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【勉強になる世界史映画】14世紀西欧のキリスト教世界がわかる「薔薇の名前」

ワンポイント特徴

  • 高校世界史の資料集にも載っていることがある名作

  • イケおじ修道士とウブな弟子が閉ざされた修道院で起きた殺人事件に挑む

  • 14世紀のカトリック世界がよく反映されている(後述)

  • [注意]古い映画なので色々規制がかかっていなくてグロい描写あり

あらすじ

ヨーロッパで宗教裁判の嵐が吹き荒れていた1327年。北イタリアのベネディクト修道院に、修道士のウィリアムと見習修道士のアドソが、重要な会議に出席するためにやってきた。荘厳な修道院に着くとすぐ、ウィリアムは若い修道士が不審な死を遂げたことを知る。修道院長によると、死んだ彼は文書館でさし絵師として働いていたという。事件の解明を頼まれたウィリアムが調査を進めてゆく中、第2の殺人が起きる。

Amazon.co.jp: 薔薇の名前(字幕版)

扱われている時代・内容

舞台は1327年、教皇権が衰退し始めている頃の修道院です。

歴史の転換期!宗教改革に至るまでの背景を詳しいけど簡単に解説楽しくわかりやすい!?歴史ブログ 

① 教会の権威が揺らいでいる時代
1303年に教皇が幽閉され、憤死するという「アナー二事件」が起こり、
1309年~1377年は教皇庁がアヴィニョンに移されるという「教皇のバビロン捕囚」がおこりました。この映画はこの「教皇のバビロン捕囚」中の出来事なので、映画中も「アヴィニョン教皇庁」というフレーズが出てきます。
教皇の権威が揺らいでいるこの時代、異端審問や魔女狩りが苛烈になっていました。映画の中でも「異端」「悪魔」「魔女」は重要なキーワードになっていました。

② 清貧論争
ウィリアム修道士がもともと訪問の目的としていた「重要な会議」というのは、ウィリアム修道士が味方するフランチェスコ修道会と教皇の間で起こった「清貧論争」の決着をつけることでした。

フランチェスコ修道会は13世紀にインノケンティウス3世から承認を受け、異端審問の急先鋒にもなった敬虔な修道会です。「清貧」をとても重視し、財産を持たず、信者からの寄進に頼る「托鉢修道会」として活動していました。創立者(アッシジのフランチェスコ)が亡くなった後は「清貧」をどこまで突き詰めるかで厳格派と穏健派に分裂し、この厳格派は修道会、ひいては教皇も含めて財産を持つべきではないとしたので、教皇と対立することになりました。これが「清貧論争」で、映画中もフランチェスコ修道会の修道士と教皇の使節団が激しく言い争うシーンがあります。

また、この会議、そして殺人の舞台となっているのは「ベネディクト修道会」で、こちらは6世紀に設立され、「祈り、働け」をモットーとし、「清貧・純潔・服従」を理想とする禁欲生活を送る修道会です。後世の修道会のあり方に大きな影響を与えています。

③ アリストテレス哲学
今回の事件のキーワードになってくるのが「アリストテレス」です。10世紀に十字軍が編成されてから、西ヨーロッパ世界はイスラーム世界や東ヨーロッパ世界とより接触するようになりました。それまでだったら「異端」や「異教の文化」と切り捨てられていた学問や思想もカトリックの信仰と矛盾が生じないように解釈されながら取り入れられ「12世紀ルネサンス」とよばれる文芸復興運動になりました。

そして、ギリシア語やアラビア語で研究されていたアリストテレスをはじめとする古代ギリシア哲学もカトリックと矛盾が生じない解釈や研究が行われていました。映画中のベネディクト修道会はこの翻訳や書写が行われ、貴重な知識が保存される様が描かれています。

私の感想

① 師弟関係が最高!
ウィリアム修道士がとにかくカッコいい!そして弟子のアドソとの師弟関係が素晴らしいです。ウィリアム修道士は、落ち着いていて、冷静で、着々と事件の真相に迫っていきます。弟子のアドソは若者らしい純粋さと実直さでウィリアム修道士を支えたり疑問を持ったり、修道士として苦悩したりします。ウィリアム修道士はそれに「師として」「友として」静かに寄り添っていて、人を育てるってこういうことなんだな、と思わされます。

② 謎解きは割とあっさり
事件の謎自体はわりと勿体ぶらずにサクサク解決されていくので、あっさりすぎて物足りないと感じるか、引き伸ばさないからくどくないと感じるかは好みの問題かなあと思います。私は一番最後の謎ときは「あれ!?あ、今殺人の仕組み言った!?あ、そういうこと!?」となりました(笑)

③ 14世紀カトリック世界がよくわかる
世界史の教員としては、当時のカトリック教会が直面している教皇の権威や信仰心の揺らぎ、それに対する焦り、異端や悪魔、魔女に対する恐怖、「敬虔であろう」とする修道士たちの様子が具に描かれていてとてもいいな、と思いました。映画全体を通して14世紀カトリック世界、そこで生きた人々を追体験できるというか、当時の空気感がわかる気がしました。

とはいえ、一般受けするかというと微妙かもしれないです…(;^ω^)

こんなところまで読んでいただき、ありがとうございました。
思いをつらつら書いていったら大変長くなってしまいました…
間違い等あったら勉強不足で申し訳ないです。精進します。

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