『侍戦隊シンケンジャー』論考第一幕〜シンケンジャーの七人の侍たちを4タイプ×3種類に分類してみた〜
今回から数回に渡って『侍戦隊シンケンジャー』に関する論考を書いていこうと思いますが、今回はその第一弾として昨日お試しとして書いた「4タイプ診断」で分類してみます。
細々とした感想や構成の分析は既に更新停止したブログの方に上げているのでそちらを検索してご覧ください。
それではどうぞ。
<侍戦隊シンケンジャーメインキャラ分類>
(カッコ内の数字は「精神的成長」の段階。マズローに例えるとレベル1は安全的欲求(個性が定まっておらず未成熟)、レベル2は社会的欲求(基本的人格が完成し土台が出来上がっている)、レベル3は承認欲求(周囲との調和が取れた完璧超人)、レベル4は自己実現欲求(生死の概念を超越し達観した人外魔境)となる)
軍人タイプ
外向軍人 : シンケンレッド/志葉薫(3)
純粋軍人 : なし
内向軍人 : シンケンレッド/志葉丈瑠(2→3)
王様タイプ
外向王様 : なし
純粋王様 : シンケンゴールド/梅盛源太(2→3)
内向王様 : なし
職人タイプ
外向職人 : シンケンピンク/白石茉子(2)
純粋職人 : シンケングリーン/谷千明(1→2)、シンケンイエロー/花織ことは(1→2)
内向職人 : なし
学者タイプ
外向学者 : シンケンブルー/池波流ノ介(1→2→3)
純粋学者 : なし
内向学者 : なし
シンケンレッド/志葉丈瑠(内向軍人、レベル2→3)
「侍=戦国時代における軍人」と解釈した場合、その定義に一番近いのが殿様と終盤に出てくる姫様ですが、彼はその中でも陰性が強く家臣たちも含む他者との壁があるので内向軍人であろうと判断しました。
能力的には冒頭から既に完璧超人ではあり基盤が完成しているものの精神面では物語終盤まで揺れている節があり家臣たちとも心の距離があったのでレベル2、それがなくなり真の当主になった最終決戦でレベル3に到達しています。
小林靖子脚本で見ると彼に近いのは最初黒騎士ブルブラックか黒騎士ヒュウガのどちらかだと思いましたが、生い立ちなどから考えるとむしろタイムファイヤー/滝沢直人の系譜にあって、「なるほど」と納得しました。
基本的に戦闘面でもプライベートでも正論しか言わないし最後のドウコクを倒す時の作戦も「力尽くだ」と言っているように、根本的に「レベルを上げて物理で殴る」のが姫様と同じなのでとにかくストイックです。
その為職人タイプの千明・ことは・茉子辺りと相性が良いのですが、中でも外向職人の茉子とは長期の相性がとてもよく、劇中だと実際に茉子が丈瑠をリードしていていい感じで、このカップルの二次小説も沢山ありました。
逆に学者タイプで忠義心が暴走気味だった流ノ介や幼馴染にして親友の王様タイプである源太とは長期の相性で見るとそんなにいいわけでもありませんが、実際劇中でもそんなに波長があってる感じがあまりないので違和感はありません。
シンケンブルー/池波流ノ介(外向学者、レベル1→2→3)
とにかく徹底して生真面目・ストイックであることからてっきり殿様や姫様と同じ軍人タイプかと思いましたが、物言いや考えが理屈っぽく侍合体のマニュアルを考えたり、終盤でも作戦立案をしていたのは彼なので学者タイプだと判断しました。
その中でも責任感が強く自分ではなくチームのことを考えて動いていたので外向学者、小林靖子脚本の系譜ではギンガグリーン/ハヤテを天然熱血風味に仕立てた感じであり、初期はとにかく暴走機関車で周囲が見えていなかったのでレベル1です。
第七幕でそんな殿への忠義心が親からの洗脳・押し付けではなく「あの殿だったら命を預けて戦える!」と言い、更に中盤での歌舞伎役者としての未練を消化したことで人格の基盤が完成してレベル2へと成長しました。
そして終盤では殿を一回だけ「志葉丈瑠」と呼び捨てにするシーンがあり、ドウコクとの決戦では作戦指揮を取った上でドウコクの一の目を倒す確変を見せたので一気に完璧超人(レベル3)となったのです。
面白いのは彼って他の戦隊だったら間違いなく二番手のクールな参謀キャラなのですが、そこを戦隊レッドのような熱血風味の成長物語に仕立てて殿様と好対照を成すように描いていたところでしょうか。
間違いなく精神面でも実力的にも一番成長したのは流ノ介であり、皮肉にも千明が口にしていた「丈瑠を追い越す」という目標は流ノ介がそれを先にやってしまった形であり、また長期の相性が一番いいのが源太というのもその通りですね。
シンケンピンク/白石茉子(外向職人、レベル2)
将来の夢が「普通のお嫁さん」などの「等身大の女の子っぽさ」に憧れている感じなので、茉子の明るさは源太と違い生来のものではなくそうあらんとするところから出るので外向職人タイプだとすぐにわかりました。
その為殿様に次いで初期から既に自分の形ができていたのでレベル2で、第三十四幕でその理由が「親の愛情が欠落しているから」という、いわゆる「アダルトチルドレン」であることが判明しています。
この造形に近いのはそれこそ「デジモンアドベンチャー(1999)」の武之内空なのですが、満たされない内面の空虚さを他者に優しくしたりチームとしてのサポートに徹することで満たそうとする辺り本質はとんでもなく我儘な甘えん坊です。
その原因自体は解消して薄皮太夫との因縁もあったのですが、殿や流ノ介と違ってそこから更に次のステージである完璧超人(レベル3)には至っていないので、実は彼女の精神面は全くと言っていいほど成長していません。
長期の相性が良いのは実は内向軍人の丈瑠であり、打ち解けてきた中盤以降は何かと悩みがちな殿を茉子が親身に寄り添って支えていたので、茉子が殿をリードする形のカップルとして二次小説がたくさん有ります。
逆に外向学者の流ノ介や純粋王様の源太、外向軍人の姫との相性は可もなく不可もなしなのは劇中でそうでしたし、同じ職人型の千明とことはとはすぐ打ち解けるけど然程仲が深まらなかったのも本当にその通りでした。
シンケングリーン/谷千明(純粋職人、レベル1→2)
「丈瑠を追い越す」という自分なりの指針を持って動いており他人の目を気にしている感じがなく、外向的でも内向的でもないのでことはと同じ純粋職人タイプであるとすぐにわかりました。
最初はそんな職人タイプの第一段階である「怠け者」が描かれていたのが指針が定まったのが第三幕、そこから内面が掘り下げられて精神面がチームへと向き始めたのが第二十一幕なのでレベル2です。
しかし、そこから終盤に向かってもう一歩踏み出して自分の力をチーム全体に還元して完璧超人(レベル3)の領域に到達するには至っていないのがどうしても物足りないというか食い足りません。
理由としてはまず千明自身が大学受験を放り投げてきている現役高校生である為未成熟な若者に過ぎないことと、後半から終盤に少年から大人へ変わるような劇的なイベントがないからでしょう。
そこが同じ小林脚本の似た造形であるギンガイエロー/ヒカルとの最大の違いで有り、そこを後1話か2話ほど使って描けていれば結果は違っていたのではないかなあと惜しまれるところです。
相性で見ていくと同じタイプのことはとは可もなく不可もなし、茉子とはすぐに打ち解けるけど仲は深まらないというのもその通りでしたね、逆に憧れを抱くのが純粋王様の源太というのもその通りでした。
シンケンイエロー/花織ことは(純粋職人、レベル2)
「殿様の役に立たなあかんから」と早くに自分なりの指針を持って動いており他人の目は全く気にしておらず、外向的でも内向的でもないので分類としては千明と同じ純粋職人タイプです。
また、第二幕のラストで殿から「お前は強かった」とそこを評価されていたので既に自己が確立していたので精神面はレベル2ですが、そこから次の段階に至っていないのが難点でした。
第四十一幕ではずっと心残りであった「病欠の姉の代理」という精神的弱点を克服し、それは良かったのですがそこからもう一歩進んだ完璧超人(レベル3)に至る話があっても良かったのでは?
同じ小林脚本でいうと千明とことはは「ギンガマン」のギンガイエロー/ヒカルとギンガピンク/サヤのリトライなのですが、結果としては既定路線以上のキャラの深まりと化け方がなかったのが残念です。
サヤとの違いでいえば「姉の代理で戦士をやっている」というギンガレッド/リョウマが持っていた設定を形を変えたことで芯の部分が強いということだけは伝わってくることなんですが。
相性で見て行くと源太に憧れを抱くというのは劇中でもその通りでしたし、丈瑠との相性も悪くはなく茉子とは第十三幕を見ればわかるようにすぐに打ち解けますが大して深まらなかったのでその通りでしたね。
シンケンゴールド/梅盛源太(純粋王様、レベル2→3)
あの初登場時のハイテンションを見ればわかるようにムードメーカーなので王様タイプであり、積極的なので外向かと思いましたがあんまり主導権を握りたがらないので純粋王様だと判断しました。
学者タイプの流ノ介は「侍というより職人だな」と評していましたが、どっちかといえば職人気質は茉子・千明・ことはなので源太は職人的な資質もある王様タイプではないでしょうか。
居合の剣術も含めた自分のスタイルや「電子モヂカラ」なども確立していて明るかったのでレベル2、そこから終盤で殿様や姫様の為などチーム全体に力を役立てるように成長したのでレベル3という結果に。
同じ小林脚本の系譜で見るとギンガレッド/リョウマやタイムレッド/浅見竜也などの主人公キャラの系譜なのですが、それを敢えて追加戦士枠に持ってきたのが本作の妙味です。
実際彼が来てから画面にも明るさと華やかさが増し、メインの5人にも笑顔が増えてますが、その取っ掛かりとして長期の相性が一番いい流ノ介と組ませたのが良かったのでしょうか。
内向的な丈瑠との相性はまあ悪くはないのですがイマイチ噛み合ってない部分もありますし、千明やことはからは憧れの目を向けられるというのもその通りに描かれていました。
シンケンレッド/志葉薫(外向軍人レベル3)
終盤で満を持して出て来た「本物の志葉家十八代目当主」というだけあって、清々しいくらいに古典的な外向軍人レベル3として描かれており、弱冠15歳であの貫禄と威厳は恐れ入りました。
本人は「私は丹波のせいですっかりこんな感じだ」と時代錯誤な軍人思考を丈瑠に向かって嘆いていましたが、きちんと自覚があるだけマシな方で無自覚でタチ悪いのになるとマトイ兄さんみたくパワハラ気質になってしまいますから。
まあ軍人タイプなだけあって丈瑠共々正論しか言わない、家臣たちの複雑な気持ちをイマイチ理解しきれておらず自責の念に駆られる短所も描かれていましたが、その分丹波が姫の嫌味な部分を代行してくれていました。
小林脚本の系譜で一番近いのは「ギンガマン」の黒騎士ヒュウガでしょうが、ヒュウガが既に完璧超人(レベル3)を通り越した人外魔境(レベル4)だったのに比べるとやはり人間的にも戦士としても荒削りに見えてしまいます。
また、自分の封印の文字がドウコクに効かないからと嘆くのではなく、丈瑠を十九代目当主に立てて、また自らが開発した強力な火のモヂカラのディスクを託したのも見事ではないでしょうか。
相性的に一番いいのは実は純粋職人の千明とことはですが、ことははともかく千明が「嫌な奴だったら良かったのにな」というのを見ると、長期的には相性が良さそうとは思いました。
チームカラーの分析と個人的見解
見ていただければわかると思いますが、初期メンバーが軍人・職人・学者しかいないのでまあとにかく堅苦しくて暗い!(笑)
本当にムードメーカー系が一人もおらずにメンバーの潤滑油となるべきタイプが十七幕まで現れないのでそりゃ初期1クールが異様にギスギスするわけですよね、源太は今考えると貴重な癒しです。
まあその分を最初はやたらハイテンションな流ノ介や純真無垢なことはがカバーしようとした感はあるものの、職人タイプと学者タイプなので生来の明るさではなく意識的にそうあろうとしている偽物の明るさでした。
それで茉子は本質的には物凄く我儘な甘えん坊で千明は都会の擦れた今風の若者、そして肝心要の丈瑠が堅苦しい上に内向的で根暗な軍人という絵に描いたような社会不適合者なので、非常にややこしいです。
有名な逸話ですが、小林靖子さんは最初殿をリョウマや浅見竜也みたいな純粋王様タイプとして描こうとしたのを、宇都宮孝明Pの意向で根暗なタイプに変更したそうで、つまり全ての元凶は宇都宮P(苦笑)
まあただ、その不足していたムードメーカー分を思い切って追加戦士枠の源太に回したのは終盤までやや浮き気味だったとはいえ正解ではあり、その彼もちゃんと劇中で成長はしています。
その上でメンバー全員の精神的成長を見ていく時、姫を一旦除外して考えると実は完璧超人(レベル3)まで到達しているのは6人もいる中で殿・流ノ介・源太の3人だけで残り半分は基本的人格の完成(レベル2)で止まってしまっているんですよね。
これが非常にもったいない所であり、なんでこんなことになっているのかを前回の配信を見て2年ほど前に書いた自分の感想も見直してみると、実は前半と後半の総括にて既に書いてありました。
見てもらうと分かりますが、「シンケンジャー」は歴代でも特殊な構成になっていて、物語の導入(1クール目)と最後のまとめ(4クール目)はよくできているんですが、中盤(2クール目と3クール目)が中弛みしています。
特に追加戦士加入からスーパーシンケンジャーのパワーアップなどは玩具販促としてもめちゃくちゃ美味しい筈なのに、そこの処理が小林脚本とは思えないくらい雑に処理されてしまったのが残念です。
また、本来なら2クール目までに終わらせておくべきである流ノ介の歌舞伎への未練(三十二幕)や茉子のアダルトチルドレン設定(三十四幕)やことはの姉の補欠話(四十一幕)を3クール目〜4クール目でやっているのも残念でした。
全体的に大筋である「影武者」というお家騒動を展開するためにそれ以外の話が味付けも含めて雑になってしまっており、「ギンガマン」「タイムレンジャー」の頃に比べるとやはり小林脚本のキレが鈍った感は否めません。
本作が個人的に「最高傑作」と諸手あげて言い切れない理由はまず一番にキャラ分類を見ればお分かりですが、「キャラクターがこちらの想定以上の確変を見せない」ことなのです。
先行投資して語りますと、例えば個人的戦隊最高傑作の『星獣戦隊ギンガマン』はとにかくヒーロー側のキャラ立ちが秀逸で、現時点で算出しているキャラ分類はこのような感じになっています。
ギンガレッド/リョウマ(純粋王様、レベル2→3→4)
ギンガグリーン/ハヤテ(外向学者、レベル3)
ギンガブルー/ゴウキ(内向王様、レベル1→2→3)
ギンガイエロー/ヒカル(純粋職人、レベル1→2→3)
ギンガピンク/サヤ(純粋職人、レベル2)
黒騎士ブルブラック(外向職人、レベル3)
黒騎士ヒュウガ(外向軍人、レベル4)
このように、ギンガピンク/サヤ以外は最終的に全員が完璧超人(レベル3)に到達しており、その中でもリョウマとヒュウガの炎の兄弟は人外魔境(レベル4)の領域にまで到達しているのです。
高寺P自身が「王道中の王道を往く戦隊」としており、小林靖子も「今ギンガマンみたいな真っ直ぐな主人公たちは書けない」と言っていたように、あの当時だからできた「ヒーローとしてのあるべき理想」をとことん追求し叶えた作品でした。
だからこそやはりメイン回を多く貰えたにも関わらず年間のキャラ立ちがうまく回りきらなかったギンガピンク/サヤに物足りなさというか心残りがあって、「シンケンジャー」はその課題を乗り越えてくれるかと期待していたのです。
因みに『未来戦隊タイムレンジャー』のキャラ分類はこんな感じ。
タイムレッド/浅見竜也(純粋王様、レベル2→3)
タイムピンク/ユウリ(内向職人、レベル2)
タイムブルー/アヤセ(内向職人、レベル1→2)
タイムイエロー/ドモン(純粋職人、レベル1→2)
タイムグリーン/シオン(純粋学者、レベル2→3)
タイムファイヤー/滝沢直人(内向軍人、レベル2)
実は「タイム」も精神的成長だけで言えば完璧超人(レベル3)まで成長したのは竜也とシオンだけなのですが、これは「タイム」自体が「ジェット」「カー」「メガ」が描いてきた「未成熟な若者」路線の究極版となっているからです。
個人的にはやはりヒーローは常人にできないことを成し遂げてほしいという思いが強くあるので、それを貫き切った「ギンガ」を見た後ではどうしてもこのハードルを「タイム」「シンケン」は超えられていないという印象が否めません。
更に「シンケン」は歴代でも非常に閉じらた世界観とお話であり、最終的に戦いの規模が世界の運命と言えるレベルにまでは広がり切らないというのがあるので、そこがどうしても物足りないという風にはなってしまいます。
「タイム」でさえ終盤では大消滅という世界の危機を演出してそれを乗り越える話を描いていたのに、「シンケン」はどうにも身内話に終始していて、ドウコクとの決戦もそこまでスケールの大きな戦いには見えませんでした。
「シンケンジャー」を肯定するにせよ否定するにせよ、殆どの視聴者は「キャラが思ったほどの成長・確変を見せない」「話の規模が小さく内輪話に終始してしまっている」というこの2点に引っかかりがあるのではないでしょうか。
まあ宇都宮P自身がそもそも後の「ゴーカイ」「トッキュウ」「ジュウオウ」「ルパパト」と見ていくと分かりますが、既存の戦隊ヒーローに対して斜に構えた作風が多く、一言で言って「ひねくれ者」の印象がありますが。
いずれにせよ「シンケンジャー」を考察・批評していく上でまずこのキャラ分類をはっきりさせたことでより鮮明になぜ最高傑作たる「ギンガマン」を超えられないかがわかったような気がします、足掛かりはつかめました。