#71 百鬼堂農園(20) 江戸川乱歩の害獣(嘘)
トウモロコシが1本倒れていた。わが農園の作物の中では屈指の丈夫な茎で、風で倒れるのは考えにくい。倒された茎の先についた、まだ若いトウモロコシが強引にむかれ、ひっかかれ、食べられている。倒れていないものも含め、3つの房が被害に遭う。
ちょっとしたパニックになる。誰の仕業?鳥じゃないよね?たまたま畑にやってきた大東さんに「トウモロコシ、やられちゃったみたいです」と話す。トウモロコシの無残な姿をみた大東さんは、
「多分タヌキだと思います」
こんな住宅街に、タヌキが出るのか。そういえば深夜に帰宅する際、猫でも犬でもない動物の眼が光るのを、何度かみたことはある。
大東さんも昨年、倒されて派手にやられたそうで、今年はこれからトウモロコシ畑全体をネットで覆うという。妻の実家の畑はハクビシンによる被害がすごいそうで、noteの一連の農園記事を読んでくださっている読者氏のところでは、サルがトウモロコシ畑を席巻しているという。
腹が立つ。悔しい。狸汁にしてやりたい(食べたことないけど)。残ったトウモロコシのまわりに、余った支柱をたくさん立てて近寄りづらくした。効果は期待できない。嫌がらせ程度のものだ。
職場の畑仲間や合気道の稽古仲間に愚痴をいいまくった翌朝、また畑に足を運んだ。支柱が一本斜めになっていた。奴はやってきたが、茎を倒すことはできず、新しいトウモロコシを食べることはできなかった、ということだろう。
ふと目をやると、畑の隅に放置した、タヌキの食べかけだったトウモロコシが、きれいに平らげられていた。
そっか。俺が初めて作った農作物を、残さずきれいに食べたか。
ちょっと笑って、まあいいか、という気分になり、畑をあとにした。