「指数関数」について考える
今回は指数関数に関する記事を書きます。
1. 指数関数的増加
「指数関数的増加」と聞いてみなさんは何を思い浮かべますか?
理工学系のバックグラウンドのある方であれば、「ムーアの法則」が思い浮かぶかもしれません。または、「ねずみ算」かもしれません。
以下の書籍では、「デジタル化により、世の中のあらゆるものが指数関数的速度で変化する」と紹介されています。未来に対する危機感、一種の恐怖感を感じますが、ワクワクもします。
指数関数の代表例は、ネイピア数eを底とした関数y=exp(x)です。これをグラフ化したものが以下です。横軸xが大きくなるにしたがって、縦軸yが急激に増加しているのがわかります。
2. ドラえもんの秘密道具
y=exp(x)のように、指数関数の怖さは、短時間で急激に変化する(増加する)ところです。この怖さを面白おかしく紹介しているYouTube動画が以下です。
ドラえもんの秘密道具「バイバイン」が紹介されています。栗饅頭を食べているのび太が「もっと栗饅頭を食べたい!」と言い出し、ドラえもんは「バイバイン」を差し出します。この「バイバイン」の液体を食べ物に振りかけると、その食べ物がなくなるまで、5分おきに倍増するというものです。
食べきればいいのですが、食べきれないとどうなるでしょうか?5分おきに1個が2個、2個が4個、4個が8個・・・と増えていきます。
関数で表すとy=2^xとなります。1時間後には、2^12=4096個となり、すでに途方もない数になっています。ドラえもんは「このままでは地球が栗饅頭で埋まってしまう!」と危機感をあらわにし、ロケットに栗饅頭を括り付けて、宇宙空間に廃棄します。
この動画では、宇宙空間に廃棄されても持続する、栗饅頭の増殖効果を考察していて、「これで解決するのか?」という疑問を投げかけています。結局、宇宙空間も栗饅頭で埋まってしまうのですが、4次元空間(ドラえもんの4次元ポケット)に廃棄することで解決できると締めくくっています。
3. 栗饅頭山の高さは?
この栗饅頭の増加に関して、私なりに考察を付け加えてみました。栗饅頭がある一点で増殖していくと、栗饅頭の山ができるはずです。私は「栗饅頭の山は標高何mになるのか?」と疑問を持ちました。これには「安息角」の概念が必要と思います。
安息角とは、山を構成する物体の摩擦係数によって、山の裾野の角度がある一定に落ち着く角度を指します。主に土木工学で用いられます。
例えば、成層火山の富士山は円錐に近い形をしています。以下によると、富士山の安息角は34deg程度とのことです。富士山の頂上から噴火したとして、噴出物が降り積もっても、これ以上急な斜面の山にはなりません。
栗饅頭に話を戻し、以下の仮定のもと、栗饅頭山の標高を計算してみます。
経過時間:n[hr]→n[hr]後の栗饅頭の個数は2^12n個
栗饅頭の安息角:30deg(計算しやすくするため)
栗饅頭の寸法:YouTube動画と同じく、4cm×6cm×3cm=72cm^3=72*10^(-6)m^3→これをv[m^3]とする。
栗饅頭山の形状:円錐形→円の半径をr[m]、高さをh[m]、体積をV[m^3]とする。
対流圏界面(対流圏と成層圏の境界)の高さ:11km=11,000m
成層圏界面(成層圏と中間圏の境界)の高さ:50km=50,000m
中間圏界面(中間圏と熱圏の境界)の高さ:80km=80,000m
熱圏界面(熱圏と外気圏の境界)の高さ:500km=500,000m(※各種圏界面の高さは以下を参照)
栗饅頭の山はいつ対流圏から成層圏に到達し、中間圏、熱圏をも突破して、外気圏(ほぼ宇宙)に到達するのか、計算してみました。
結果、対流圏界面には4.6hr、成層圏界面には5.2hr、中間圏界面には5.4hr、熱圏界面には6.0hrで到達・・・つまり、6hrで外気圏を突破する計算になります。グラフにすると以下になります。次の1hr後にはなんと7500km程度まで増えており、上式を見ると、経過時間n[hr]に対して、高さh[m]は3乗で効いているので、こうなります。
このグラフの縦軸を対数目盛にすると以下のように、直線になります。インプット(横軸)に対して、アウトプット(縦軸)の増加があまりにも大きい場合は、対数グラフを使うと見やすくなります。
宇宙空間に到達した栗饅頭はどうなるのか?そもそも、成層圏に到達した時点でまずは凍り付くのではないか?真空中に達すると栗饅頭は膨張して破裂するのでは?宇宙空間に到達すると、宇宙放射線の影響を受けて電離するのでは?原子状酸素の影響を受けて・・・など考えだすときりがないですが、栗饅頭の形で存在するのは難しいと思われます。
4. 機械工学と指数関数
指数関数で思い出すのは、大学時代の講義です。私は機械工学を専攻していて、加工学と材料学の研究に取り組みました。研究室の指導教官から教わった内容は以下です。
「いかなる機械システムであっても、出力が入力の何乗で効いてくるか。これを把握しておけば、難しい公式を覚えなくても、現場に出てから、肌感覚でその機械システムが安全なのか否か、設計的に問題ないのか否かがわかる。あとは、必要最低限の物性値を覚えておけば大丈夫だ!」
例えば、
「片持ちはり」のたわみは、そのはりの突き出し長さの3乗に比例する(荷重よりも突き出し量が支配的になる)
角棒の断面係数は、厚さの2乗に比例する(幅よりも厚さが剛性に効いてくる)
遠心力は、角速度(速度)の2乗に比例する
放射エネルギーは、絶対温度の4乗に比例する
最低限の物性値とは、空気と水の物性値、機械構造用材料としてよく使われる金属材料の物性値です。
0度での空気と水の密度、動粘度、粘性係数(絶対温度に換算すると、273K)
25度での空気と水の密度、動粘度、粘性係数(1気圧、25度が標準大気状態。この条件で内燃機関の性能計算を行うため)
アルミ vs 鉄(炭素鋼)の密度、縦弾性係数(ヤング率)、引張強さ、熱伝導率とそれぞれの関係性
特に、アルミと鉄の間には3倍の関係があり、覚えておくと、いろいろと便利です。