「誰でも簡単にゲームを作れる」は幸福なことなのか? SNSとしてのマリオメーカー
8月に自由研究でミニマムSNSを作った際、その研究対象として久しぶりにマリオメーカーを触りました。以前……ずいぶん以前に「苦手チャレンジ」したあとにいくつかコースを作りはしたのですが、いまいちピンと来なくてそのままになっていました。
とはいえ今回は"SNS感"の手触りを確認したかっただけなので、その「いまいちピンと来ない」コースをなんのためらいもなく投稿!
ちなみに『スーパーマリオメーカー2』は発売から4年以上経過していますがまだまだ数多くのコースが投稿されていて、今でも人目を引かないコースは無残に流れていってしまう状況にあります。でも、この時点でぼくはまだそのことに気付いていません。
SNSとしてのマリオメーカー
こう言っちゃなんですけど「いいかげんな気持ち」で投稿したコースに「いいね7」がつくのは、未だにマリオメーカーには"かなりの勢い"があることを感じさせます。
同じ熱量でnoteに記事を投稿したら、「スキ3」も行かないのではないでしょうか。これまでの実感からすると、この記事自体だって「スキ7」行くかどうかはかなり怪しいところだと思います。
でも! 初投稿でそれなりの「いいね」を貰えたのはやっぱり嬉しくてですね、ほかにも作ってあった「もっといいかげんな気持ち」のコースを連続投稿したんです。
ところが、そちらは「総スカン」という感じでした。ぎゃふん。
「なにか悪いことしたっけ?」となるのは、noteもTwitterもマリオメーカーも同じですね。流行っていて人が集まるところほど、目立つ"なにか"がない人は埋没し、疎外感に苛まれやすく、そして森へ帰っていく。社会に参加すること自体に"評価"が関われば、どうしたって「競争社会」になっていきます。
そんな競争社会を支えるのは、逆にその"評価"に依存する人たちです。
上にある通知画面の3件目にある「W 1-1 newsのベストクリアタイムをimsocool23さんが更新しました」は、ぼくが記録したベストタイムが抜かれたことをわざわざ知らせてくれています。このように、マリオメーカーのシステムも露骨に"競争"を煽ってきます。
ま、ぼくは「アクションゲームが超ヘタ」という揺るぎない自負がありますからベストタイムが抜かれたこと自体はまったく気になりませんが、この通知を見たときは「ヤバイ」と思いました。
なにがヤバイって、アクションゲームやシューティングゲームは「難しいのをクリアできるのが偉い」という歪んだ価値観のユーザーに迎合して難易度を上げて滅びかけた歴史があるからです。格闘ゲームやMMORPGも、敗者を見下して発せられる「辞めてしまえ」という言葉がユーザー人口を減らしてきました。
このあたりは「ゲームが上手い」から「ゲームが好き」と思い込み、そして「ゲーム制作を仕事にしたい」という考えに至りやすい状況が続くうちは何度でも繰り返すでしょう。ある種の『ビューティフルドリーマー』の世界ですね。ネタバレはしませんけど。
そうは言っても低難度コースをいろいろ遊んで「わいわい楽しい♪」なんて状況はそう長くは続きません。マリオメーカーのコミュニティを支えているのは「いいね」が絞り出す脳汁に依存した人たちであるのも事実で、これは人工的に繁栄・存続を求められるあらゆるコミュニティ、メタバースにも付き物の問題です。
もちろん、だからといって任天堂が今後のマリオシリーズを高難度化するとはまったく思いません。でも、任天堂の手を離れている投稿コースはかなり「意地悪」路線に偏っているように見えます。もともとの「公式マリオ」とのデキの差もあるでしょうけどね。
また、いまでもマリオメーカーのコミュニティに勢いがあるのはYouTubeなどの配信者が実況を続けている影響も小さくないと思われます。そちらは高難度の「トロール(Troll)コース」を攻略するものが目立つ状況です。
"Troll"は従来「迷惑行為」を意味するスラングですから、とても攻略できなさそうな意地悪で理不尽なトロールコースを華麗にクリアする行為は時代劇的な「勧善懲悪」に近いものですが、YouTubeで目立てる(かもしれない)ことから進んで悪代官役をやりたい人も多いのでしょう。加えて、それを待ち受ける評価依存・競争依存のユーザーも少なくないことから、マリオメーカーのコミュニティはかなり「煮詰まって」きています。
やたら「鬼畜」難易度であることに価値観を見い出すのはゲーム制作ツール『ツクールシリーズ』のコミュニティでもお馴染みの光景なのですが、あちらは「ただのトロールにはゲームは作れない」という宇宙の真実のおかげで被害が露見しにくかったのは幸いだったかもしれません。
「誰でも簡単にゲームを作れる」の功罪
世間で「鬼畜」と言われる高難度のゲームも実際には極めて丁寧に作られており、表層だけ見て「鬼畜がウケる」と思い込むのは愚かなことです。AVを観て「女性に乱暴にしているとその男気にいずれなびく」と思っているのと同じですね。いちいち調べていませんが、根幹にある問題は同じ「自己都合が優先されて認知が歪むこと」なのでTwitterなどで該当者のログを遡れば無知な鬼畜ゲー信仰とアンチフェミニズムは一致するのではないでしょうか。極めて不毛なので、わざわざ調査しませんけどね。
なおぼくはマリオメーカーのトロールコースなんてひとつも遊べませんが、YouTubeの動画配信はよく観ていて特に「ぴよきんぐ」さんの動画はお気に入りのひとつです。ぴよきんぐさんは自他ともに認める「騒がしい系YouTuber」なので好き嫌いが分かれるところなのですが、本質的に優しく丁寧な人柄が垣間見え、納得の人気という感じ。ぼくは好きです。
ぴよきんぐさんの動画を通じてトロールコースの攻略を観ていると、意外なことにも気付きます。トロールコースのほぼすべてが、いわゆる「初見殺し」を連発して"わかるわけがない罠"にマリオをはめていきますが、そのなかでも秀作コースは早い段階で"リアクション"を返すのです。
わかりやすい例では、わかるわけがない2択・3択を強いられた際に、選んだルートが「正解か、不正解か」を早めに知らせる"サイン"がコース内に組み込まれています。取ってはいけないキノコを取った直後に小さいマリオでなくては進めない場所がある、いくつかの記号でダイレクトにメッセージを伝える、等。
本当に理不尽に作るなら、コース序盤の"ある選択"が、長い長いコースの終盤になって影響してきて、最後にそれに気づいて「全部やりなおし」にすることだって可能です。でも、「秀作トロール」はそこまではやらないわけです。
ぴよきんぐさんは自分でも「うるさい」と言いながらも、言葉を尽くしてコース内のギミック、作り手のサインを都度都度明らかにしてくれます。これがいい。おかげで、ハイレベルのプレイヤーとそれに相対する作り手の間で高度なコミュニケーションが行なわれていることに気付けます。
いくら愚行を繰り返してきたゲーム業界でもビジネスを重視していてはなしえないニッチな世界の構築をマリオメーカーのコミュニティは実現しており、これは「誰でもゲームを作れる」の"功"の部分だと言えます。トロールコースでなくても、応用できるノウハウは少なくないので「普通のゲーム」を作りたいクリエイターの役にも立つことでしょう。
もちろん"罪"の部分は、本当に乱暴なだけのコースも溢れていることです。マリオメーカーは自分で一度クリアしたコースしか投稿できないため、極端な指先のテクニックが求められるものよりも、正解さえ知っていればクリアできるよけい感じの悪いコースが跋扈しやすい環境になっています。ハズレを引いたらマリオが死ぬ2択の仕掛けを連続させ、たとえばそれを8回繰り返すだけで初見クリア率1/256(2の8乗は256)のコースは簡単に作れてしまいます。
振り返ってぼくが初投稿したコースを見てみると、投稿初期のクリア率は60%もありません。初心者用にジャンプの練習をするだけのようなもので、飽きるほど長くもなく、行き詰まる難所もないものなんですけどね。
こうして、かなり簡単と言えるコースでも、きちんとコミュニケーションをはからなければまともに遊んでもらえないことを痛感させられました。マリオメーカーのように"言葉"を直接使わない場でも、そのコミュニティに属する人同士が触れ合うことで「伝わるものがある」ということは忘れてはいけない大切なことでしょう。
ところでトロールコースの動画を観るときは、女性配信者より男性配信者をオススメします。なにせ唐突に罠にはめられるコースばかりですから、配信者はしょっちゅう悲鳴をあげることになるわけですが、女性配信者にたびたび悲鳴をあげられるのはつらいんです。むしろそれが心地よいと言う悪趣味なトロールに、この言葉はきっと届かないでしょうけどね。
(おしまい)
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