『千手學園少年探偵團 図書室の怪人 / 金子ユミ』(光文社キャラクター文庫)を読んで。
はじめましてこんにちは。自称読書好きの春風ともうします。日中はそこそこ暑くて朝晩はちゃんと寒い、秋みたいな秋。最近は午後8時にはスマホの電源を落とし、プチデジタルデトックスをして読書にいそしんでおります。
前回に引き続き、千手學園シリーズの第2巻『千手學園少年探偵團 図書室の怪人 / 金子ユミ』(光文社キャラクター文庫)の感想を書いていきたいと思います。押忍。
ちなみに前回の1巻感想記事がこちら。
―― 注意 ――
・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。また、1巻の感想記事よりも多く、1巻のネタバレをしています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。
◇感想の、その前に
金子ユミ先生がnoteにアカウントを持ってらした!
調べてから感想を投稿しろよ~、という感じでもありますが、なるべくならネタバレを踏みたくないので、わたしは最新の3巻を読んでから閲覧したいと思います。千手學園少年探偵團の番外編があるっぽい! めっちゃ読みたいな。早く読も。
◆千手學園少年探偵團 図書室の怪人 / 金子ユミ
(あらすじ)名門私立千手學園には、今日も妖しい呪いの噂が飛び交っている―。ある日、一年生の富貴が“図書室の怪人”に出くわしたと生徒たちの間で大騒ぎに。浅草育ちの永人は、慧や昊、乃絵らと真相究明に乗り出すが、生徒会長の東堂に「この件は忘れたまえ」と横槍を入れられてしまう。そして、永人が千手學園を退学するという噂が―!?大正浪漫の香り漂う学園ミステリ!
◇かっこいい東堂広哉がかっこいい表紙
バツムラアイコさん( @Btmr_Aiko )による表紙。語彙力を失うかっこよさ。千手學園不動の(?)ツートップ。生徒会長・東堂広哉と副会長・黒ノ井影人。イメージのその上をいく。
腹黒生徒会長に白の装丁って嫌味かなにか?(笑)、と思いながら今回も真っ青な帯がよく映えてます。今回の帯の太字は「正解だ。この件は忘れたまえ」言われたい、そのセリフ。
わたしは帯も表紙の顔だと思っているので、小説はいつも帯をつけたままで『コミック番長の透明ブックカバー』をかけてしまうのですが、今回ばかりは剥がしたい気もする東堂広哉がかっこいい。
1巻表紙から気になってるんだけど、永人の腕の赤い紐はなんだろう?
◇この作品好きだな、と改めて思う第一話
第一話は表題にもなっている「図書室の怪人」。図書室にあらわれ呪いをかけるという噂の怪人を見てしまった富貴健右という新1年生の視点から物語ははじまります。怪人の正体を暴こうと少年探偵團が出動する。はじめは異端の編入生・檜垣永人に憧れのような念を持っていた富貴でしたが、図書室の係員・千手鍵郎(千手一族の落ちぶれ)に対する格差意識を露わになった途端、永人は富貴に激高し「勝手に呪われろ」と見捨ててしまいます。永人の地雷はコレだとハッキリわかる超重要なシーンです。
これは、永人が一番大事にしている部分がそこだった、というあらわれじゃないかと思いました。ここだけではありません。物語を読んでいきながら、永人はこれに怒るのか、これは許すのか、と彼の性格の機微がわかっていきます。わたしはそういう『人物を知っていく』のがめちゃくちゃ大好きで。
◇読み進めるほどキャラクターを好きになっていく
このシリーズは1巻当初から『永人を応援したい!』と思いました。でもそれは、なんとなく、そう思っただけなんです。主人公だし、善な人だと思いたい、という特に理由のない先入観。
でも、です。ちょっと疑問に思う点があります。檜垣一郎太は悪い人なのだろうか? 彼にも明かされていない事情があるやもしれない。東堂広哉の行動にだって、何か理由はあったかもしれない。もとはと言えば蒼太郎もどうして? まだまだ謎だらけ。
永人を応援したい。けれど『主人公だから』、『不遇な境遇だから』、ではなく、応援したくなる理由が、もっとなにか具体的な理由がほしい。
よくは知らない生徒の富貴を助けようとした親切なところだったり、自分の大事なものを悪く言われたときにちゃんと腹を立てられるところだったり、読み進めるほど、永人の性格がわかっていく。性格がわかっていくのは永人だけではありません。慧も、昊も、東堂だって。この小説はそんなひとりひとりの掘り下げがしっかりしてて興味をそそられます。
富貴だって、まぁ永人は怒らせてしまったけれど、彼も彼なりに事情はあった。永人に見捨てられたあと手のひらを返すように永人を恨み、他の生徒達に永人の悪口をいいふらしまくった富貴も掘ってみれば理由がある。貿易会社の御子息で甘やかされて育った、とのことなので、富貴もあんな性格になる理由がある。憎めないとはまた違うんですけど、悪があるから善が光るような。いや、富貴を悪って言っちゃうのも違うかなぁ……ある意味でお坊ちゃん育ちで、耳障りのよい言い方をすると富貴が学生の時分に、永人のような男に出会えてよかったな、と率直に思います。甘っちょろい考えかもしれないけど、メインキャラ以外へのフォローも忘れないってやさしいと思う。
慧のことを永人は「お前って実は底意地が悪いけどよ、可愛い顔してえげつないし、ヘンに肝が据わってるっつーか鈍いけどあるけどよ。だけど俺、お前の事嫌いじゃねぇよ」と言います。(26頁)
『富貴を嫌いだ』と思い、『慧を嫌いだとは思わない』理由を永人が自己分析した発言です。慧も真人間というわけじゃ全然なく……(正直、わたしは慧を東堂広哉よりも曲者なのではと思っています)永人は気に入っています。永人を永人として見てくれるところが、永人が慧を『嫌いじゃない』理由です。昊も、乃絵も、『嫌いじゃない』なのでしょうね。
2巻の感想noteでは登場人物紹介はしませんが、だれもかれも興味深くて面白いです。たとえば『影人と永人は休み時間にカード遊びで楽しんだりするんだな?』とか『それを東堂さんが後ろから見てるの? 仲良くない?』とか『慧ってやっぱり性格よくないよな……』とか『昊が一番まともなんじゃないの』と思ったり。めっちゃサブキャラっぽい潤之助くんもいい子なんですよー。来碕兄弟とどんな幼馴染だったのかが気になります。来碕兄弟はまだまだ掘る余地が十二分にありそう。慧のヤキモチも『……?』なので。
◇謎にはまだ、続きがあった
1巻できれいに終わっていたふうに見せかけていて、檜垣蒼太郎が逃亡するのを東堂広哉がなぜ助けたのか、という謎が残っていました。動機の部分です。檜垣一郎太(と檜垣永人)を手駒にするにしても大事が過ぎないかと。蒼太郎のアレが彼の本気の願いだとしても、永人の存在についてある程度情報がないとあの逃亡劇を作戦立てられなかったんじゃないかと思ったり……。東堂と蒼太郎の問題が、千手學園少年探偵團の一番の本筋なんじゃないかって気がします、今のところは。
◇東堂広哉と黒ノ井影人の確執
確執といいますか、『東堂と黒ノ井は親友なのかと疑問に思う』と1巻の感想で書いたところやはりこの件についての情報が追加されていく2巻でした。お互いを「広哉」「影人」と呼ぶような仲ではあるけれど、東堂の親友は、影人ではなく蒼太郎のほうだったのではないかと。
東堂は公爵家で、檜垣は伯爵家で、どちらも華族(と思われます)。黒ノ井はというと、黒ノ井製鉄社は今は国一番の大企業でも三代遡れば地方出身の金物商。黒ノ井は爵位を与えられた立場の男爵家。
東堂が影人個人を下に見るようなことは絶対絶対なさそうだけれど、影人のほうがなにかを思ってるふうなところはある。肝心なところで一歩引いちゃいそうな。続きでなにかあるのか楽しみにしたい要素です。
◇檜垣蒼太郎の人物像が少しだけ見えてくる
第四話「回廊の白蛇」では、浅草で蒼太郎らしき男の姿を見かけたという情報を聞きつけ、檜垣詩子(檜垣家の長女・永人の義姉)と共に永人は浅草を探し回ることになります。詩子はお嬢様で世間知らずなところがある。けれど、檜垣家の中では唯一話がわかる人ではないのか? 永人のこれからの助けにならないか? と期待の持てる雰囲気がありました。
そして蒼太郎も、東堂広哉の友人(ともすれば親友?)だったほどの人物だった、らしい。しかし檜垣一郎太やヒステリックな義母・八重子の性格を考えると、その息子の蒼太郎が東堂広哉の親友だとはすぐには結び付かない。まさか腹黒同士で気が合ったのだろうか?←これはさすがにまさかと思う。
◇大正時代の倫理観、一郎太は悪なのか?
一郎太って、そんなに悪いのでしょうか。大正時代の倫理観は令和の今とはずいぶん違う気もする。この作品に描かれている伯爵家の主の男と、妾とその子の関係は、大正時代には当然だったかもしれない。
永人は一郎太を憎んでもいい、けれど、読者まで一郎太を憎む理由がないような。なにせほとんど言葉を交わしていない永人と一郎太なので、一郎太の人物像がまだ掴めていない。あくまで永人視点の話、表面に出ているだけのものなので、これから一郎太が登場するシーンがあったら彼の本質にも注目していきたい。
◇やっぱりあった、お耽美
なきゃおかしい、みたいな要素ですが、千手學園シリーズにもありました。第三話で扱われた一年生の比井野葉介と五年生の天童戒、元同室であった彼らの間の恋愛未満(適当な言葉がわからない……トーマの心臓みたいなやつです(読んだことないですが)。今でいうBLとはまた違ったお耽美な……トーマの心臓みたいなやつです #伝われ
金子ユミさんはBL作品も書く作家さんということで、そっちの方面で期待される読者さんもいらっしゃると思いますが、わたし個人はこの第三話以外(比井野と天童戒以外)からはBLっぽさは感じることは今のところ特にありません。慧は永人のことを好きみたいですが、純度100の友情だし、どこをどうひん曲げても恋愛になるとは到底思えないです。
三話のこの件のネタバレは特に避けたい話なので、これ以上は書きません。千手學園が旧制中学だとすると、一年生は12歳、五年生は16歳、第二次性徴を通過するという微妙な年齢の男子を一つ屋根の下に集めるとどうなるか、二人を被害者だとは思わないけれど、今後シリーズの中でこの二人の話の続きは………………書かれない気がする。どうだろう。今はそっとしておいてあげてほしいような気持ちです。
そうか。東堂広哉は16歳か。
◇どの話も結末が描かれていないのは
この『結末』は、わたしが思う『結末』です。どの話も、この物語には続きがあるんじゃないか?なところで終わっています。永人達の學園生活はこれからも続いていく、という暗示なのか、誰かを懲らしめるための探偵團ではない(東堂広哉とは違う)、という意味が含まれているのか、かな?
◇わたしと永人の違い
1巻を読んでる途中でわたしは『檜垣の家をうまく利用してやればいいのになぁ』と思っていました。悪い大人のくせで、いずれそうなる物語なのだろうと思ってしまっていました。
しかし永人本人にはそんな考えが毛頭なかったことが、1・2巻を読んでいるとそんなふうに伺えます。これがわたしと永人の違いでした。永人はわたしとは違う、と思わせられたともうしますか。
千手學園に放り込まれたのは百歩譲っても、母の千佳と離ればなれにしたくせに、檜垣の家では息子としての扱いが微塵もなかったことに、永人は一郎太に対して恨みを持っていました。けれど『恨みを晴らしてやる』などという目標を持つまでに永人は至りませんでした。
母の生活を守るために、その場しのぎに近いかたちで今のところは千手學園でおとなしくいてやろうとしていただけで、永人には未来の展望はなにもなかったのです。
これも実に当たり前のことだと思います。浅草で育ち、これからも母と支え合って生きていくんだと思っていたところを突然伯爵家に実子として召喚されたら。永人には未来を描く力がなかった、ということだとわたしは感じました。
で、千手學園で色々あり、2巻の最後で永人は、なにをするにもまず金だと言うことを学び、金が得られるようになるにはどうしたらいいと考え、それならば檜垣を踏み台にしてやろう、と決意するまでに至ります。あわよくば東堂広哉も利用してやろうと!?なんとも夢がある話じゃありませんか。
やっと『永人を応援したい』と本気で思えるようになりました。やったね!
この作品のこういうところが好きだなぁと思うんですよ。『理由』と『過程』をちゃんと書いてくださってる作品がまじで大好き。感謝です。
◇それにしても、四角関係?
乃絵がヒロインだと思っていたのですが、(永人もちょっと乃絵のこと意識する描写がちらほらあるし)、でも昊と乃絵のペアがかわいかったりする?、ので慧も妨害しないでほしいなぁと思ったり。この四角関係どうなるんだろう!今後も気になる要素です!
早く3巻を読もう!ということで2巻の感想はこのくらいで。
◇スペシャルおまけ・かわいいのとかっこいいの
こんなの見つけた! 16歳の出せる色気……!?
◆外部リンク
・金子ユミさんTwitter ( @yumikmiyu )
・バツムラアイコさんTwitter ( @btmr_aiko )
・光文社キャラクター文庫 編集部のおすすめシリーズ『千手學園少年探偵團』
◆後記
今回の感想は難しかった。読後に少し時間が空いてしまったのと、noteに感想文を書くということを意識しないようにして読書するように心がけていたら、いざ記事を書くときになってなにを書けばいいかになってしまって本末転倒気味に。読んでる途中に、書きたい、と思った項目を箇条書きしてみるといいかも? みんな最初からうまくは書けないよ、とどこかのnoteで読んだので気長に頑張っていきまっしょい。東堂広哉は16歳。
今回の表紙画像のヘッダー利用は光文社さんの許可済みです。