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昭和40年代の東京下町歳時記 10月

10月になるとすっかり秋めいてくる。土手には赤トンボ、オニヤンマ、シオカラトンボ、糸トンボなどがいた。一度赤とんぼを一匹捕まえて糸で結んで、それを土手で飛ばしたら、仲間が沢山寄ってきて驚いた。とまっているトンボは、羽が垂直よりも下がっている状態のものを、後ろからそっと近寄って網で採ると比較的成功した。トンボ採りも楽しい遊びだった。

街には時々石焼き芋屋さんが来た。「いしやきーいも、やきいも」という声と共に。大概は軽トラックで荷台の部分に石焼き芋の窯のようなものを乗せていて、はかりで重さを測ってお金を払う。いもは新聞紙で作った袋に入れてくれる。木枯らし吹く中、熱々のその袋を抱えて家に帰って割ると、濃い黄色でほくほくしておいしかった。スペインでは秋になるとパン屋さんの窯で焼いたものが売られていることがあるが、さつまいもが水っぽくて、身はオレンジっぽくとても期待外れだった。

小学校でサツマイモ掘りに行ったことを思い出した。各自スコップを持って、蔦を辿って掘っていく。大きなサツマイモが取れたら皆に見せて喜んでいた。楽しい遠足。さつまいもは家でふかしたり、揚げて大学芋に天ぷら、甘辛く煮つけたり、いもご飯もあった。ぶどう狩りにも行った。食べ物を収穫するのは楽しい。

いもと言えば、時々北海道から馬鈴薯がうちに送られてきて、それをふかしてバターで食べるのもおいしかった。

栗は甘栗太郎。何となく東京の味だと思うのは私だけだろうか?と思ったので調べてみたら、創業百年。やはり東京の老舗だった。栗から生まれた栗太郎の絵が書かれたパッケージも懐かしい。できたてを袋に入れてもらって熱いうちに食べるのが最高。家で栗を作るときはちょっと包丁で切れ目を入れて、茹でていたと思う。栗ご飯も作ってもらった。黒ごま塩をかけて食べた。しかし栗と言えばやはり甘栗太郎の天津甘栗がおいしい。

スペインでも秋にはあちこちに焼き栗屋が出る。街によって微妙に作り方が違うのだが、マラガの焼き栗は一番おいしい。ちょっと包丁で切れ目を入れて、炭を焚いた上に穴がいくつも開いた鍋に入れた栗を蓋をして焼く。そして最後に塩をふる。結構天津甘栗に近い自然の味。

父の行きつけの割烹で秋と言えば松茸三昧。焼いたり、揚げたり、土瓶蒸しに松茸ご飯にとそのおいしいこと。仲居さんに教わって、土瓶蒸しのおちょこの淵に二つに切ったすだちをさっとこすりつけ、おつゆを注いで飲むと、薫り高くおいしかった。家にも土瓶があって、作った。吹きこぼれないように注意して。今では高くてなかなか手が出ないが、当時は季節に何度か食べていた。今のように流通が発達していないから、国産だったのだろう。

随分前に京都の書家のお宅に遊びに行っていた時に、朝なんと採れたての「たんばのまったけ」が籠一杯に届けられ、好きなようにして良いと言われて、友人一家と皆で松茸三昧をした事がある。あれだけの量のあんな最高級な松茸を食べられることはもうないだろう。本当に幸せな想い出。

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