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軽いノリノリのイルカ|満島ひかり、又吉直樹
「軽いノリノリのイルカ」は回文である。回文とは、上から読んでも下から読んでも同じ文字列になる言葉のことだ。「かるいのりのりのいるか」とひらがなで書くとより分かりやすい。そんな回文を作るのが得意な満島ひかりと、小説家としても知られる又吉直樹がタッグを組んだのが『軽いノリノリのイルカ』だ。
私がとくに驚いたのは満島ひかりの作る回文だ。「トマト」「新聞紙」「竹藪焼けた」くらいの短い回文はパッと思いつきそうだが、満島さんの回文はその一段上を行く。
心映る川と月、甘い恋と曖昧、あと憩い。
まぁきっとわかる、通路ここ
(こころうつるかわとつき、あまいこいとあいまい、あといこい。まぁきっとわかる、つうろここ)
もう、とんでもなく長い!こんなに長くなると意味も頓珍漢になりそうなのに、満島さんの回文は筋が通っているように思う。上の回文だと、恋に悩む人が川と月を眺めて休みながら、恋の進むべき道を探しているように捉えることができる。すごく詩的で幻想的な風景が浮かぶ。
更に長いものになると、こんなものまで。
アイディアを活かして糸を介し可笑しみ悟る
読むわたくしらおしまい
あのねの合間しおらしく撓む夜とさみし顔
詩歌を解いて視界をアイディア
(あいでぃあをいかして いとをかいし おかしみさとる よむわたくしら おしまい あのねのあいま しおらしくたわむよると さみしが(か)お しいかをといて しかいをあいでぃあ)
満島さんは回文を作るとき、メモは取らずに頭の中でイメージするらしい。文字を覚えておくことだけでも苦労するだろうに、こんなに長いものが出来るなんて!
満島ひかりが生み出した回文から着想を得て、短い物語を又吉直樹が書く。ほっこり、ファンタジー、ホラー、妖怪や怪獣が出てくるものなど、普段の又吉さんの作風とは少しずつ違うので新鮮に感じた。
文体は又吉さんだけど、設定や登場する人物などは満島さんとの共作でなければ生み出されなかっただろうなというのがいくつかある。自分が一番お気に入りだったのは、「ハラリラ 小さなしょんぼりリボン よしなさい、チラリラは」という話だ。
回文を読んでいたら、私も長い文章のような回文を作ってみたくなった。満島さんのようにメモを取らずには難しかったので、書き出して作ってみました。
廃れた駅と消えたレタス
(すたれた えきと きえた れたす)
悔い模索し、草も生く
(くい もさくし、くさも いく)
鎮火バテた、きっと一月経てば完治
(ちんか ばてた、きっと ひとつき たてば かんち)
どうでしょうか。満島さんのように長いものは作れなかったけれど、トマト新聞紙よりは成長したかなと思います。
回文は自分が意図していなかった世界に連れて行ってくれる気がする。言葉が意識の外にある感覚。私の作った回文はあまり意味の通じるものにならなかったけれど、満島さんのように詩的で美しい回文をいつか作ってみたい。
上から読んでも下から読んでも同じ「回文」から編み出されるファンタジックな「掌編小説」
満島ひかりが生んだ奇跡の回文をもとに又吉直樹が苦しみながら物語を書き下ろしたGINZA連載の回文物語集「まさかさかさま」が待望の書籍化