『イケオジになれば、ワンチャンあるかも?』WEB広告のAI美少女が不敵に微笑みかける
新年早々、また出てきた。
MEN’S TBCのWEB広告だ。
いつもの様に、謎のAI美少女がヒゲ脱毛を薦める広告バナーを眺めてたら、かねてからの疑問が再燃した。
『なぜ、私のスマホに表示されるのだろう?』
WEB広告であるからには、何からのターゲティングが設定されている筈だ。MEN’S TBCがどれほどの金満企業か知らないが、単に「男性」だけをターゲットにする事はあるまい。私は、何らかの理由で『ヒゲ脱毛に関心がある』と認定されたという事になる。
心当たりがない。
私は美容のこともヒゲ脱毛の事も関心がないし、スマホで調べた事もない。そして、ヒゲ脱毛の広告をこれまでクリックした事もない。
今、この広告をクリックすれば理由が分かるかも知れないが、それはできない。クリックすれば関心があると見なされるので、逆に理由がわからなくなってしまう。
なので、その理由は推測するしかない。
と、考えて出した矢先、また次のが出てきた。
「めんどくさい」か…やはりよくわからない。面倒に感じると言う事は、毎日の様にヒゲを剃る必要があると言う事。つまりその人は、必然的に身だしなみや美容にも関心がある。そして私はそれに当てはまらない。何なら週一度しか剃らない事も多い。
やはり、ヒゲ脱毛などというのは若者向けのサービスだろう。最近はKポップの影響で、男性でもメイクをするのは当たり前だ。確かに、彼ら韓流系アイドルにヒゲは似合わない。
だとしたら、このAI美少女は50代の私に何を語りかけているのだろう?と思ったらまた次のパターンが。
えっ?
白いヒゲ…
ああ…謎が解けた。
MEN’S TBCの狙いが見えてきた。
社内では、こんなやりとりがある筈だ。
「前々から思ってたんだけど、このAI美少女の広告バナーってウチの広告だろ?私のスマホによく出てくるんだけど…」
「ああ、部長のスマホに出ましたか。狙い通りですね」
「狙い通り?私はヒゲ脱毛に興味ないけどな…」
「でも、AI美少女には関心あるでしょう?現に私に聞いてきてるくらいですから…」
「え?いや、そっ…そんな事ないよ!広告予算を適正に使えてるか、担当の君に聞いているだけじゃないか?」
「本当に関心が無いんですか?」
「いや、まあ、普通にかわいいし、目には留まるよ」
「やはり、そうですか…」
「どういう事なんだい?」
「マーケティングファネルを考えて下さい。今、脱毛に関心のある人だけをターゲットにしてたら、そのうち頭打ちになるでしょう?これからの興味関心層、つまり未来の顧客育成も、広告の役割なのです」
「ああ、それはわかるよ」
「つまりこう言うことです。部長は、何度もAI美少女の広告を目にする内に、ワンチャンこんな娘と付き合えたらいいな、と思い始める… 」
「なるほど…」
「そのタイミングで、彼女から『ねえ、その白いヒゲ脱毛してみない?』と語りかけられたらどうなります?」
「いや、もう、脱毛したくなってきたよ…」
「そう、ヒゲ脱毛に今、興味がなくてもいいんです。『美少女に関心がある50代』であれば…普段の検索履歴から、そこは余裕でターゲティングできますからね」
「つまり、私は美少女に関心があると…」
「まあ、広告のアルゴリズムは誤魔化せませんからね。この話は、聞かなかった事にしておきますよ」
「恩に着るよ…」
認めたくないが、私は美少女に関心があると判定されてしまった訳だ。『そんな事はない』と否定しても意味はない。広告アルゴリズムは嘘をつかないし、心当たりが無いかと言えばそれはそれで嘘になる。
私はWEB広告の仕組みをある程度知ってるので、これまでクリックしなかったが、やはり私は気になってたのだ。
そして、WEB広告のターゲティングが批判される理由もよく分かる。美少女への飽くなき関心をキャッチされては、プライバシーなどあったものでは無い。
とはいえ、MEN’S TBCのマーケティング戦略は秀逸だ。流石にトップ企業の事はある。
と、納得しかけたらまた次の広告が…
猫?
しかも、我が家で飼ってる茶トラではないか…?
そして私は、確かに剃刀負けしがちだ…
私のプライバシーはやはり把握されている。
AI美少女以外の理由もあったという事か…
まあ、いいか。
もう考え疲れた。
MEN’S TBCの真の狙いを想像しても切りがない。
これを機に、イケオジを目指すのもいいだろう。
ヒゲ脱毛、まずは500円の体験から行ってみるか…
えっと、明日の予定は…
広告のクリックを慎重に避けていた私も、結局はこうして彼らの戦略に踊らされている。
やはり、トップ企業だけの事はある。
そのマーケティング戦略は、極めて巧妙だ。