『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介
芥川賞には時々、価値観をリニューアルさせる小説があるけど、『スクラップ・アンド・ビルド』はそんな作品だった。
死の捉え方が私にとって新鮮だった。
孫は祖父を殺したい訳ではない。願いを叶えてあげたいだけ。簡単に殺人とはならないこの、地道な殺し方をどう捉えたら正解なのだろう。
自分がいつも好んで読むようなジャンルでは無いけど、良い小説だと思った。ユーモアがあって笑えるのだ。例えば、
「おじいちゃんのこと、好き?嫌い?どっち?」と主人公に聞きたくなった。どっちつかずな態度を取り続けるから。家族の形が輪郭だけにならないで、と祈り続けた。
この作品の肝は、行動を飛び越えた主人公の感情。
主人公は祖父が「生」にしがみついていると分かったとき、「死にたい」が一体なんだったのかと立ち止まる。
祖父が「生きたい」と思ったとき、今まで自分のやってきた事は人殺しに変わってしまう。それだと困るから、「死にたい」と思うように印象操作を始める。自分の若い肌を見せる、とか。そこにモヤモヤを感じた。
主人公の感情を、場面ごとに都度考えることがこの小説の一番面白いところ。合理的且つ理論的な行動の根本は、彼の感情で全て動いていることを実感させる。
羽田圭介さん、今回が初読みだったけど結構読みやすかった。もっともっと難しいイメージだった。真面目に考えて移した行動がしょうもないから面白かった。そういうところを芥川賞では評価されたんじゃないかな。
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