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スーパー戦隊シリーズ第3作目『バトルフィーバーJ』(1979)
スーパー戦隊シリーズ第3作目『バトルフィーバーJ』はシリーズの中でも割と微妙というか、個人的には「変」だなと思う位置付けの作品です。
いわゆる「スーパー戦隊シリーズ」としての概念やお約束・文法がまだ固まりきっていない時代の作品なので、自由に冒険ができたのでしょう。
なので「戦隊」というよりは「日本版のアメコミヒーロー」という感じで、実際マーベルコミックから版権を買い取って実写化したのが本作のようです。
テイストとしては「ゴレンジャー」「ジャッカー」よりはむしろ「スパイダーマン」に近く、シリーズ初の人型巨大ロボが登場するのも「スパイダーマン」から継承しています。
魅力を語る前の特筆すべきポイントとしては平成初期に入るまで、少なくとも「ジュウレンジャー」辺りまでの時期はスーパー戦隊シリーズ第1作目として扱われていました。
そのため、昔の戦隊ファンにとって偉大なる原点は「ゴレンジャー」ではなく「バトルフィーバー」だったのですが、しかし今となっては「ゴレンジャー」が原点で良かったです。
だって、こんな奇抜な格好した珍妙なコスプレ集団が偉大なる大先輩だと言われても、ファンの納得度は微妙なところではないでしょうか。
何より次作「デンジマン」で正式にスーパー戦隊のシリーズ化の歴史が本格化していくので、その前の実験台というか叩き台みたいなところはあります。
今回の記事ではそんな本作の魅力について、改めてじっくり振り返ってみましょう。
(1)いまいちやる気のないサラリーマン!?
まず本作の特徴はヒーロー像の独自性にあり、79年にして既に「いまいちやる気のないサラリーマン戦隊」という、後の「激走戦隊カーレンジャー」に繋がるキャラ設定がここであったことです。
国防省とFBIのメンバーから選りすぐりのエリートをかき集めて結成されたプロ集団という点では「ゴレンジャー」「ジャッカー」の上意下達方式の組織設定を抑えていると言えます。
しかし、蓋を開けてみるとメンバーはまあ普段はのんべんだらりとしていて、ディスコパーティーで踊り狂うわ昼間からパチンコやインベーダーゲームをやってるわとやりたい放題です。
比較的真面目というか勤勉なキャラとして描かれているはずのバトルジャパン・伝正夫ですらみんなの輪に混じってゲームをしたり、ある回では「やめてくれー!」なんて素っ頓狂な声を上げたりします。
勿論全くやる気がないわけではなく、エゴスの襲撃があったと見るや否や血相を変えて飛び出していき、全力で任務に当たるのですから、終始ふわふわとしているのではなく締めるところではビシッと締めます。
そんな戦隊なので上司である倉間鉄山将軍からも時々雷が落ちるのですが、かといって彼らの態度が根っこから改まるわけではありません。戦いにおいてはあくまでも自主的にやる気を出して戦うのです。
それは変身後のキャラクターにも個性として現れており、日本版アメコミヒーローとして作られた彼らのスーツは他の戦隊と比べても統一性がなく、傍から見ると珍妙なコスプレ集団にしか見えません。
しかし、変身前にディスコパーティーなどで習得した「ダンス」という要素を変身後のアクションとして盛り込むなど、一風変わったアクションは少なくとも前半ではそこそこ機能していました。
中でも印象的だったのは物語中盤で描かれる総集編も兼ねた回のことで、バトルフィーバー隊が連戦連勝で勝ち続けているからと、余裕をかましてインベーダーゲームを遊び呆け、結果としてエゴスに大敗します。
その時に倉間鉄山将軍から叱責を食らうのですが、このあたりのエピソードで既に「力が強いものが陥る油断・自信過剰」といったヒーローならではの弱点をしっかり描いていたというのは好印象です。
そしてそれが有効なのはバトルフィーバー隊の持つ「戦闘能力はピカイチでも、精神面ややる気に難のある今時の若者たち」という設定だからこそではないでしょうか。
5人の武器を組み合わせたペンタフォースという必殺武器もゴレンジャーストームやジャッカーコバック、ビッグボンバーとは違った形の団結の象徴として使われていて面白いところでした。
個人的にはあまり思い入れがあるキャラはいないのですが、強いて言えばやはり倉間鉄山将軍とバトルジャパン・伝正夫のキャラクターは本作の中でまあまあの良キャラだったと思います。
まず倉間鉄山将軍はエゴスの幹部相手でも日本刀一本で渡り合ってみせるという、シンケンジャーの侍たちもビックリの超人ぶりを見せており、「サンバルカン」の嵐山長官や「チェンジマン」の息吹長官と並ぶ武闘派です。
また伝正夫に関しては、最初は「ゴレンジャー」の海城や「ジャッカー」の桜井のような厳しく頑固なリーダーかと思ったのですが、メンバーと一緒に弾けたり遊んだりするのが好きなのが意外でした。
そういうコミカルなところでポイントを稼いだお陰で、個人的には「完璧超人と見せかけた三枚目気質のポンコツレッド」という点で天堂竜や明石悟あたりといい勝負してます。
(2)バトルフィーバーに負けず劣らず存在感の濃いエゴス
そんなバトルフィーバー隊と対になるエゴスもまた個性的な集団で、ヘッダー指揮官とサロメが印象的であり、とても個性の強い集団だったと思います。
目的も「世界征服」ではなく「現代文明の破壊」としたことで、現代文明に馴染みまくっているバトルフィーバー隊とうまい具合に対照的な集団です。
ヘッダー指揮官は実は八草の入れ替えがあったのですが、どちらかと言えば潮さんの演じるヘッダー指揮官の方がライトな作風に合っていた気がします。
石橋さんのヘッダーはどうも演技が重いというか、前作「ジャッカー」のアイアンクローのようにシリアスな演技の方が絵になる俳優なんですよね。
そのため、ツッコミとしては面白いものの、バトルフィーバー隊と比べるとやや生真面目すぎて面白みがありません。
それに対して、後半の指揮官であるサロメは歴代戦隊初の女幹部なのですが、いわゆる「セクシー系」ではなく「ガチムチ系」というのが衝撃です。
演じるマキ上田さんはリアルに女レスラーだったそうで、今現在こういうのを出そうとすれば適任者は霊長類最強の吉田沙保里氏くらいしかいない気がします。
いやそれくらいインパクトを放っており、歴代戦隊の女幹部でここまで筋骨隆々な女幹部はなかなかいませんよね…まあいわゆる「隠れ細マッチョ」ならいますけど。
戦闘力としても強く描かれ、最終回辺りまでずっと後半から出張っており、バトルフィーバー隊を何度も苦しめてくれるなど存在感が異様にありました。
彼女がいてくれたからこそ、基本的にライトでコミカルな本作がギリギリのところでシリアスとして引き締めてくれていたのだなと思います。
まあそれすらも持って行ってしまうのが倉間鉄山将軍の大活躍なんですけどねwもう最終回までとにかく要所要所を鉄山将軍が持っていくのはずるいです。
(3)歴代初の巨大ロボ・バトルフィーバーロボ
そして本作の魅力を語る上で外せないのは何と言っても歴代発の巨大ロボ・バトルフィーバーロボであり、これは東映版「スパイダーマン」の巨大ロボ・レオパルドンが大人気だったことを受けてのものです。
変形も合体もしない、そのまま登場する戦隊ロボはおそらくこれが最初で最後なのですが、バトルフィーバーと国際色豊かなのになぜかデザインが日本の将軍という…ええっと、無敵将軍やシンケンオーのご先祖さまですか?
しかも意外なことにロボットの登場まで実に7話も費やしているのですが、これは今現在第一話の段階ですぐに巨大戦までやってしまうくらい玩具販促のノルマがきつい現在だと逆に新鮮に映りますよね。
今のスーパー戦隊シリーズはもう画面から「玩具販促のためにやっていて大変なんです」みたいなアップアップの雰囲気でやっているので、これくらいゆったりな方がかえって落ち着いて見られのが見所です。
合体しないが故の洗練されたフォルム、そしてそこから解き放たれる唐竹割りのかっこよさはもう歴代随一で、今見直しても実に渋いかっこよさがあります。
このバトルフィーバーロボが示してくれた剣技が今でも受け継がれているからこそ、戦隊ロボとの必殺技と言えば剣(刀)というお約束が出来上がったのだとも言えるのですが。
因みにロボットの必殺技が剣というのは本作より2年程前にあった「超電磁マシーン ボルテスV」の必殺武器である天空剣・Vの字斬りが大好評だったからです。
ただまあ、必殺技はともかく普段のアクションはやや重たいので、ロボアクションとして完成されたものかと言われると今日の方がより洗練されてはいるのですけどね。
(4)ややテンションが下がった終盤
ただ、作品として欠点がないのかと言われればそうでもなく、明確に欠点と言えるところもありまして、それが終盤でストーリーや演出の点でややテンションが落ちたことです。
バトルコサックとミスアメリカが後半で役者が入れ替わったこともあって、前半のような陽気な雰囲気が損なわれ何処と無く陰気臭くなってしまったことが挙げられるでしょう。
他には前半で等身大のやつをやっつけたらその兄弟が巨大化して戦うという流れも正直厳しく、また後半になるとアクションからダンスの要素を活かしたアクションが消えていきました。
前半で培っていたバトルフィーバー隊の良さが終盤になると精々バトルジャパンとバトルフィーバーロボ、そして鉄山将軍くらいしかないというのはかなり厳しいでしょう。
また、次作「デンジマン」以降のお約束となっていく「敵組織の内輪揉め」という要素も本作ではまだ見られないので、どうしても「ゴレンジャー」に比べて格落ちしたように見えます。
前作「ジャッカー」みたいに最初から最後までもうどうしようもない泥舟だったのに比べればマシではあるのですが、最後まで各キャラクターやストーリーに愛着を持ちきれないのはやや辛いものがあるのです。
その辺りもまだ本作が過渡期の実験作であり、試行錯誤を繰り返していたということの証左でありましょう。
(5)「バトルフィーバーJ」の好きな回TOP5
それでは最後にバトルフィーバーの中から好きな回TOP5を選出いたします。
第5位…24話「涙!ダイアン倒る」
第4位…33話「ふるさと殺人村」
第3位…5話「ロボット大空中戦」
第2位…33話「コサック愛に死す」
第1位…23話「決戦!! 怪人総登場」
それぞれ軽く説明すると、まず24話はミスアメリカの交代劇なのですが、「ゴレンジャー」に比べて「なぜここで戦士を交代するのか?」の理由付けがしっかりしていてよかったです。
4位はバトルジャパンのメイン回なのですが、箸休めのエピソードではあるものの、伝正夫が意外とハッチャケ好きでラストに「助けてくれー!」と逃げ惑うところとか笑えました。
上位3つですが、まず5話はバトルフィーバーロボ初登場回としての記念すべき瞬間であり、この話があったからこそ戦隊ロボの登場にロマンが生まれたのだといえます。
2位はバトルコサックの死亡回、これはもうバトルフィーバーファンなら誰しもがトラウマになること必至でしょう…上原正三の黒い部分が露骨に出た回です。
そして1位はバトルフィーバー隊の弱点と総集編を兼ねたチームアップエピソードとして描かれた23話であり、例え強いチームでも油断や慢心はいけないと戒めてくれています。
(6)まとめ
シリーズ3作目となる本作は「スーパー戦隊シリーズ」というよりも「日本版アメコミヒーロー」という印象が強く、粗削りな面があります。
前半で生かされていたはずの要素が後半で大方雲散霧消してしまうのはよろしくなく、どうしても終盤戦で物語として格落ちした感じです。
そのためどうしても耐久年数が過ぎていて現在には通用しない部分も多いのですが、それでも前半でかなり大きな点数を稼いでいます。
何より本作で色々と実験的に遊んだからこそ後発の戦隊シリーズも色々遊べているわけで、決して無駄な作品ではありません。
総合評価はB(良作)に今一歩手が届かないC(佳作)となるでしょうか。
ストーリー:D(凡作)100点満点中45点
キャラクター:B(良作)100点満点中70点
アクション:C(佳作)100点満点中60点
メカニック:C(佳作)100点満点中60点
演出:C(佳作)100点満点中65点
音楽:B(良作)100点満点中70点
総合評価:C(佳作)100点満点中62点
評価基準=SS(殿堂入り)、S(傑作)、A(名作)、B(良作)、C(佳作)、D(凡作)、E(不作)、F(駄作)、X(判定不能)