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ドラムが不安を軽減する理由:リズムが息子(HSC+ASD)にもたらした変化とは

1. はじめに

こんにちは、HSP母のマメです ☺︎
「不安を抱えやすい息子に、何かできることは .. 」そんな思いから、特に幼児期には様々なことを試してきたように思います。

HSC(ひといちばい敏感な子)の息子・マコト(仮名)は、自閉スペクトラム症(ASD)に多く見られる感覚処理障害(SPD)と発達性協調運動症(DCD)を併せ持つことで、不安感の強さや体を上手に動かすことが難しいという課題があります。

マコトは低緊張で、ふにゃふにゃとした赤ちゃんでした。また、平衡感覚やバランス感覚(前庭感覚)が上手く働いていない影響から姿勢が悪く、扁平足による体の不安定さも加わり、心身ともに地に足がついていない感覚が続いていました。こうした身体的不安定さは心理的不安感と密接に関連している可能性があります。

身体反応に対する不適切な信念によって、過剰な緊張感が生起し、それが行動的なパフォーマンスに影響を及ぼしている可能性が考えられる 。

政本香, 2003

さらに、スポーツの緊張場面における研究では、心理状態の変化や心理特性の違いが身体のバランスと関連していることが確認されています

スポーツにおける緊張場面を想起 する課題において,快適および不快な緊張状態が喚起でき, 心理状態の変化や心理特性の違いと身体的動揺の間に関連性 があることが確認された。

「スポーツの緊張場面における重心の変動と心理状態の関係」法政大学学術機関リポジトリ 髙野美穂, 中澤史, 坂入洋右)

不安感や緊張が身体のバランスに影響を与え、その結果として心理的な安定感も揺らぐことがあるようです。特に幼少期には、身体的不安定感が外部環境への恐れや不安を引き起こす要因になることが知られています。

そんな息子がドラムに出会い、心と体を整えていく過程は、私にとって驚きと喜びの連続でした。この記事では、息子がドラムを通じてどのように不安を乗り越え、成長してきたかをご紹介するとともに、科学的に証明されているドラムの効果についても触れていきたいと思います。不安感や運動面の課題を抱えるお子さんを持つ親御さんにとって、少しでも役立つ情報となれば幸いです..!


2. 不安が強かった息子とドラムとの出会い

極端な不器用さを持つマコトには、発達性協調運動症(DCD)の診断があります。幼少期から体(特に関節)がうまく使えていないということを、私も日常の中で感じていました。例えば、食事・道具の使い方・体の洗い方.. 等々、一般的には見て覚える動作や、無意識にできる些細な動作も難しいために、二人羽織で説明しながら体が覚えるまで繰り返しました。
心は、身体の不安定さと繋がっているということを日々痛感させられた幼児期でした。

しかし、マコトが10歳の時。通所中の放課後デイで電子ドラムに触れる機会に恵まれました。この放課後デイでは感覚にアプローチすることを重視されており、魅力的なセッションがたくさんあるのですが、新たに始まるドラムのセッションで希望者を募集していたのです。手足をバラバラに動かすドラムなんてマコトには到底無理だろう思いつつ、前向きな息子の様子に私も嬉しくなり、自分で叩くことでどのように音が響くのか体感できたら、とセッションを希望しました。

幼児期からビートルズのベストアルバムがお気に入りだった彼にとって、ドラムの音は馴染みがあったようです。
ドラムを始めて間もなく、次のドラムセッションのために一生懸命に電話帳を叩いて練習をする息子の様子から、狭い我が家ですが電子ドラムを購入。ホームスクールのマコトにとって、当時からYouTubeは何を学ぶにも便利なツールでしたが、様々なドラマーの演奏からも学んだように思います。

そして、ドラムのセッションをはじめ数ヶ月が経過。初めて8ビートを楽しく演奏できたその日、マコトはこれまで見たことのないほどの達成感と喜びに包まれていました。
小学生の丸5年をホームスクールで過ごした中で、ドラム演奏は毎朝のルーティンとなりました。(中2現在も毎朝継続中)1日1~2曲だけですが、習慣化する効果は絶大だったと感じます。ぎこちなかった彼の動きはとても滑らかになり、安定して一定のリズムを刻むようになっていったのです。

まず驚いたのは、声掛けなどしていませんが、わずか3ヶ月ほどで見違えるほど姿勢が改善されたことです。四肢を駆使して演奏するドラムは、体の軸がブレていると上手く叩けません。またヘンに力が入っていると良い音を出せないので、力を抜くように先生から指導がありましたが、そうすることで自然と背筋は伸びるようでした。

3. ドラムがもたらした具体的な効果

◾️リズム感の向上:一定のリズムをキープする練習を重ねることで、運動全体の動きがスムーズに。どうしても飛べなかった縄跳びが急にできるようになったことは本当に驚きでした。
◾️体幹の強化:弱かった背筋が鍛えられ、自然に良い姿勢を保てるようになりました。丸みのあった姿勢がドラム演奏時以外でも変化がありました。
◾️心理面での安定:ドラムを叩くことでその時々の気持ちを表現でき、心のもやもやが晴れるようだといいます。ドラムを始めた当初から演奏後には「気持ちいい」と話してくれていました。

人前で演奏できるほど自己肯定感も回復

4. 科学的にも裏付けされるドラム効果

ドラム演奏の効果は科学的にも証明されています。
英国のチチェスター大学とハートプリー大学の共同研究では、発達障害の子どもがドラム演奏を継続することで、学習能力や社会的スキルが向上することが確認されました。また、集中力や自己制御能力の向上が報告されています。

1. 発達障害の子どもたちへの効果:

英国のチチェスター大学とハートプリー大学の共同研究では、発達障害の子どもたちが週に2回、各30分のドラム演奏を10週間行った結果、以下の改善が見られました。
◾️ 器用さ、リズム、タイミングの向上: ドラム演奏を通じて、子どもたちの運動能力やリズム感が向上しました。
◾️ 集中力の向上: 学校外でも宿題に集中できるようになるなど、注意力の改善が報告されました。
◾️社会的交流の改善: 友人や教師とのコミュニケーションが向上し、社会的な行動の変化が確認されました。

「ドラミングには、身体活動、協調性、音楽性のユニークな融合があり、これらすべてが健康に有益であることが知られています。 子どもたちがこのチャレンジに挑戦し、成長するのを見るのは素晴らしいことです。 ドラミングは、さまざまな人々にポジティブな影響を与える可能性を秘めている。」
Scientists reveal drumming helps schoolchildren diagnosed with autism / 自閉症と診断された小学生にドラムが有効であることが明らかに

Dr Steve Draper, Dean Research and Knowledge Exchange
Science Daily

2. 自閉症スペクトラム障害(ASD)への効果:

英国の研究で、自閉症の青少年が8週間のドラムレッスンを受けた結果、以下の効果が確認されました。
◾️ 多動性や不注意の軽減: ドラム演奏により、多動や注意欠陥の症状が軽減されました。
◾️ 感情コントロールの向上: 感情の自己制御能力が向上し、行動の安定性が増しました。

『我々の研究は、ドラミングが自閉症の青少年の多動と不注意を減らすだけでなく、抑制制御と行動結果監視を司る脳領域の機能的結合を強化するという強力な証拠を提供する』
Drumming should be taught in schools to help children deal with dyslexia and autism, scientists say / 難読症や自閉症に対処するためにドラムを学校で教えるべきだと科学者が発表

3. 認知機能への影響:

脳科学者の宮﨑敦子氏によると、ドラム演奏は空間認知能力やIQに関連する脳の領域を活性化させる可能性が示されています。
◾️ 空間認知課題の成績向上: ドラム演奏者は、空間認知に関する課題で高い成績を示す傾向があります。
◾️ 脳の白質の増加: ドラム演奏により、脳内の白質が増加し、認知機能の向上に寄与する可能性があります。

認知症や筋力低下の改善に「ドラム演奏」が効果的なわけ 脳科学者のDJが高齢者施設で検証した音楽プログラムとは

これらの研究は、ドラム演奏が発達障害の子どもたちや不安感を抱える人々に対して、運動能力の向上、集中力の改善、社会的スキルの発達、さらには認知機能の向上など、多面的な効果をもたらす可能性を示しています。


5.終わりに

本格的なレッスンを始める前は、手拍子を合わせることも難しかったマコトに、ドラムは「難しそう」という先入観を持っていました。けれども、当時本人にとって不安の大きかった場所(学校など)ではなく、安心できる環境下で挑戦できたことは幸運でした。不安を恐れず一歩を踏み出してみて、本当に良かったと感じています。

吸収力の高い時期にリズム感を養える環境を整えられるかどうかは、子どもの可能性を広げる大きな分かれ目になるのかもしれません。ドラムを通じて得られた、不安感の軽減、体幹、タイミングが合うことで得られる達成感・自信、は、マコトの成長にとって欠かせないものでした。また、「タイミングを掴む」というスキルは、何気に過ごす私たちには気付きにくいですが、日常生活のあらゆる場面で必要とされるものであり、不器用さからの日常の不便が減りました。その重要性を改めて実感しています。

療育機関や教育現場でも、子どもたちがドラムに触れる機会が増えることを願っています。音を通じて自分を表現し、不安を乗り越える経験が、多くの子どもたちにとって大切な一歩になるはずです。

「叩けば音が鳴る」――このシンプルな体験が、どれほど大きな変化をもたらすか。その可能性を信じて、一人でも多くの子どもたちが音楽に触れる機会を持てることを願っています。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました..! 🙏✨

Photo taken by Krys Amon of Unsplash


参考文献
スピーチに伴う生理的反応と主観的緊張感および指標間関連について政本香/Health and Behavior Sciences 2 (1), 2003, 27-34

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