短歌 2020年下半期の自選60首「廃油の海を笑顔で泳げ」(前半)
西暦も終盤となり世界地図を描く夢を追うことは出来ない
「読書です」そう答えたらつぎの句に東野圭吾が出てくる遠さ
隊長も仲間も捕虜も母すらも笑顔のままに欲す殺戮
うつくしいひとから消える病んだ街 廃油の海を笑顔で泳げ
完全なマネキンとなり削られた白いいのちを愛してました
逆上がり出来る/出来ない断つ白線 壁立ち上がる東西ドイツ
受付のひとの語勢が荒れている ポイ捨てされる河川の水面
倒れ伏す騎士を見送る者はなく血のあとを消すながいながい雨
クローバーさがす子どもを突きとばし貫きとおす鉄製正義
小6の「希望の朝」の書き損じを抱いて夏へと駆けてゆきます
ハギの尾ひれがついた話を聞かされるエイのしっぽのような一日
進むため目は前にあるとの動議 元老院をマンボウは泳ぐ
水槽のきみのきもちはわからんけど竜宮城へつれていってよ
ペンギンの哲人たちが思索する天に揺らめくオーロラの示唆
無人深海探査艇の邂逅 古第三紀の赤蟹の甲
人は空ばかり見ている海溝に太古の白を滲ます海月
かんたんで期間限定すぐ勝ててみんなやってる本格ソシャゲ
渋谷交差点の信号青に変わるたび靴音のなか埋もれてくもの
今日からは90キロで走ります無理はうそつきの言葉なんです
耳栓の108円のレジ 会員カードをなぜかつくってしまう
フツウとは平均でなく無欠ですアキレスと亀みたいなレース
詩ではない信号である繰り返す詩ではないもう心臓である
遠い夏 綾波レイにふれたいと駆け出した夏 ほんとうはまだ
QUITの脱けたループの反復で倫理は音へ解体されて
もう彼が「拒絶の矢を」と歌っても聞き飽きていてよく聞こえない
飴色のフィルムに在らぬ畑には論理回路でCALLできない
ペンギンという語の像と目の前に直立しているペンギンの差異
静脈を左へ行けば天使様を惨殺している僕もいたはず
ひまわりを讃える声が許せない自分を否定されてるようで
雨が降る街で激しく死ぬけもの緩やかに死ぬけもの ダンスを
(後半へつづく)