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『もういちど生まれる』朝井リョウ
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バイトを次々と替える翔多。美人の姉が大嫌いな双子の妹・梢。才能に限界を感じながらもダンスを続ける遥。若者だけが感受できる世界の輝きに満ちた、背中を押される爽快な青春小説。
小学四年生のとき、突然児童文庫に飽きてしまった。そんなときに図書館で借りたのが朝井リョウの『世界地図の下書き』だった。挿絵のない本を読んだのは多分あれが初めてだと思う。読み切った達成感でわたしはレベルアップした、と思った。読書は幼い頃から続いている趣味だけど、朝井リョウがいなかったら、ここまで本を好きにならなかったかもしれない。
すっかり純文学好きになったわたしは、所謂エンタメ小説を読む機会が減った(全く読まなくなったわけではないけれど)。だから朝井リョウを読むのも随分久しぶりだった。夏らしい本を読みたくて積読の山を探っていたら、線香花火が表紙になった『もういちど生まれる』を見つけた。
『もういちど生まれる』は連作短編集だ。五つの短編の登場人物たちが絶妙に絡み合う。彼らはみんな大学生の年代で、だからなのか文体も軽く、なんとなく浮ついている。よく考えれば今のわたしと同じような歳の子たちなんだよな、と思いながら読み進めた。
五つの中でお気に入りは表題作『もういちど生まれる』だ。可愛い双子の姉が羨ましくて、だから嫌いという話。いつも姉と比べられて、容姿に自信がなくて、二浪して燻っている主人公にまるで手を差し伸べるかのようなラストシーン。〈物語〉を読んでいるのに、作家の人間性を覗いたような気がした。(人間性というか、作家性と言うのでしょうか?)
朝井リョウはずるい作家だ。狡いというより平仮名のずるい。感情の揺さぶり方を知っている人の書き方をする。それも「こう書けば感動するでしょ」と見せびらかした感じは一切感じないのが良い。さりげなく、感動が待っている。魅せ方が上手い文章とはこういうのを指すと思う。
一度朝井リョウを読むと、もう前の自分には戻れない。新しい価値観が自分に植わる感覚がする。それを味わいたくて、また朝井リョウを読む。