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母の不安障害
母は数年前から、不安障害を抱えている。
その数前に何が起きたかというと、父の死や持病の手術、治療の内服薬による強い副作用、その体調不良による仕事への影響、退職など。
母はもともと少し神経質で心配性な性格ではあると、私も子どもながらに感じていたこともあったが、この数年の母はやはり精神的も身体的にも辛い出来事が多かったと思う。
胸がつかえるような息苦しさがどうにも耐えられなくなり、深夜に自ら救急車を呼んだこともあった。
その後すぐに、不安障害と診断され安定剤の内服が始まった。
この胸がつかえるような息苦しさは、実は私も体験したことがある。
次の仕事を決めないまま会社を退職してしまったときだ。(自業自得ではあるが)
風邪でもないし咳も出ないのに、なんか苦しい。思いっきり息が吸い込めない感じ。
病院に行くほどではなかったけれど、調べるとストレスが原因とわかった。
それが日常的に続く母は辛いだろう。
これまでは、自らのタイミングで安定剤を内服して日常を過ごしていた。
調子のいいときは友人と出かけることもあって楽しんでいた様子はあるが、私ももう少し親身になって、電話をかけたり話を聞いてあげたりするべきだったと後悔している。
そして今回の病気、手術である。
これによって母が感じるストレスは、娘の私から見ても想像し難い。
入院や手術で体の痛みや苦しみに必死に耐えてきたが、退院しても日常生活に多くの支障が出てしまった。
高次機能障害により趣味を楽しめなくなったり、特技を活かせなくなったりする辛さはどれほどのものだろうか。
記憶がなくなり、文字を認識できなくなる辛さはどれほどのものだろうか。
精神的におかしくならないわけがないと思う。
現在も息苦しさは毎日継続しているため、安定剤の内服が欠かせない。
それにストレス性の突発性難聴にもなってしまった。
実際に呼吸が荒くなったり、顔面蒼白になったりすることはないのだが、介護生活が始まって間もない頃のある日、どうしても息苦しいから病院に行きたいと懇願されたことがある。
このパターンはきっと、以前救急車を呼んだときと同じものだろうと思い、かかりつけの精神科に電話したが、病院に来ても何もできることがないと言われた。
確かにそうだろうと思いながらも、苦しいと言っている母をそのままにしておくわけにもいかない。
迷っているうちに夜になって夜間救急に行くのも避けたいため、やむを得ず近くの呼吸器内科に行った。
呼吸器に問題がないのは承知の上で、母が納得するなら行くしかなかった。
医師には母の状況を説明し、レントゲンや心電図など一通りの検査や点滴までしてくれて、「大丈夫ですよ」と言ってもらえた。
3時間もかかったが、帰るころには母は安心して落ち着いていた。
これによって以後、病院に行きたいとは言わなくなったから、私も行っておいてよかったと思う。
今は私が薬を管理しているが、安定剤については母が望むタイミングで内服できるようにしたり、それでもしんどいときは少し強めの薬で眠れるようにしたりしている。
しかし、薬を飲み過ぎると効き目が感じられなくなるらしい。
それによって、最近新たな薬の内服が始まり、今はその副作用に耐えている。
薬を飲まないではいられないし、飲んでもきつい。だから薬が増える。
新たな薬を飲む時、母はそれをうまく理解することができないし、理解できないから新たな不安が生まれてしまう。
副作用にも恐怖感を抱いてしまう。
今の生活においては、持病や高次機能障害よりも、この不安障害に多く悩まされている気がする。
この症状がなければ、母は外出機会や行動範囲も増えて、今よりも穏やかに生活できるはずだ。
それに定期の内服以外に頓服が数種類あり、適切に内服するには母ひとりでは難易度が高いのも問題である。
私は今、長くて2時間くらいの外出しかできないが、それは母の症状が出ていないか確認し、必要であれば頓服を飲ませるためである。
スマホが使えない、文字が読めない、短期記憶が曖昧な母には、私の留守中に薬の内服を任せることが難しい。
今後、私が仕事をしている間にヘルパーさんなどに来てもらうとしても、その決まった時間に母が薬を飲みたいとも限らない。
母が必要なときに適切な薬を内服するにはどうしていくべきか。悩みの種である。
今は新しく処方された薬をしっかり内服させて体を薬に慣れさせること、そして症状が軽減することを期待するしかない。
あとは日々の暮らしの中で母が訴える不安に耳を傾けることと、「大丈夫だよ」とうまく聞き流してあげること。
「リハビリ行けた」「お風呂に入れた」些細なことでも、今日できたことに自信を持つこと。
音楽を聴いたり散歩をしたりして不安から気を紛らわせること。
美味しいものや栄養のあるものを一緒に食べて、たくさん笑うこと。
何も言わなくてもそばにいること。
ゆっくり眠れる環境を整えること。
当たり前の生活感が母に安心を与えられるはずだと思っている。
そういえば最近、介護ベッドを返却した。
以前のように布団で寝ることになった母は、よく眠れるようになったと話している。
少しずつ元の生活に戻していくことも、きっと母の自信になっていくと思う。