2023年ベスト本
遅ればせながら、2023年に読んだ本の中から好きだった10作を紹介したいと思います。紹介は読了順です。
植物少女
朝比奈秋/朝日新聞出版
第36回三島賞受賞
生と死、命の重み。小説はこれらをテーマにした作品が多い。誰もが生き、そして死にゆくことから避けられないからだ。読者が他人事と放り出さずに自分事と考える。そして実際、考えやすいテーマである。
そんな作品はいくつも読んできたが、中でも『植物少女』は一番「生きる」とは何か、を教えてくれた作品だと感じた。
表紙の花が裏表紙では枯れている(色味が無くなる)ところも、この作品を好きになった要素の一つだ。
皆のあらばしり
乗代雄介/新潮社
第166回芥川賞候補
純文学でありながら、話のテンポはミステリさながらのわくわく感がある。
この作品は何かを本気で学ぼうとしている方、挑戦しようとしている方にぜひ読んでもらいたい。読後感は清々しい爽やかさがありながら、この先大切にしたくなる「信条」ともなり得る考え方のヒントがあちらそちらに散りばめられている。
ヘヴン
川上未映子/講談社
芸術選奨文部科学大臣賞受賞
第20回紫式部文学賞受賞
2022年ブッカー国際賞 最終候補
読書中ずっと苦しかった。読み終えた時、読み始めた時よりもずっと本が重く感じた。
人の心を的確な"言葉"で描写することはとても困難なことだ。『ヘヴン』はいじめられている人の心情が伝わるだけで無く、その人間性まで読者に伝わった。そう考える人だからこの行動に繋がった、という矛盾の無さも良かった。
重苦しく辛い物語でも読むことから絶対に避けてはならない。できることなら一人残さず全員に読んでもらいたい。
鳥がぼくらは祈り、
島口大樹/講談社
第64回群像新人文学賞受賞
昨年読んだ中で一番心に残ったのが『鳥がぼくらは祈り、』だった。タイトルから想像できる通り、この作品の文法・文体はとても独特だ。これは島口さんのデビュー作だが、選考に関わった古川日出男さんによると「文法の破綻した叫び」だそう。
いつの間にか変わっている視点、自分までもが物語の中の登場人物となっている、といった錯覚まで楽しい読書体験だった。
乳と卵
川上未映子/文藝春秋
第138回芥川賞受賞
関西弁の軽快な口調で物語は進む。読点の少ない文章に最初は戸惑いつつ、ラストシーンに大きく心が揺さぶられた。
所々に小学生の娘の日記が挟まれる。母と交差する感情に苦闘する姿に苦しくなりながらも、どこか過去の自分を見つめている気持ちになった。
たゆたう
長濱ねる/角川
時には趣向の違うものを、と思ってタレントさんのエッセイを手に取ってみた。
疲れることの多い現代社会、小説を読むパワーも起きずに眠ってしまうこともしばしば…。そんな時に長濱さんのエッセイはとてもおすすめだ。小説ほど長い文章では無いし、切りどころがつきやすいエッセイは寝る前の5分、出勤登校の隙間時間に最適な一冊だと感じた。文章もどこか安心感があり、頑張ろうと思わせるエピソードも多い。
父と私の桜尾通り商店街
今村夏子/角川
この作品は全6編入った短編集だ。どの作品も一つ、二つほどの違和感がある。"違和感"を生み出す天才・今村夏子の世界観を存分に楽しむことのできる一冊だ。気味の悪さや異常を覗き見したい時、この作品を読むだろう。
ひとり日和
青山七恵/河出書房新社
第136回芥川賞受賞
大人と言われる年齢になったはずなのに、まだ精神的には子供の頃から止まったままだ、と感じる時は無いだろうか。そう感じたことがある人に『ひとり日和』を捧げたい。
鬱屈とした時間が流れる中で、少しずつ成長していく何か。その何か、が書かれた作品である。静かに進む本作だが、読んでいる時よりも読後に作品の凄さを知る。
えーえんとくちから
笹井宏之/筑摩書房
昨年、私に一番勇気を与えたのは『えーえんとくちから』だったと思う。短歌が沢山収録された歌集。一つお気に入りの歌集があるだけで、どれだけ心強いことか、以前までの私は知らなかった。たった31音の言葉が人を救う言葉に変わる。そんなことに感動した。
歌集といえば装丁に拘っている印象があり、値段も高いので手が伸びづらいかもしれないが、本作は文庫になっているので「騙された」と思って読んでみてほしい。明日、明後日、何年後か。いつになるか分からないけれど、いつかの自分を救う、支える31音があるはず。
窓ぎわのトットちゃん
黒柳徹子/講談社
ベストセラーを読もう、と手に取ったのが『窓ぎわのトットちゃん』。黒柳徹子さんの子供時代の話を鮮やかな筆致で描いたもの。
くすっと笑えるところがあったり、助け合う児童の姿に感動したり、別れに泣いたり。優しい言葉で綴られるあったはずの日常からいつの間にか元気やら勇気やらもらっていた。これはたしかに傑作である。