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俺がつけたA評価が相対評価でBになったんだが

 人事評価の時期になると、こんな不満を耳にすることがあります。「俺がつけたA評価が、相対評価の調整でBになったらしい。どういうことだ?」と。特に1次考課者として部下の評価を担当した管理職にとって、自分のつけた評価が覆されることはプライドに関わる問題です。しかし、それをそのまま部下に伝えることは、マネジメントとしての責任を果たしていない行為に他なりません。

 そもそも、評価において「相対評価の調整が入る」ことは多くの企業で一般的です。それは限られた評価枠の中で公平性を保ち、組織全体のバランスを取るために必要なプロセスです。そこで問われるのは、1次考課者のフィードバック姿勢です。
 相対評価を踏まえ、1次考課者がどのように部下に向き合うべきかを示してみましょう。

相対評価が生じる背景

多くの企業では、人事評価を行う際に相対評価の調整が導入されています。これにはいくつかの理由があります。

1.評価の分布を適正化するため
 限られた予算やポストに応じて評価を分布させることで、組織全体の公平性を保つ役割があります。同じ部署内での比較だけでなく、全社的なバランスも求められるため、調整は避けられません。

2.一貫性を保つため
 1次考課者による評価は、どうしても主観が入りやすいものです。そのため、最終的な調整によって、評価基準を統一することが目的です。

 このような背景があるにもかかわらず、「俺の評価が覆された」という不満を抱く1次考課者は少なくありません。しかし、ここで重要なのは、自分の評価が調整されたこと自体ではなく、それを部下にどう伝えるかです。

相対評価での調整を部下に伝えることの危険性

もし、1次考課者が「相対評価で調整が入ったため、君の評価はAではなくBになった」と部下に伝えた場合、どのような影響があるでしょうか。

  1. 部下のモチベーションを損なう
     部下からすれば、「本来の評価はAだったのに、不公平な調整でBにされた」と感じるかもしれません。これは、評価への納得感を大きく損ねる結果となります。

  2. 上司としての責任を放棄する行為
     1次考課者が「調整された」と説明することは、自分の評価の責任を放棄する行為です。部下から見れば、「上司は自分の評価を守ってくれなかった」と受け取られる可能性があります。

  3. 組織への不信感を助長する
     調整の存在を明かすことで、組織の評価制度自体への不信感を与え、結果としてチーム全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。

1次考課者に求められるフィードバック姿勢

では、1次考課者はどのように部下に評価を伝えるべきなのでしょうか。ここで重要なのは、調整の有無を伏せた上で、現在の評価を納得感のある形で伝えることです。

  1. 「これが今の君の評価だ」と示す
     部下に対しては、「君の今期の評価はBだ」と明確に伝え、その理由を説明します。調整のプロセスについては言及せず、あくまで評価の内容に焦点を当てることが大切です。

  2. 評価基準を具体的に示す
     なぜその評価になったのか、具体的な事例や数値を基に説明します。たとえば、「プロジェクトAでは成果を上げたが、プロジェクトBでのチーム貢献度が期待値に届かなかった」といった具体性が必要です。

  3. 次に向けた改善点を提示する
     評価の目的は過去を振り返ることではなく、未来に向けた成長の指針を示すことです。「次回はどうすればA評価を狙えるのか」という具体的な行動計画を示すことで、部下のモチベーションを保ちます。

フィードバックは信頼の構築の場

1次考課者の役割は、部下の評価に責任を持ち、その評価を通じて信頼を構築することです。「調整が入ったから仕方がない」という姿勢ではなく、「これが今の君の評価であり、私も納得している」という姿勢を示すことが、上司としての責任です。

 部下に評価を伝える場は、単なる通知の場ではありません。それは部下の成長を促し、信頼関係を強化する重要な機会です。評価のフィードバックにこそ、本気で向き合いましょう。そうすることで、部下だけでなく、組織全体を強化することができるのです。

平康慶浩(ひらやすよしひろ)