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人事評価へのナットク

人事評価を運用している企業の経営者や人事部門の皆様に、1つ質問があります。

皆様の企業の社員は、人事評価に納得していますか?

この質問を投げかけた背景には、社員の納得感が低くなると、その企業の成長や安定に深刻な影響を与える可能性があるからです。社員の評価に対する納得感が欠如していると、モチベーションやエンゲージメントの低下を招き、ひいては企業全体のパフォーマンスにも影響を及ぼすことになります。

納得感を欠く原因は何か?

人事評価に納得感が低いと感じる原因の一つに、「公正な評価」が確保されていないことが挙げられます。「公正」には大きく分けて2つの側面があります。

  1. 分配の公正性
    たとえば、最高評価を受けた自分と、真ん中の評価を受けた彼が、ほぼ同じ昇給額や昇進を受ける場合、「なんでやねん?」となります。これは、評価に基づく報酬や待遇の不公平感を引き起こすため、納得感が得にくくなる為です。

  2. 手続き的公正性
    評価基準やプロセスが事前に説明されていなかったり、評価者が頻繁に変わったり、評価内容についてのフィードバックが十分でなかったりすると、社員は「なんでやねん?」と感じるでしょう。さらに、異議申し立ての機会がない場合なども、手続きの不透明さや不公正を感じさせます。
    特に「手続き的公正性」の欠如は、評価に対する納得感を大きく損なう要因として、多くの研究で指摘されています。もし、社員の間で評価に対する納得感が低いのであれば、「手続き的公正性」の問題が潜んでいる可能性が高いと言えるでしょう。


評価制度の公正性確保は本当に可能か?

筆者は正直に言うと、現代の評価制度の枠組みでは、公正を完全に確保するのは難しいと感じています。近年、学者たち(たとえば学習院の守島教授をはじめ)が指摘しているように、評価制度のみに依存して評価の納得感を向上させるのは無理があるのです。
そのため、評価自体の公正性を担保するだけでなく、納得感を醸成するための他の施策も必要だという意見が多く出ています。それが、「評価者研修」や「フィードバック面談」、場合によっては「1on1ミーティング」などです。


納得感が高まる理由とは?

それでも、同じ評価条件(公正な評価と納得感を高める施策)でも、納得する社員と納得しない社員がいるのはなぜでしょうか?
これが、今回のコラムで考えたいテーマです。

  1. 上司との関係性が影響する?
    評価への納得感に最も影響を与える要素の一つは、「上司と部下の関係性」だという研究結果もあります。
    吉田(2016)の研究によると、部下が上司を信頼している場合、人事考課への納得感が向上するという結論が導かれています。嫌いな上司にどれだけ公正に評価されても、納得できないというのは納得のいく結果ですね。
    上司と部下の信頼関係(業界用語では「LMX」=リーダー-メンバー交換理論)に基づく評価への納得感の重要性を再確認する良い機会です。

  2. 多面的なアプローチが効果的か?
    吉田(2016)の研究では、「目標管理」「フィードバック」「評価者研修」「苦情処理」「多面的評価」など、さまざまな施策を併用することで納得感が高まるという結果が得られています。
    このことから、どこが納得ポイントになるのか分からないので、タッチポイントを増やして、全体的な納得感を高めることが重要だと考えられます。つまり、複数の施策を組み合わせて行うことが効果的ということです。

  3. 1on1は評価とは関係ない?
    1on1ミーティングが評価と直接関係ないと言われることもありますが、実際には評価もエンゲージメントもキャリアもすべてが関連しています。
    経営者や人事は、これらをバラバラに考えるのではなく、トータルで捉えて取り組んでいくことが重要です。1on1で評価の話をしないと決めても、実際にはそれが評価にどう影響するかを理解することが、社員の納得感を高める上で有益だと考えます。


結局、評価の納得感をどう捉えるか?

「公正だから納得する」というのは少し違うと思っています。「公正であることを被評価者がどう認識するか」が重要です。つまり、評価が本当に公正であるかどうかに関わらず、社員がそれを「公正だと知覚する」ことが、納得感を生み出すのです。
実際、評価が適正に行われているかは、誰が見ても明らかでない限り、その「納得感」が鍵となります。そのため、納得感を醸成するためには、社員一人ひとりのキャリア観や、何に対して公正だと感じるかに注目し、個別対応する必要があると考えます。

結論として、評価制度を改善することは必要ですが、評価だけで納得感を完全に得るのは難しいという現実を受け入れ、納得感を高める施策(評価者研修やフィードバック、1on1など)を合わせて行っていくことが、より良い組織づくりにつながるのではないでしょうか。

カトキチ@人材・組織開発コンサルタント

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