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「楽観的な人」な人は楽観的ではない。ネガティブな思考にうまく対処しているだけ。自己肯定感の低さにどう対処するか?

著名な心理学者・アドラーの提起した「劣等コンプレックス」という概念があります。

劣等感と似ていますが、健全な劣等感が前向きな努力の原動力になるのに対し、劣等コンプレックスは努力を避ける方向に働きます。

「テストで友達が90点、僕が80点だった。よおし、次は負けないぞ」と考えるのが健全な劣等感です。これに対し、例えば、「友達が90点、自分は25点だった。オレ、まだ本気出してないだけ」と考えるのが劣等コンプレックスです。努力するのではなく、つらい現実をごまかすことに意識が向いているのです。

劣等コンプレックスに陥っている人は自己肯定感が低く、その自信のなさが外部に向かうと過度な自慢や他人に気を使いすぎるといった形になります。逆に、自分の内面に向かうと、現実逃避やあきらめといった態度になります。

劣等コンプレックスに陥ると、適切な行動をしなくなるため中長期でよい結果が生まれなくなります。自分が自慢や他人に対する過敏な反応、現実逃避やあきらめに陥っていないか時々振り返ってみることも大切です。

軽度の劣等コンプレックスであれば、誰もが日常的に陥っています。人は1日に6万回ぐらい考え事をするそうですが、そのうちの約75%、4万5千回はネガティブな思考なのだそうです。人はだれもが常に「ネガティブ」なのです。そのネガティブな思考を正当化しようとして陥るのが劣等コンプレックスです。

自慢、過敏な反応、現実逃避、あきらめは日々の思考の中で頻繁に起きています。こうしたネガティブな思考への不適切な対処が積み重なることで自己肯定感が低くなり、劣等コンプレックスがさらに強化されていくのです。強固な劣等コンプレックスに陥らないようにするには前向きな行動を引き出す仕組み、心のマネジメントが必要です。

では、どうすればよいのでしょうか。色々な考え方があると思いますが、ここでは「前向きな行動」をドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンという3つのホルモンのバランスから考えてみましょう。

人間の感情は化学物質であるホルモンによって生じます。ドーパミンは快感・意欲をもたらす脳内物質です。物事を成し遂げた時の達成感はドーパミンによって生じます。ドーパミンを分泌させるには小さな目標を設定し、それを成し遂げると良いのです。ネガティブな時ほど意味のある小さな目標を設定し、それを達成して満足感を得ることが有効です。

ノルアドレナリンも意欲を引き出す化学物質です。それは緊張感・危機感を生み出し、パフォーマンスを向上させます。人はピンチに陥るとノルアドレナリンを分泌させ、行動への意欲を高めるのです。そして、やるべきことの期限を設定するとノルアドレナリンが多く分泌されるそうです。「期限に間に合わせないと」と軽い危機意識が積極的な行動につながるのです。

ドーパミン、ノルアドレナリンはどちらも行動への意欲を引き出しますが、その原動力は正反対です。ドーパミンは快感・満足感を生み、ノルアドレナリンは危機感・緊張感を生み出すのです。

一方、ドーパミンが過剰になると依存症になります。依存症というとアルコール依存症、ギャンブル依存症などが思い浮かびますが、“スマホ中毒”、“仕事中毒”も同じ原理で起きるのです。

またノルアドレナリンがもたらす危機感・緊張感が長時間続くとイライラしたり、突然切れたりするようになります。うつ病になることもあるのです。

ドーパミン、ノルアドレナリンが過剰に分泌されると精神のコントロールが失われるのです。こうしたマイナスの側面を押さえる役割を果たすのがセロトニンです。セロトニンは精神の安定と抗ストレス作用のある化学物質です。人に対する共感力も高めてくれるそうです。

セロトニンは人に貢献することでたくさん分泌されます。「人に貢献する」というと何だか大変そうですが、実はそんなにハードルが高い話ではありません。ちょっとした親切、「ありがとう」といったお礼の言葉を発するだけでもセロトニンは分泌されるそうです。人のことを気にかけて一声かけるという行動だけでも十分効果があるのです。

つまり、ネガティブな思考がもたらす自己肯定感の低下に対処するには、小さな目標を立ててクリアしていくこと、期限を切って取り組むこと、人に対して貢献する意識を持つことがよいのです。こうした行動を意識的に行い、習慣化することが劣等コンプレックスに陥らない秘訣なのです。

人の事を気にするのではなく、「自分は自分」と考え、今の自分にとって一番良いことは何かを考え、前向きに小さな行動を起こすこと、やりたくないことには期限を設けて緊張感を持つこと、人にちょっとした気遣いをする気持ちを忘れないことが大切なのです。

誰もが日常的にネガティブな思考、感情を経験します。そうした思考なくすことはできません。そうした思考、感情に適切に対処することが大切なのです。

「楽観的な人」など存在しません。ネガティブな思考、感情に対処するのがうまい人がいるだけなのです。目の前の意味のある行動に焦点を合わせ、小さく一歩踏み出すことが大切です。

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