「人的資本開示」の先行事例 ②株式会社丸井グループ (2023.03.08 Updated)
金融庁が2021年12月21日 に、
「サステナビリティ情報」(2)「経営・人的資本・多様性等」の開示例(好事例集)(以降、「好事例集」とする)
をリリースした。
ここに紹介されている情報を参考に、我が国における「人的資本開示」の先行事例として様々な企業のサステイナビリティレポートや統合報告書の内容(そのうち、人的資本への投資、人材マネジメント、働き方に関する開示部分)を順次紹介していく。また、紹介するのみならず、独自の視点での評価・コメントも試みたい。
今回は、株式会社丸井グループの有価証券報告書(2021年3月期)を取り上げる。
(※2023.03.08 Updated 有価証券報告書(2022年3月期)においてどのような変化・進展があったかを追記。)
「好事例集」においては、評価すべきポイントとして、「社会 【 S 】 及びガバナンス 【 G 】 についての取組みを、定量的な情報も含めて記載」していることが挙げられている。これらについては、当該有価証券報告書のp.13からp.14にかけて記載がある。
第一部【企業情報】
第1 【企業の概況】
第2 【事業の状況】
1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
■ 会社の経営の基本方針
■ 中期経営計画の策定について
■ 株主還元
(※2023.03.08 Updated 有価証券報告書(2022年3月期)において、新たにこの箇所に「人的資本経営の取り組み」という項目が追加された。)
■ 人的資本経営の取り組み
■ 会社の考えるサステナビリティ
■ 将来世代の未来を共につくる(Environment)
といった項目立ての中で、
■ 一人ひとりの幸せを共につくる(Social)
■ 共創のプラットフォームを共につくる(Governance)
と続き、これらの項目の中で説明されている。
少し戻って、
■ 会社の考えるサステナビリティ
の記載内容から見ていこう。
まず、「共創サステナビリティ経営」とは、「環境への配慮、社会的課題の解決、ガバナンスへの取り組みがビジネスと一体となった未来志向の(経営)」と定義している。これにより、環境問題(E)・社会問題(S)・ガバナンス(G)と、ESGの全方位をケアした経営方針であるというアピールに成功している。さらに、単なるCSR的な取り組みにとどまらず、「ビジネスと一体」とすることによって経営戦略上の位置付けに「昇格」させ、持続的な業績向上にも必ずつながるという確信めいたものも感じさせる表現となっている。
また、これまでもずっと「『すべての人』に向けたビジネス」を展開してきたが、今をときめくトレンドワードで表現するなら「インクルージョン(包摂)」であり、「『SDGs(Sustainable Development Goals)』の実現に寄与する」ような取り組みを他社に先駆けてやっていたのである、という自負もうかがえる表現も盛り込まれている。
次に、「2050年を見据えた長期ビジョン『丸井グループビジョン2050』を策定し、『ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る』ことを宣言」と記載されているが、この点についてはぜひ「丸井グループビジョン2050」の内容を一読されることをお勧めする。
この部分だけでも、注目すべき表現が多くある。特に、「インクルージョンには、これまで見過ごされてきたものを包含する・取り込むという意味があります。」という解説がある。そして、「このインクルージョンを通じ、すべての人の利益の重なり合う部分を広げていくことが、すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現につながる」としている。
この点、「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現」というのを、「すべての従業員が『やりがい』を感じられるインクルーシブで豊かな職場環境(労働環境)の実現」と置き換えて考えてみるとどうだろうか。そうすると、これまで見過ごされてきた個々人の強みや特性、能力やスキルといったあらゆるものを包含する・取り込むことによって、すべての従業員のCanとかWillと事業戦略あるいは人事戦略の重なり合う部分を広げていくことが、すべての従業員が「やりがい」(Meaningful Work)を感じられるような職場環境づくりにもつながる、と説明することも可能ではないか。下図でいえば、緑色の部分と青色の部分の重なりをなるべく大きくしていくイメージである。いわば、「誰も置き去りにしないタレントマネジメント」であり、同社にはここも目指していただきたい。
さて、最も注目すべきは、「インクルージョンは理念であると同時に経営戦略そのものであり、二項対立を乗り越え、社会課題の解決と企業価値の向上を同時に実現するためのキーワードである」という点である。SDGs、ESG、DEIといったようなものは押し並べて「理念」や「スローガン」で終わってしまいがちなところ、同社はしっかりと「経営戦略そのもの」と断言し、「社会課題の解決と企業価値の向上を同時に実現するためのキーワード」と位置付けている。このことから、身のある取り組みを確実に推し進めていく企業なのではないか、という確信が持てる。
ところで、「二項対立」という言葉が何度も登場するが、同じく「丸井グループビジョン2050」の中で次のように解説されている。
この点、具体的な例示があることから「あらゆるところに『二項対立』が生じ」ていることはよく理解できるのだが、いきなり「地球レベルの課題」とされたり「現世代と将来世代との『二項対立』」と繋がっていくところには飛躍を感じる。ただ、これに続けて「丸井グループが考える2050年の世界」として、「『私らしさを求めながらもつながりを重視する』『世界中の中間・低所得層に応えるグローバルな巨大新市場が出現する』『地球環境と共存するビジネスが主流になる』という3つの視点から未来の世界を整理」という具体的な説明を続けていることから、全体としては理解できるようになっている。これら3つのうち、特に次の点をみていこう。
ここでも、「未来の世界」という壮大な予測をするよりも前に、「近未来の職場」のあるべき姿を考えてみよう。次のように置き換えてみるのはどうだろうか。
高齢者や障がい者は、それ特有のスキルや能力、特性を有している。他方で、「現役バリバリ世代」や「健常者」といってこれまでマジョリティ扱いされてきた人たちも、それぞれが保有するスキル、能力や特性によって細分化していけばそれぞれがマイノリティと捉えることもできる。逆にいえば、「健常者」といわれている人たちであってもそれぞれが何らかの「弱み」や「欠陥」を必ず抱えている。これらを「障がい」と同じように捉えて良いわけではないが、要は「Intellectual Diversity」「Cognitive Diversity」の観点で捉えれば個々人はすべからくマイノリティなのである。皆が同じようにマイノリティであるので、マイノリティという概念が不要になる。すべての人が自身の持ち味を存分に発揮して、「私らしさ」を追求できる。さらに、HRテクノロジーの活用により、従業員たちは個を保ち自分らしく仕事をしながらも、要所要所で他者とコラボレーションをしていく。ここでは、スキル・コンピテンシーのデータをベースとした、マッチングの仕組みが鍵を握る。
ではここからは、冒頭に紹介した「項目立て」の中の
■ 一人ひとりの幸せを共につくる(Social)
(※2023.03.08 Updated 有価証券報告書(2022年3月期)においては、この部分が切り出されて「人的資本経営の取り組み」という項目に「昇格」した。)
■ 共創のプラットフォームを共につくる(Governance)
の内容をみていこう。特に、「好事例集」で評価ポイントとなっている箇所を引用しておく。
「グループ社員一人ひとりが共感する力と革新する力を育て」とあるが、具体的にどのようにして「共感力」や「革新力」のようなスキルを身につけさせたりさらなるレベルアップを支援しようとしているのか。
そして「ウェルネス経営」についてであるが、「 活力×基盤のウェルネス経営 」といってみたところで結局それは、「狭義の健康」関連施策に留まっている感が否めない。ウェルネス・ウェルビーイング施策として4段階あるうちの、未だStep 1からStep 2に到達しようとしている段階に思える。(職場において)「しあわせになること」を真に目指すのであれば、なるべく早く「真のウェルビーイング施策」(Step 3)の段階に到達すべきであり、そのためにどのようなロードマップを描いているのか、ここも「ナラティブな説明」が求められる。ちなみに、「真のウェルビーイング施策」(Step 3)のためには「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行うことが不可欠とされている。
最後に「 一人ひとりがイキイキと成長し続けられる組織風土の醸成をめざし 、 積極的な人材育成と採用への投資を実施」という点については、「イキイキと成長し続けられる組織風土」とは一体どのような状態が整った環境のことをいうのか、自社なりの定義をするべきだ。「積極的な人材育成と採用への投資」についても、どのような人材育成を目指していて、投資に対してどのようなリターンを見込んでいるのか、どのような採用戦略を掲げるつもりで成果をどのように計測する予定なのか、明確に示すべきだ。
「 一人ひとりがイキイキと成長し続けられる」というのは、つまりは「持続可能な働き方」(Sustainable Performance)の実現ということではないのか。すなわち、一人ひとりが持っている強みや特性をフルに活かして、無理なくパフォーマンスを発揮し続けることができるような真の意味での「適材適所」を実現した状態である。
これを行うためにはまずすべてのポジションについてスキル・コンピテンシーベースで詳細な要件定義を行い、それと同じモノサシで人材側の保有スキルの洗い出しを行なっておかなければならない。そのためには、「本格的なタレントマネジメントシステム」の導入が不可欠である。同社において、もし既にそれが導入済みなのであればそのシステムを具体的にどのように活用していく計画となっているのかを記載すれば良いし、導入が未だなのであれば、どのような方針でシステムを選定中なのかを記載すれば良い。
(※2023.03.08 Updated )
では、 有価証券報告書(2022年3月期)において新設された「人的資本経営の取り組み」についてみていく。
また、同社は独立した人的資本開示のレポートを作成しているため、こちらの該当箇所も併せてみていく。
まず、「入社3年以内の離職率は約11%で世の中の平均を大きく下回る」とアピールしているが、
・世の中の平均とされる30%と比べて3分の1だから良い状態だ、ではなく、自社なりにどのあたりの水準が適正と考えるのか、その理由も含めて示していただきたい。業界によっても事情が異なるし、低いほど良いというわけではないはずだ(人材流動性の観点から)。
・理念が浸透したから、企業理念の共有が進んだから離職率が下がった、と単純に結論づけているように思えるが、離職率が下がった要因をもっと深掘り分析すべきではないか。逆に、一時的に退職率が上がった理由も「理念に共有できない」からと結論づけているが、他にも様々な要因があったはずではないのか。
・「20%から11%に改善」としているが、上のグラフ上の推移を見る限り決して順調な道のりではなかったように思える。「上がり、下がり」のそれぞれの局面においての分析結果が欲しい。
・「選び選ばれる関係」の基盤が出来上がった、ということの理由づけが離職率の低下だけでは、弱いのではないか。
「対話のルール」として挙げられてる7点は、大学生や高校生レベルでのディスカッションの場でも半ば当たり前のルールとして認識されているように感じる。また、「一方通行のコミュニケーションが当たり前」の組織とは一体どのような組織なのか、私としてはあまり想像できないし、「対話の習慣が定着し、会議やミーティングは必ず対話を交えて…..」といった点も「今更感」があり、世の中の感覚とかなりズレているのではないか。あえてこのようなトピックを、人的資本開示のレポートに盛り込むべきだったのだろうか。
仕事の本質を「価値の創出」と捉えていこうという、これから向かうべき方向性としては非常に正しいと思われるが、これまでは(あるいは、現状は)「時間の提供」と捉えていたという点、例え実態がそうだとしても表現としてはかなりまずいのではないか。率直に申し上げて低レベルすぎる。もう少し表現の工夫をすべきだ。例えば、「目の前のタスクをこなすことに重点が置かれていた」といった表現もあるだろうに。
また、残業時間の減り方について、先ほどの離職率のところと似ているが、上のグラフを見る限り再び「逓増傾向」にあるように感じるのは気のせいだろうか。もう少し、誰もが納得できる深掘り分析の情報が欲しい。
「男女」「年代」「個人」の3つの多様性、について。このうち「個人の多様性」という表現は見慣れないため意味が分かりずらいが、図表を見ると「キャリア面での多様性」であることが理解できる。これは、「スキルベースでの多様性」「コグニティブダイバーシティ」にも繋がることであり、伊藤レポートの「5つの共通要素」の1つともされている「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」のことでもある。したがって最も強調すべきポイントであるともいえ、表現がわかりづらいのが勿体無い。
「男女の多様性」についての図表では、「女性リーダー比率」「女性の上位職比率」等の各指数についてしっかりと実績を示し、かつ、2026年に向けての目標値も示していて非常に素晴らしい。ただ、細かすぎるツッコミかもしれないが、なぜ「男性の家事・育児の分担割合」のKPIだけが2026年も現状維持という低い目標設定なのだろう?(笑) 目標設定は自由なのだから、せめて「微増」にしておいてはいかがか。
次に、「社員自ら手を挙げる 『手挙げの文化』づ くり」の取り組みを紹介しているが、その具体例として 「『グループ横断プロジェクト』『中期経営推進会議』など幅広い手挙げの機会」が挙げられている。
ここで疑問なのが、後述の「職種変更」と「手挙げ文化」の関係性である。「職種変更」についても「手挙げ」は可能なのか、この点は不明である。一般的には、「手挙げ」といえば「社内公募制度」のことも含めていうのではないだろうか。もしこの両者が接続されていないとすれば、取り組みとしては非常に勿体無い。(※2023.03.08 Updated )この点、2022年3月期のレポートにおいては、次にあるように「社員の手挙げに基づいて、グループ内の様々な事業を跨ぐ『グループ間職種変更異動』を2013年から本格的に推進」という説明がなされ、接続性が明示された。
「職種変更」とは具体的にどのようなことを指すのか。ビジネスファンクションをまたがるような「水平方向の異動」のことを指すのか。「グループ会社間異動」という言葉が前についているが、会社をまたがった異動であっても「職種」としてはそれほど変化がないような場合も異動率の計算に含めているのか否か。グループ会社間ではなくて個社内での「職種変更」は算入しているのか。
(※2023.03.08 Updated )この点、2022年3月期のレポートにおける説明によると、事業やビジネスファンクションを跨る異動も含まれること明らかである。
また、2013年から2021年3月期まで、7年から8年かけて「累計で 、 全グループ社員の約 69 %が職種変更を経験」というのは果たして多いといえるのか。少なくとも、どの程度の水準を目標としていてそれに対する達成度がどの程度と捉えているのか。未来に向けて改善していく必要性を感じているのか、それともこのままのペースで良いという想定なのか。
色々とツッコミどころが多い。
(※2023.03.08 Updated )この点、2022年3月期のレポートにおける説明によると、「元の職種と異なる職種に異動した社員は累計で77%」と説明があり、職種間移動も奨励されていて比率も増加傾向であることがわかる。
「2016 年実施のアンケートで 、約 86 %が 『異動後に成長を実感した 』 と回答」との点については、アンケート調査によって取得したデータを開示していることは評価できるものの、なぜ2016年以降は調査をしていないのか。できれば、もっと直近のデータを公表すべきだ。さらに欲を言えば、「なぜ成長を実感したのか」という深掘り質問に対する回答結果も開示したい。
また、この取り組みを「個人の中の多様性とレジリエンス力が育まれています」と結び付けているが、そのようにいえる根拠はどこにあるのか。可能であればそれぞれ「多様性の理解」「レジリエンス」というスキル・コンピテンシーと捉えて、異動経験者においてそれらのスキル・コンピテンシー保有割合やレベルにどのような変化があったのかまでを計測した方が良い。
パフォーマンス評価だけではなくバリュー評価の軸も追加されたこと自体は素晴らしいことだが、肝心なのは図表の真ん中の「スキル、行動、ナレッジ」部分についての評価を適正に行えるようにするための仕組みづくりではないのか。なぜ図だけ示して説明では全く触れないのか。非常に不可解だ。これからやろうとしていること、だけでもナラティブに表現することは可能なはずだ。
前述の通り、「 Well-being推進プロジェクト」「幹部向けレジリエンスプログラム」といってみたところで結局それは、「狭義の健康」関連施策に留まっている感が否めない。ウェルネス・ウェルビーイング施策として4段階あるうちの、未だStep 1からStep 2に到達しようとしている段階に思える。(職場において)「しあわせになること」を真に目指すのであれば、なるべく早く「真のウェルビーイング施策」(Step 3)の段階に到達すべきであり、そのためにどのようなロードマップを描いているのか、ここも「ナラティブな説明」が求められる。ちなみに、「真のウェルビーイング施策」(Step 3)のためには「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行うことが不可欠とされている。健康経営銘柄に選定されたことだけを強調している場合ではない。
(今後の取り組みについて)
「現在の人材と今後求められる人材とのギャップを埋める」という話をするときに、「スキル」の話や「人材要件定義(ジョブ定義)」の話が出てこないというのはあり得ない。「新しいビジネスを作り出すことのできる人材」とはどのように定義するのか。どのような方向によって定義しようと考えているのか。これについての説明が少しでもないと、「何もしようとはしていない」と受け止められる。
何度もしつこく繰り返すが、「プロデュースbyデジタル」などという抽象的なキーワードは良いから、もっと具体的な人材要件定義に落とし込まない限りそのような人材の育成や採用は不可能だ。
「次世代経営者候補」とは、どのような基準で決めているのか。200名はどのようにして選出されるのか。投資家をはじめとするステークホルダーとしては、そこを最も知りたい。
それらの「デジタル研修」は、それぞれのコンテンツなりカリキュラムをこなすごとに具体的にどのようなスキルが身に付くような立て付けになっているのか。研修を受講するだけで、デジタル人材や「新たなビジネスを創出できる人材」を育成できるのか。「隠れたデジタル人材の発掘」とは、どのような要件を兼ね備えた人材であれば「発掘できた」と言えるのか。
まずは、人材要件定義(ジョブ定義)を行うのが先ではないのか。
専門人材の採用、育成の前に、人材要件定義(ジョブ定義)を行う必要がある。
「人的資本投資」を再定義して範囲を広げるというのは、非常に素晴らしい試みだ。しかも、ステップや目標値の設定が明確になされている。さらに、「持続的な企業価値の向上」という絶対に外せないキーワードがしっかりと入っている。
(※2023.03.08 Updated )
<社内外に開かれた働き方の実現>の「イノベーティブな組織の醸成」のところで、「年齢や経験年数にかかわらず能力とスキルとやる気さえあればすぐに活躍できる働き方」とあるが、どのような「能力とスキル」があれば良いのかをしっかりと定義できているのだろうか。「副業やシェアワーカー、長期インターン」といった場合にも、しっかりとした人材要件定義は必要である。それがなければ、どのような場合に立候補できるのかが分からず制度が利用されず、機能しなくなる。
「サステナビリティとビジネスの両立をめざす重点指標(KPI)」とは、具体的にどのようなものなのだろうか。
①サステナビリティに関する取り組みをどれくらい実施すると、
②企業全体の業績が何%UPした、
といったように、①と②に正の相関が見られた、というエビデンスデータを示すことが望まれる。ここで、①としてぜひとも実施したいのは、単なる健康経営推進施策にとどまる内容ではなく、前述のような「真のウェルビーイング施策」(Level 3)の取り組みといえるような施策であり、「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行った結果、業績が何%UPしたと証明してみせることである。
「次世代経営者育成プログラム 」によって「次世代の経営を担う人材の発掘と育成をめざし」ているということであるが、ISO 30414の「リーダーシップ開発」の項目を参考にしながら「一定期間内に当該プログラムに参加したリーダーの割合」を示したり、「ラーニングと人材開発」の中の「研修参加率」を参考にしながら「年間の従業員総数のうち、研修に参加した従業員の割合」を示すと良いだろう。
「2020年度に 『丸井グループお客さまエンゲージメント方針』『丸井グループ人材開発方針』『丸井グループ腐敗行為防止方針』 を新たに策定」ということであるが、昨今では「Customer is not 1st, Employee is 1st」と断言する経営者も出現しているくらい従業員エンゲージメントやエンプロイーエクスペリエンスを重視することがトレンドとなっているわけであるから、「丸井グループ従業員エンゲージメント方針」も策定すべきではないか。
また、「人材開発方針」については是非とも具体的内容をアピールすべきであり、その際にはISO 30414の「タレントプールの充実度」(移行と将来の労働力のケイパビリティアセスメント)の項目の「事業セグメント毎の将来の労働力需要とそれを満足できる可能性について文章で表現する。」という指針に従ってナラティブな表現で説明すると良い。ここで、「文章で(ナラティブに)表現」といえどもデータで根拠を示せるに越したことはないのであり、そうなるとやはり「後継者計画」のところの「後継者準備率」や、「採用」のところの「ポジション毎の適格候補者数」「人材の豊富さ」(ベンチストレングス)に関しても開示の準備を進めておいた方が良さそうである。そして、これを行うためにも結局のところ、まずすべてのポジションについてスキル・コンピテンシーベースで詳細な要件定義を行い、それと同じモノサシで人材側の保有スキルの洗い出しを行なっておかなければならない。
「CDO(Chief Digital Officer)を任命」とか、「CSO(Chief Security Officer)を配置」とあるが、そもそもCDOやCSOについてしっかりとした「ジョブ定義」は行われているのであろうか。特に言及がないため不安が残る。また、「ジョブ定義」は未だないとしても、どのように適格要件(それは、スキルコンピテンシーベースで表現されるべき)を満たした人材が実際に配置されたのか、についても言及すべきではないだろうか。そうでないと、「流行りの名称をつけてポジションを設置するくらいなら誰でもできる」と受け取られかねない。
「規範・ 各種方針は 、 実効性を年1回検証するとともに 、 研修などを通じてグループ社員へ周知」という点については、ISO 30414の「コンプライアンス・倫理に関する研修を修了した従業員の割合」という項目を参考にしながら、「一定期間に当該研修を受講した従業員の割合」を開示すべきだろう。
以上、全体を通じて「辛口なコメント」が多いという印象を持たれたかもしれないが、裏を返せば、親身になって日本企業の「人的資本開示」の支援を行なっていると自負している。
それが、株式会社SP総研の「『人的資本開示』対応コンサルティングサービス」である。
コンサルティングファームを始めすでに各社同様のサービスを展開していると思われるが、当社のサービスの特徴としては(おそらく日本で唯一)「スキルの可視化」の支援まで行なっていることを挙げることができる。
仮に他社でも同様のサービスを行なっていたとしても、そのための手法として「セルフジョブ定義」を用いている点も加味すれば、「日本で唯一のサービス」といえる。
現場主導型の、日本企業にもマッチしやすい手法を用いながら、無理のない「人的資本開示」を目指して支援している。