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スーパー戦隊シリーズ第40作目『動物戦隊ジュウオウジャー』(2016)

スーパー戦隊シリーズ第40作目『動物戦隊ジュウオウジャー』は前作「ニンニンジャー」のおぞましい大失敗に比べて、かなりおとなしめの作風となっています。
シンケンジャー」「ゴーカイジャー」「トッキュウジャー」で実績を着実に出していた宇都宮Pに初メインライターとして抜擢された香村純子氏のコンビです。
40作目という「記念(アニバーサリー)」の年なのにあまりお祭り感がなかったのは、下手を打って前作のようなヘマをやらかさないようにするためでしょう。
ただまあその分中盤で「ゴーカイジャー」の面子とのコラボ回があったので、その辺で一応「記念」という感じは出しているのですけどね。

そんな本作ですが、キャストが主演の中尾暢樹氏をはじめ演技力とビジュアルの双方でクオリティの高いメンバーが揃っており、更に村上幸平氏や寺島進氏などのベテランもいます。
ストーリーやキャラクター、世界観などの設定にも破綻らしい破綻はなく、作風としても年間の段取りを重視した大河ドラマ方式の作品となりました。
追加戦士に初の躁鬱を抱えたみっちゃんを用いたり、死のゲームを行う敵組織デスガリアンなど、いわゆる王道系の路線として作られています。
ただ、スーパー戦隊でいわゆる子供向けの王道系が「ゴーオンジャー」は合格ラインとしても、「ゴセイジャー」「キョウリュウジャー」とどっちも大失敗に終わったのです。

そういうこともあって、私は「本当に大丈夫かなあ?」と本作を危惧しており、蓋を開けて見るまでは正直心配でたまりませんでした。
結果から言うと、それは杞憂に終わったのですが、かといって諸手挙げて「これは凄い!」と唸るほどの凄味がある傑作でもなかったのです。
それは単なる好みの問題だけではなく、どうしても求めるハードルが高くなり過ぎているというのもあるからかもしれません。
ましてや、香村氏が描くレッドやキャラクターがどうしても全盛期の小林女史が手がけていた作品群と酷似していたというのもあります。

例えていうなら、大ホームランではないけど上手く部分点を稼いで、その結果何とかギリギリ及第点に至ったという印象です。
その理由について、いい部分と悪い部分を分析しつつ、本作の特徴や魅力ついて評価していきましょう。


(1)「ジュウマン」という設定とキャラクター

まず本作の特徴・世界観を大きく規定しているのは「ジュウマン」という歴代初の設定とジュウオウジャー6人のキャラクターにあるのではないでしょうか。
本作で打ち出された「ジュウマン」はいわゆる「555」のオルフェノク怪人体や「トッキュウジャー」の虹野明が持っていた怪人体ザラムとビジュアルの表現としては似ています。
その上で面白いのはいわゆる動物が持っている特性や能力を人間が進化の中で体の中に持っているという設定で、これは歴代でも前例のないことでした。
過去作でアニマルアクションというと「ギンガマン」「ガオレンジャー」が特徴的ですが、これらはあくまでも「変身後」のキャラとしてのみアニマルアクションを用いているのです。

本作のジュウマンはそうではなく、ジュウオウジャーの変身前のキャラクターとしてそれが用いられているので、動物の力を取り込むというガジェットは異世界の表現として見事でした。
また、それが現代社会で暮らしている「人間」である風切大和や門藤操とジュウマン4人との差別化にも繋がっており、年間のドラマを通して面白い設定です。
それゆえに大和先生とジュウマン4人の価値観の違いも描かれており、ジュウマン4人が好き勝手な連中である分大和先生が近年の戦隊でも稀に見る好青年として描かれていました。
大和先生のキャラクターはそれこそ初期の小林女史の傑作である「ギンガマン」のリョウマ、「タイムレンジャー」の竜也のような好青年レッドの発展系と言えるでしょう。

ただし、その2人と違うところはあまり余裕がなさそうにしているところであり、いつも仲間のことで胃を痛め、宇宙海賊に振り回され、さらには父親との確執でまた悶々とするのです。
歴代の中でも相当な苦労人気質のレッドなのですが、リョウマや竜也がとてもメンタルが強かったことを思うと、大和先生のメンタルってかなり繊細すぎて壊れないか心配してしまいます。
基本的にやることなすこと空回りして、あのいまいち報われない感じは個人的に「テニスの王子様」の大石秀一郎の空回りぶりを見ているようで、それはもう楽しんでましたよ。
戦闘力的には最終的にジュウオウホエールを手に入れたことで最強クラスになるのですが、メンタル面は本作でもかなり難がある人だったのではないでしょうか。

まあそんな苦労人気質の大和先生の好演もあって、本作は1年間安心して見ることができたのですが、一方でこのキャラクター造形には不満も感じています
というのも、ジュウオウジャーの5人って優等生気質が過ぎるというか、大和先生が常識人すぎるのもあるんでしょうけど、大人しすぎてガツガツした部分が足りないんですよね。
爆発力が足りなというのか、ヒーローとしてがツーンと前のめりに行くとか怒るとか、もっとどんどん前向きに行ってほしいなあという風にも思ってしまったのです。
リョウマや竜也はその辺の思い切りがいいというか、多少なり葛藤はしても前のめりに行くときは行くので、それが見ていて気持ちよかったので、大和先生はその辺が物足りません。
だからこそ、ジュウオウジャーは「本能覚醒!」をキャッチフレーズとはしているのですが、個人としてもチームとしてもいまいちヒーローとしての爆発力に欠けています

(2)あまり威厳のない敵組織とラスボス

2つ目に、敵組織のデスガリアンがあまり脅威感や威厳がなく、そもそも「ゲーム」という感覚で戦っているという設定自体が微妙でした。
ゲーム感覚で戦っていた敵組織というとボーゾックが連想されますが、ボーゾックはゲーム感覚で星1つを簡単に花火にしてしまうギャグ組織ならではの恐ろしさがあります。
たとえ仲間が死のうが知ったことではないという想像力の欠如した連中であり、かと思えばエグゾスに利用されていたと知るや否や簡単に手のひら返しでカーレンジャーと和解するのです。
ただし、ボーゾックの場合はあくまでも浦沢ワールドの世界観だからあのキャラクターでも許されたわけですし、またそのギャグが通るだけの下地はちゃんと作られていました。

それに対して本作のデスガリアンはいわゆるグロンギのようなシリアスな組織として描かれておきながら、その実グロンギほどの迫力や脅威はありません
第1話で幹部連中の1人が死んでしまいますし、ラスボスのジニスに関しても最終的にはメーバの集合体というオチも拍子抜けで、あまりにもハードルが低すぎるのです。
確かにラスボスが雑魚の集合体という設定にしておけば、その正体が判明した時にジュウオウジャーが倒しやすくなりますから、それ自体は否定しません。
しかし、だからといって最初からそんな風にハードルを低く設定していては、物語としての志が低いと思われてしまいますし、実際終盤は逆にテンションが下がってしまいました。

せっかく「この星を舐めるなよ」と地球規模の物語に広げているにもかかわらず、その規模に見合うだけのラスボスのカリスマ性や威厳、強さが全くないのです。
だいたいラスボスとしてやった功績がラスボスとしてジュウオウジャーを一時的に戦闘不能に追い込むって、やることがあまりにもショボ過ぎじゃないですかね。
こんなのはそれこそラスボスじゃない一般怪人や幹部連中すらもできることですし、戦闘不能に追い込んだ上で星やまちにどれだけ具体的な被害を与えられるかが大事なのです。
そういう意味で、私はどうもこのデスガリアンはラスボスのジニスの正体も含めて「ハードルが低すぎる。もっと面白く工夫できなかったのか」と言いたくなってしまいます。

(3)盛り上がりに欠ける後半〜終盤

そういうわけなので、結局のところ物語として一番面白かったのはゴーカイジャーとコラボした回と最序盤くらいであり、後はぶっちゃけ大した盛り上がりないままでした。
これはまあ王道系作品の難しいところではありますが、むしろ王道系の作品こそ物語の中でどれだけ想像を超えうる山場を作って盛り上げられるかが大事なのです。
本作はその点、ヒーロー側も敵側も造形に破綻こそないものの、ぶっ飛びっぷりも足りないのでどうしても爆発力が必要な場面でうまく盛り上がりが発生しないんですよね。
ジニス様のショボさは上でも述べたので繰り返しませんが、個人的には終盤の物語の流れも「この流れって必要だったのかなあ?」と思ってしまいました。

その最たるものは風切親子の確執であり、なぜ物語もラストになってこんな昼ドラみたいな展開をぶち込んできたのかが全くわからないのです。
歴代で親子の確執というと「タイムレンジャー」の浅見親子を思い出しますが、あれはあくまでも小規模の世界観とストーリーだから成立する話でした。
しかも終盤になると、「歴史修正命令」でリュウヤ隊長が出てきたあたりで竜也は父親に対して一定の歩み寄りを見せています。
直接的な和解は描かれていませんが、最終回のエピローグできちんと和解したことが示されており、あれはあの収め方で良かったのです。

しかし、それはあくまでも「明日を変える」「ロンダーズファミリーを逮捕する」という世界の運命を背負わない世界観とストーリーだから通用した話でした。
一方「ジュウオウジャー」が守るべきものはあくまでも「世界」であって、そんな大規模なスケールの世界観とストーリーで個人の話を終盤で持ってこられても困ります。
しかも戦いとはなんの繋がりもないことだったので、その辺の連動性もできておらず、そんな話をするならするでせめて序盤で終わらせておけよという話です。
そのあたりの等身大のドラマと壮大な背景設定・ストーリーとのシンクロという部分で本作は素晴らしき過去の傑作ぐんにまるで及んでいません。

それから賛否両論となったのが、最終的にジュウマンワールドと地球が一体化したというあのラストですが、これってむしろ地球が危ないのではないでしょうか
これって歴史に例えるなら日本が江戸時代に開国したのと似たようなもので、その後に起こったのは外国人のインバウンドに伴う新たなる戦いの歴史の幕開けでした。
本作の結末は一見「人間とジュウマンが仲良くなった」という風に見せていますが、むしろこの後地球がジュウマンによって征服される世界線しか私には見えません。
異種族や異世界との交流自体決して簡単なことではないのに、その辺の諸々をすっ飛ばして融合させれば大団円というのはあまりにもふざけ過ぎているのです。
発想が幼稚園児レベルというか、とてもじゃないですがこんな結末が良質の子供向けのニュースタンダード像であるとは口が裂けても言えませんよ。

(4)「緻密」というよりは「小さくまとまり過ぎ」

総じてまとめると、本作は「緻密」というよりは「小さくまとまりすぎ」という表現が似合うのではないでしょうか。
これは同時に小林女史とそのフォロワーである香村氏の違いでもあって、時代劇趣味で育った小林女史は「緻密」でありながら同時に「大胆」な人でもあるのですよね。
時には登場人物を梯子外して追い込んだり、一難去ってまた一難といった風に上手な形で試練を与えていくので、「ここでそうくるか!」という刺激があります。
人物描写が丁寧ではあるのですが、単に丁寧なだけではなくつねに挑戦をして受け手を揺さぶってくるので、最終回まではいい意味で読めないことが多いのです。

その点、本作で示された香村脚本は確かにほどほどにまとまっているし、上記した終盤の展開もラスト以外はそんなに批判されるべきものではありません。
ただ、一方で「そこでもっと突っ込めよ!」「もっと揺さぶってこい!物足りねえんだよ!」というもやっと感がずーっとラストまで溜まりっぱなしなのです。
ちんまりとし過ぎていて、逆にもっと刺激が欲しくなってしまう、つまり「痒い所に手が届かない」のが個人的な香村脚本への評価となります。
過去作をすごく大事に思ってくれているのはいいことですし、それを悪くいうつもりはありませんが、ただもっと独自性とか大胆さとかが欲しいのです。

まあもっとも、これは香村氏の作風だけではなく、肝心要のところで今一歩設定やストーリーを詰めないようにする宇都宮Pの欠点もあるのかもしれません。
シンケンジャー」の時からそうですが、宇都宮Pは路線変更や内外の圧力に柔軟に対応できるように、あまり設定やストーリーを詰め過ぎないようにしているそうです。
それが悪い訳ではないのですが、一方でそれが中盤の中だるみに繋がったり、「もっとそこで詰めろよ!」という詰めの甘さにも繋がってしまっています。
余白を設けてもいいのですが、むしろシリアスな作風を志すのであればもっときっちり詰めて容赦無く展開していくくらいの大胆さは欲しいものです。

そのため、結果的には「大人しすぎる作品」という印象になってしまい、仮にも記念作品かつ王道路線、それもストーリー性重視ならもっとやって欲しいのが本音でした。
肝心要のところで腰が引けているというか、真正面から視聴者に向き合って勝負するくらいの意地と覚悟を見たかったのに、肩透かしで終わったという感じです。
それが本作を決して悪い作品とは思わないし嫌いでもないものの、諸手挙げていい作品とはいえず好きにもなれないという中途半端な印象になった理由かもしれません。

(5)「ジュウオウジャー」の好きな回TOP3

それでは最後にジュウオウジャーの好きな回TOP3を選出いたします。

  • 第3位…第11話「動物大集合」

  • 第2位…第28話「帰ってきた宇宙海賊」

  • 第1位…第29話「王者の中の王者」

3位は動物戦隊ジュウオウジャーがまとまる回であり、個人的に「ジュウオウジャー」としての物語はもうここで実質の完結を迎えた感じです。
次に2位は中だるみしていたジュウオウジャーの世界に宇宙海賊がやってくる刺激を放り込んだことで、ガツンと面白くなりました。
そして堂々の1位はそんな宇宙海賊とジュウオウジャーの衝突・和解・共闘が描かれており、これが最終回でもよかったんじゃないでしょうか。
個人的にこの3つくらいかなあ、諸手挙げて「好き」と言えるのは…後は良くも悪くも平々凡々な面白さの回ばかりです。

(6)まとめ

前作の大ゴケから、あまり派手に冒険できなかった本作は、確かにストーリーもキャラクターも整合性は取れた作品でした。
しかし、それが今ひとつ歴史に名を残せるほどの凄まじいインパクトを与えてくれるほどの面白さには繋がらなかった印象です。
毎回60点台前半をキープしている印象で、それは悪くないものの、もっとガンガン勝負する思い切りの良さを見せられずに物足りません。
総合評価はC(佳作)、まあまあなところで終わり、持てるポテンシャルをフルに生かし切れていないという惜しい作品でした。

  • ストーリー:D(凡作)100点満点中50点

  • キャラクター:C(佳作)100点満点中60点

  • アクション:C(佳作)100点満点中65点

  • カニック:C(佳作)100点満点中60点

  • 演出:C(佳作)100点満点中65点

  • 音楽:B(良作)100点満点中70点

  • 総合評価:C(佳作)100点満点中62点

 評価基準=SS(殿堂入り)、S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)X(判定不能)


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