血が通っておらず無機質で、初期のチープな格ゲー演出もかなりダダ滑りしてて全然心に刺さりません。
健太たちのキャラクターもイマイチ方向性が定まっておらず、強いて言えば久保田博士と健太が比較的わかりやすいくらいで、後のメンツは表情も演技も固くて全然良さがわかりませんでした。
設定面もきちんと詰め切れないまま見切り発車でスタートした感じがあり、例えば主人公たちの基地が宇宙にあるのに普段はデジ研の部室で過ごしているとか、敵側のネジレとの繋がりもよくわかりません。
前作「カーレンジャー」はこの辺り敵も味方も全部「車」で世界観を統一させ、整合性は完璧でしたから、それに比べるとこのメガレンジャーの「調理が中途半端な素材ばっか並べました」感は酷かったです。
メインライターとして起用されている武上純希氏もメカニックはともかくキャラクターのドラマというものがてんで書けない人なので、かなり幸先の悪いスタートになってしまいました。
実際スタッフ側もキャスト側も相当に頭を悩ませていたそうで、そりゃあこんなに売りとなるポイントやその見せ方がわかっていない作品が人気になるわけがないわなと思うものです。
なんでこんなことになったのかというと、高寺プロデューサー自身がそういう正統派の戦隊ヒーローを描くことにまだ乗り気じゃなかったこともありますが、何よりも「オーレンジャー」の大失敗がありました。
あの作品が作り手にも受け手にも示したのはそれまでのスーパー戦隊シリーズの王道は「チェンジマン」までで確立された国家戦争の構図であり、そこから世界観やストーリーを発展できなかったのです。
「ジェットマン」というエポックも結局は80年代戦隊シリーズの世界観の延長線上にありましたし、「ジュウレンジャー」「ダイレンジャー」「カクレンジャー」も結局はファンタジーを隠れ蓑にして現実逃避していただけでした。
だから本当の意味での「平成戦隊のニュースタンダード像」はまだ確立されておらず、やっと本作で21世紀という来るべき時代へ向けた戦隊を確立させようとしていたのです。
とは言え、それを可能にするだけの技量がある脚本家も演出家もまだいない…と思いきや本作に思わぬ強力な助っ人が現れます。
(2)実際に面白くなり始めるのは2クール目から
そんな軸足の定まらないままのんべんだらりと続けていた「メガレンジャー」ですが、実際に面白くなり始めたのは2クール目の16話、小林靖子氏が参加するようになってからです。
実はメタルヒーローシリーズでは1993年の「ジャンパーソン」でデビューし、着実にメタルヒーローシリーズで実績を挙げていた小林靖子女史は2クール目より本格的にこちらへ参戦してきました。
そして戦隊デビューのメインで書いた16話がとても面白く、健太たちメガレンジャーのメンタル面の未熟さや脆さに突っ込みながら、1つのチームにまとまっていく過程を描いているのです。
このエピソードによって、それまで方向性を模索中だった「メガレンジャー」も徐々に「そうか、高校生戦隊としての「弱さ」「人間性」に突っ込んで行けばいいんだ」と開き直っていきます。
役者さんたちもこのエピソード以降キャラを掴んだ演技ができるようになり、また他の脚本家も演出家も「若さゆえの未熟さ」を生かした方向で作っていくようになるのです。
その後6人目の追加戦士・メガシルバーの登場、そしてデルタメガにメガボイジャー、メガウインガーといったパワーアップイベントを経て初期とは別物のように輝き出します。
やっとここで次作「ギンガマン」への手がかりというか、次世代に向けたニュースタンダード像を確立するための方法論を作り手は獲得していくようになるのです。
本当に初期1クールの頃と後半とではメガレンジャーという作品自体も、そして役者たちの演技も演出も見違えるほどになっていますから、元々光るだけのものはありました。
同時にこの「学生戦隊ならではの弱さ・未熟さ」は同じ高校生戦隊の「ターボレンジャー」との差別化にも繋がっており、学生戦隊ならではの個性をやっと本作で打ち出せました。
ここまで8年もかかってしまうのが実にスーパー戦隊シリーズらしいところですが、時間を置いて熟成させてある分、より洗練された形のドラマが可能になったのです。
また、その込み入ったドラマを表現できたのは本作が途中から日曜朝に移行し、ドラマの尺が伸びたことで余裕をもってじっくりドラマを展開できるようになったのも大きいでしょう。
こうした試行錯誤の末に「メガレンジャー」はどんどん輝き出していき、やっと長年の暗い闇から抜け出せるようになりました。
(3)ネジレンジャー登場〜終盤までの怒涛の展開
そして本作最大の見所はラスト1クールの壮絶な展開です。悪の戦隊の集大成であるネジレンジャーの登場と終盤での正体バレからの迫害されるメガレンジャーは歴代でも類を見ない壮絶さでした。
ネジレンジャーに関しては銀河戦隊ギンガマン、花のくノ一組、そして暴走戦隊ゾクレンジャーとやってきた悪の戦隊の到達点というべき、素晴らしいキャラクターだったのです。
これは完全にメガレンジャーでも勝てないという絶望感が素晴らしく、そこから一人、また一人と倒していく展開は見ごたえのあるものになっています。
まあそのおかげで後半強化されたはずのサイコネジラーがただでさえ影薄かったのように余計に存在感が消えて無くなってしまっているのですが。
そしてラストの迫害は「ザンボット3」もかくやと言わんばかりの展開ですが、ただ個人的にはこの展開って正直やる必要があったのかは疑問に思います。
迫害される展開そのものが悪いわけではなく、あれだけさんざん迫害させておきながらそこからの和解がきちんと描かれていないのが雑なのです。
「ザンボット3」のあの展開は単に迫害される展開が面白かったのではなく、初期1から仕込みを丁寧に行い、和解に向けてのプロセスも丁寧に描かれています。
しかも、迫害されることによって背水の陣で戦う勝平たちザンボットチームの悲惨さをより強調するためのものだったのです。
その点でいうと、本作は健太たちの行動範囲が基本的に狭く世間一般の人たちの関わりをあまり持っていない為に、メガレンジャーがどういうヒーローなのかという世間の目が描かれていません。
更に、正体厳守に関しても実はメガレンジャーは第2話で敵の見ている目の前で変身しているため、この時すでにネジレジアの連中に正体を知られてしまっているはずなのです。
それにもかかわらず、ずっと正体を探る為にあれこれやっていたヒネラーたちがただ記憶力がないだけのバカみたいになってしまっているのはどうにもいただけません。
この終盤の展開は賛否両論ありますが、私は正直久保田博士とドクターヒネラーの対決はともかく終盤で迫害される展開はあまりにも唐突というか雑すぎてついていけないのです。
これに関しては本作然り「ゴーゴーファイブ」「ガオレンジャー」「ゴーオンジャー」然り武上純希氏がメインライターを務める戦隊の特徴なのですが、この辺りからまあそれは見えていたのかなと。
しかも最終的には「お前たちはそれで幸せか!」と聞かれて何も言い返せなくなっているメガレンジャーの5人が余計に頼りなく見えてしまうので、個人的にはそこも乗り切れなかった理由かもしれません。
まあそもそも健太たちの未熟さがそう簡単に大人のエゴを超えられても困るのですけど、もう少しこの辺りは山場の盛り上がりを考えて欲しかったところですね。
それを終えた後の卒業式のカットと集合写真は悪くなかっただけに、年間の構成さえ完璧であったらなあと思うと、結局今ひとつラストで画竜点睛を欠いてしまったなあという印象はあります。
(4)いまいち個性の薄い変身後のキャラクターとメカニック
これはもう方々言われていることですが、本作は変身前のキャラクターはそこそこ立っているのですが、変身後のキャラクターとメカニックはどうも弱いと言わざるを得ません。
まあ元々メガスーツ自体が歴代で見てもかなりの没個性なスーツデザインであり、本来は着用してもいいものを高校生5人が期間限定で借用しているだけですから、当然なのですがもう少し色気は欲しいです。
まず個人武器とキャラクターの繋がりが薄いですし、ラストのコンビネーションもレッド1人と4人に分かれて同時発射というのがイマイチ一体感のない演出で盛り上がりにかけます。
しかも後半に入るとレッドがドリルスナイパーカスタム・フルパワーを得てしまうのと、メガシルバーが単独で決めることが多いので余計に4人の存在価値が低い感じです。
それから頭にきらめくそれぞれの最先端のデジタル機器はいわゆる「デンジマン」「バイオマン」のオマージュですが、これも全編を通してきちんと使いこなしていたわけではありません。
時たま使われるくらいで物語上の意味づけはなされていなかったので、この辺りはきちんとどういう力なのかを個人武器との差別化も含めて定義づけをして欲しかったところです。
アクションに関しても、あの安い格ゲーみたいな演出はしょぼく見えてしまいますし、銃の効果音も「プチューン」とかでむしろとても弱く見えてしまいます。
単なる一般人戦隊だからということを別にしても、メガレンジャーが歴代最弱と言われてしまうのはこうしたキャラクターの弱さやアクションの無味乾燥具合も原因かもしれません。
それからメカニックも、ギャラクシーメガとメガボイジャーは好きなのですが、デルタメガやメガウインガーは正直必要だったかなあ?と思ってしまうのです。
ギャラクシーメガは中盤でボロボロにやられたものの見せ場を与えていたのは褒められますし、メガボイジャーも初登場から最終決戦までデザイン含めて好きでした。
ただ、デルタメガは最初から合体パーツ要員として出しているので個性は無いも同然で、メガウインガーもただのジェットスクランダー要員です。
この辺りのメカニックの使い分けは「ゴーゴーファイブ」で初めて完成を迎えるのでまだまだ荒削りな感じですが、この辺を詰めたらもっと売れたのではと思います。
(5)「メガレンジャー」の好きな回TOP5
それでは最後にメガレンジャーの好きな回TOP5を選出いたします。
第5位…5話「キメるぜ! これが裏技バトル」
第4位…32話「終わりか!? 絶体絶命ギャラクシーメガ」
第3位…38話「戦慄! ネジレジアの凶悪戦隊」
第2位…17話「すごすぎ!? いけてるスーパーみく」
第1位…16話「激ヤバ! オレたち死ぬのか?」
まず5位はつまらなかった初期1クールの中で数少ない傑作エピソードで、メガレンジャーと久保田博士の結束のエピソードとしてよくできていました。
4位はギャラクシーメガの満身創痍からのメガボイジャー大活躍で、まるで「Gガンダム」のシャイニングガンダムからゴッドガンダムへの乗り換えを彷彿させる名作回です。
3位はネジレンジャー初登場回で、ラスト1クールへ向けて非常に絶望的な展開を仕込んでおり、スタッフとキャストの並々ならぬ覚悟と決意が見えました。
2位はみくメイン回でであると同時に「メガレンジャーとは何か?」を描いた友情回であり、前半の能天気な展開からの落差が素敵な話です。
そして堂々の1位は小林靖子先生のデビューにして本作品を一気に輝かせてみせた傑作エピソードであり、メガレンジャーの内面の弱さに切り込んだ名編です。
本作は正直年間の構成はそこまで上手くないものの、ポツポツ面白い回はあるのでそこを切り取ればいいですね。
(6)まとめ
こうしてみると本作は予想以上に荒削りな、いかにも過渡期の作品という印象が強く、持てるポテンシャをフルには生かし切れなかった印象です。
とはいえ、「オーレンジャー」「カーレンジャー」の後でしたからスタッフ・キャストが悩んでしまうのも仕方ないといえます。
そんな内外の圧力に揺らぎつつも、ラストで尻上がりにボルテージを高めていってきっちり面白く仕上げて見せたのはお見事でした。
本作がここまでやってくれたからこそ次作「ギンガマン」というニュースタンダード像を万全の態勢で作ることができたのです。
総合評価はC(佳作)、まだまだ磨けば光る要素を持ち合わせているだけに「惜しい」作品でありました。
ストーリー:C(佳作)100点満点中60点
キャラクター:B(良作)100点満点中70点
アクション:D(凡作)100点満点中50点
メカニック:C(佳作)100点満点中60点
演出:D(凡作)100点満点中50点
音楽:B(良作)100点満点中70点
総合評価:C(佳作)100点満点中60点
評価基準=SS(殿堂入り)、S(傑作)、A(名作)、B(良作)、C(佳作)、D(凡作)、E(不作)、F(駄作)、X(判定不能)
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