レビュー 『幸福の「資本」論』
橘玲さんによる、人生設計指南本。
「幸せ」の形は一人一人で違いますが、「幸せ」の基礎となるものが何かを知ることができ、人生を考えるにあたりこの本に書かれた内容は知っておくべきだと思いました。
他の人と同じように大学を卒業後、就活をして企業に入り、このままで良いのかなと今後のキャリアを考えている人にとって、ヒントを与えてくれる一冊。
起業を考えている人や、大学院進学に挑戦したい人、周りに取り残されそうで不安をかかている人にもおすすめで、次の行動へとうながしてくれる良書です。
幸福の条件は意外にも少なく「自由」「自己表現」「共同体」の3つ。
それぞれの条件に対応する「土台」が以下となります。
① 自由 = 金融資産
② 自己実現 = 人的資本
③ 共同体 = 社会資本
これら3つの資産・資本の、それぞれの大小の組み合わせによって生まれる「8パターン」によって、あらゆる人の「幸福」のカタチを説明できます。
例えば、
プア充:社会資本(中学からの友達ネットワーク)しかない田舎のマイドルヤンキー。
リア充:金融資産はないが、高収入を得られる職業につき(人的資本)、友だちや恋人(社会資本)を持っている。
3つの資産・資本すべてそろえることは難しいですが、せめて2つをそろえれば「幸福」となり、どうすれば2つをそろえることができるのかを、本書は教えてくれます。
金融資産に関して驚くべき事実は、金融資産が1億円を超えると、幸福度は変わらないというもの。1億円あれば、老後の心配がなくなるからといえます。
年収についても同じことがいえ、収入増で幸福が増えるのは個人だと年収800万、世帯年収だと1500万まで。
逆にいうと、年収800万(世帯だと1500万)、資産1億までは幸福感が上がっていくことになり、これがターゲットとする金額になります。
投資方法は分散投資、具体的な投資先としては、円建てETFである「上場インデックス世界株式(1554)」がオススメされていました。
しかし著者は、金利収入にはあまり期待ができないとしており、人的資本に集中することを説いています。
人的資本に関して、サラリーマンのリスクは、日本の会社はゼネラリスト養成機関なので、他社で通用するスキルを身につけることができないため、40歳になってから会社の倒産やリストラにあった際に、人生の選択肢が無くなってしまうこと。
さらには、サラリーマンの実質税負担率は30%(会社支払い分を含む)で、税金という人生最大の出費もリスクとなります。
そんなリスクを回避し、老後の金銭問題も解決する方法が、「80歳過ぎまで現役で働き、老後を短くすること」。
具体的にどうすればいいかというと、自分が好きなことを実現できるニッチを見つけ、時間とエネルギーを投入し、企業と直接取引するようなフリーのエージェントになること。
仕事で成功するためには圧倒的な努力が必要となり、それは自分の好きなことでないと続かないという事実に基づいており、優秀な人が集まるレッドオーシャンでは結果が出にくいため、狙うはニッチな市場となります。
社会資本については、結論、小さな愛情空間と大きな貨幣空間に分散投資することが良いとされています。
人とのつながりは1%の愛情空間(家族や恋人)、19%の友情空間、80%に貨幣空間(仕事の繋がり)に分けられ、その中で人間関係を選択し、大好きな人と多くの時間を過ごし、他の人は仕事の付き合いと割り切るというもの。
ここで興味深かったのが、お金持ちが孤独になる理由は、金融資産(貨幣空間)と社会資本(愛情空間や友情空間)ではルールが違うため、原理的に両立が不可能であるからと、孤高の思想家ジェイン・ジェイコブズの『市場の倫理 統治の倫理』が引き合いにだされていたことです。
作家であり、社会評論家でもある橘玲さんの集大成ともいえる内容で、「幸せとは何か」、「幸せにもとづいた最適な人生戦略」についての研究結果となります。
本書をおおざっぱにまとめてみたいと思います。
サラリーマンという先のない働き方をやめ、ゼロ金利時代に経済的な「自由」を確保できるだけのお金を手にし、わずらわしい人間関係から離れ、好きなことを仕事にして「自己実現」を目指し、好きな人を周囲に置いて「適度な絆と強固な愛情」を得る。
具体的には、
①金融資産は分散投資。
②人的資本は好きなことに集中投資。
③社会資本は小さな愛情空間と大きな貨幣空間に分散投資。
これらのうち、2つを満たすことができれば十分に幸せを感じることができるため、どのような組み合わせにするかは読者次第。
今後の人生に悩んでいる人にとって、社会の現状を知り、これからを考える手助けになり、人生の節目でなんども読み返したい本です。
「幸福な人生を目指して頑張っている時が、もっとも幸福」という言葉が胸にひびきます。