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スーパー戦隊シリーズ第14作目『地球戦隊ファイブマン』(1990)

スーパー戦隊シリーズ第14作目『地球戦隊ファイブマン』はついこの間までYouTubeで無料配信やっていて、記憶に新しい作品です。
本作は一応90年代ではあるのですが、作風やスタッフ的には明らかに「80年代戦隊」に分類される作品と見て間違いないでしょう。
曽田博久先生の最後のメインライター作品であり、自身でも仰っていましたが、満身創痍で執筆なさった作品なのだとか…。
しかも次作「ジェットマン」がスーパー戦隊シリーズに革命をもたらした傑作なので、どうしてもその影に埋れて過小評価されがちな作品ではあります。

しかし、本作を俯瞰してみると、意外にも悪くなかったというか、見直すべき点や評価すべき点は多かったのだなあというのを感じました。
まず第一話の立ち上がりの段階は悪くなかったし、後半〜終盤に向けてのテコ入れも面白い方向に転がっていて、これはこれでいいなと。
特に終盤の壮絶な流れは流石に「チェンジマン」「ライブマン」には及ばないまでも前向きなラストとして悪くない出来でした。
それから兄弟で教師という設定も今ひとつうまく生かせてはいなかったのですが、でも間違いなく90年代以後のシリーズに大きな影響は与えています。

ところで、この記事を書きながらつい思い出してしまったのですが、私はリアルタイムでの放送こそ見ていませんが、ファイブマンショーを見に行きました。
その時に学兄さんの中の人と握手してもらった思い出があって、学兄さんだけは今も「かっこいい」と惚れ惚れしてしまうくらいのかっこよさでした。
それから、スーツの胸元の部分がVの字になって少しせり上がっている銀色のパーツがあるのですが、私は当時あの銀色の中にチョコレートが入ってるものと思っていたのです(笑)
なんでそんなアホなことを思ったのかはわかりませんが、まあおそらく当時明治チョコレートが好きで、薄い銀紙の下にチョコが入っていると考えたんでしょうね。

そんなアホなことを思っていた本作ですが、目立って好きな回はないものの、作品としての良し悪しは半分ずつありますので、そこを述べていきましょうか。


(1)歴代初の教師&兄弟戦隊

まず本作の設定ですが、歴代初の教師で5人兄弟という設定ですが、教師という設定はともか「兄弟」という設定はかなり有効な設定と言えるでしょう。
本作の「5人兄弟」というのはチームヒーローとしてわかりやすいですし、実際のちの「ゴーゴーファイブ」「マジレンジャー」に継承されています。
また、「ジュウレンジャー」「ギンガマン」「ニンニンジャー」なども部分的に「兄弟」という設定を用いていたりするので、決して無駄な設定ではありません
まあ本作の場合「兄弟」というよりはどちらかといえば「同僚」「同居人」という雰囲気なので、あんまり「兄弟」という感じがしないのですが。
もう少し弟が兄に甘えるとかいう描写があればいいんですが、ファイブマンってそもそも各自が自立しすぎているので兄弟には見えないのですよね。

それから「教師」という設定ですが、小学校の先生で科目別担当はありえないとかいう現実視点のツッコミはこの際置いておきましょう。
しかし、それを置いておくとしても、そもそもこの「教師」という設定を活かす場面があまりないので、実質死に設定になってしまっているのですよね。
歴代戦隊で「教師」という設定を活かしているのはそれこそ同じ兄弟戦隊の「マジレンジャー」に出てくるヒカル位ですが、あの人はマジレンジャー5人の先生という感じでうまく昇華していました。
しかも、中の人がリアルにその後数学の先生になっているので、本作よりもはるかに「教師」という設定が活きている感じがしてしまうものです。

それから本作で初期に設定されていた「復讐」や「両親との再会」という要素も物語の本テーマと言えるほどのものにはなり得ませんでした
個人的にはもっと学兄さんをはじめとするファイブマンの「弱さ」に突っ込んで掘り下げて欲しかったのですが、曽田先生をはじめ当時のスタッフにはそこまで踏み込めなかったのでしょうね。
ついでに言うと、本作は物語開始の時点で既に復讐をはじめとする心の弱さをもう克服してしまった感じが強く、初期から金太郎飴のように出来上がっているので成長ドラマがありません。
その辺ももっと踏み込んで欲しかったのですが、これはまあ「ジェットマン」以後の戦隊が本格的に取り組んでいく要素なのでこれ以上は追求しないできましょう。

(2)後半にかけておかしな方向に面白くなっていく敵組織

さて、そんなファイブマンが全身全霊をかけて戦うのが銀帝軍ゾーンなのですが、このゾーンという組織も初期は正直ジャシンカ〜ゴズマあたりの焼き直しだという風に見ていました。
ところがこないだまでの配信を見直して改めて気づいたのですが、後半でシュバリエが台頭してからこのゾーンという組織はギャグ方面で面白おかしい方向に変わっていくんですよね。
初期はファイブレッドのライバルとして位置付けられながらどんどん無残な没落を味わい、気づけばただのコメディリリーフと化していたガロアなんてその典型ではないでしょうか。
他にも耽美系ライバルとして台頭しつつ後半蜥蜴(とかげ)のしっぽ切りを食らってしまったシュバリエとか、歴代初の悪の戦隊として名乗りながら妙に派手な散り際だった銀河戦ギンガマンだとか。
特にガロアとシュバリエあたりは初登場がどちらもインパクトがあっただけに「ええ!?そういう方向に転んでいくの!?」みたいな意外性があって、これはこれで面白かったです。

そして何と言っても見直した上で笑ってしまったのが、メドーの正体とそれにまつわる物語としての落とし所ですが、これがもう再配信で見直したときに腹抱えて笑ってしまいました。
まずメドーがそもそも銀河超獣バルバイヤーが作り出したバーチャルであり、しかもかつて好きだった人だったなんて…ええ、今ならバルガイヤーは立派なVTuberですよ。
しかもなぜこんな回りくどいことをしたかというと、バルガイヤーがメドーに惚れ込んでいて、しかしその人と恋人関係になれずストーカーになれなかったからというしょうもない理由です。
さらにそれを拗らせて999個もの星を滅ぼし、地球まで滅ぼして真のバルガイヤーとなってメドーと一緒になろうとしてたのですから、もはやヤンデレとかストーカーとかの領域を超えた何かとしか言いようがありません。

そして、最後にファイブマンに負けた要因がシドンの花によって体内に保管していた死体が浄化されてなくなてしまった…つまり「失恋」が最終的なラスボスの敗因だったのです。
このショボさは一体どうしてしまったのでしょうか?まあバズーの倒し方も大概ギャグ寸前で笑いましたが、バルガイヤーは残念ぶりにおいてバズーを超えてみせましたよ
それこそ、これを超える笑撃のラスボスの倒され方というと他に「カーレン」のエグゾスくらいしかないのですが、まあいろんな意味で面白いラスボスです。
こんな風に初期の構想からまるで期待とは違った方向に転がっていく銀帝軍ゾーンとそのメンバーたちが面白く、後半は別の意味で楽しむことができました。

(3)あんまり活躍できなかったマックスマグマ

さて、その一方で手放しで褒められない、明確な欠点が様々あるのですが、わけても最たるものはあまりにも活躍できなさすぎた巨大要塞ロボ・マックスマグマです。
マックスマグマはいわゆるフラッシュタイタン、スーパーターボビルダーに基づく要塞ロボなのですが、鳴り物入りで登場したのに劇中で2回しか活躍しません。
しかも最後に活躍したのは最終回だけで、バルガイヤーに一方的に蹂躙されたままいいとこなしで終わるという…えーっと、もっと活躍させてあげてください
まあこうなったのも仕方ないんですけどね、玩具が1万超えで値段が高すぎて売れなかったのが原因ですし、しかも他に強敵がいたんですよねこの年。

当時の業界事情をよく知る方はご存知でしょうが、子供向けの娯楽は激戦区で、本作以外にも「勇者エクスカイザー」「特警ウインスペクター」という競合番組があったんですよ。
しかも、年末商戦になると任天堂のスーパーファミコンがやってきて、子供達の人気は完全にそっちに持って行かれて東映特撮も勇者シリーズも完敗だったのです。
おかげでマックスマグマは大量の在庫売れ残りが発生し、製作陣としてもやけくそになってあのような雑な扱いになってしまったのだとか…気持ちはわかるけど、もう少しいたわってあげてください。
まあただ、そのおかげでマックスマグマではなくスーパーファイブロボのシャインスパークもどきな体当たりで勝てたというのは面白いラストではありましたけど。

本作以後「オーレンジャー」まで要塞型ロボは登場しませんが、この時のトラウマがあって要塞ロボは子供達に受けないというジンクスができたのかもしれません。

(4)「フラッシュマン」の反省点を活かした前向きなラスト

さて、そんな本作ですが、最終回の結末は「フラッシュマン」の反省点を生かしたとても前向きなラストであり、個人的には好感を持てました。
というのも、本作のラストではついに星川兄弟が両親と再会するために宇宙へ旅立っていくというラストで爽やかに締めくくってくれたからです。
これは「フラッシュマン」「マスクマン」のあのやるせないビターエンドを思うと、とてもほっこりするハッピーエンドではないでしょうか。

フラッシュマン」以後のスーパー戦隊シリーズでは「敵を倒して平和を守る」以外の内的(=私的)動機が盛り込まれていました。
その1つが「生き別れとなった肉親との再会」であり、フラッシュマンの5人は反フラッシュ現象によってそれを果たすことができずに終わったのです。
しかし、本作ではその反省を踏まえて「5人兄弟」にすることによって星川家の両親だけを出せばよく、再会に向けて期待感で終わらせることができました。
これが何と言っても前作までで乗り越えられなかった「ヒーローは幸せにはなれない」というジンクスを打ち破った瞬間ではないでしょうか。

この前向きなラストは同時に「ヒーローが帰還すべき日常」が初めて示された瞬間でもあり、昭和戦隊から平成戦隊への橋渡しを行ってくれました。
その意味でもこのハッピーエンドには大きな意味があったのではないでしょうか。

(5)まとめ

本作は俯瞰して見直してみると、世間の評価とは違い意外にも後味の悪くない作品であったとは思います。
もちろん曽田先生をはじめ当時の戦隊シリーズの限界も露呈していたことは否めませんが、決して単なる失敗作ではないでしょう。
この作品があったからこそ「ジェットマン」以後の変革も可能になったわけですし、後半〜終盤で持ち直したのは間違いではありません。
その辺りも込みで評価して、総合評価はC(佳作)、磨けばまだまだ光る可能性を秘めた作品というのが妥当ではないでしょうか。
そしていよいよ次作は「ジェットマン」、ここからのスーパー戦隊シリーズはもう筆が乗ってくること間違いなしです。

  • ストーリー:C(佳作)100点満点中60点

  • キャラクター:D(凡作)100点満点中50点

  • アクション:D(凡作)100点満点中50点

  • カニック:B(良作)100点満点中70点

  • 演出:C(佳作)100点満点中60点

  • 音楽:A(名作)100点満点中80点

  • 総合評価:C(佳作)100点満点中62点

 評価基準=SS(殿堂入り)S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)X(判定不能)

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