レビュー『世界観』佐藤優
佐藤優さんの『世界観』を読みました。
本書は、月刊誌『SAPIO』の連載をまとめ、国際情勢を独自の視点で分析したもの。
本書では、パナマ文書から外務省の働き方、さらには現代社会におけるブラック企業の構造まで、幅広いテーマが取り上げられています。
今回は、本書から得られた3つの視点についてご紹介します。
1. パナマ文書が明らかにした世界の歪み
パナマ文書は、世界中の富裕層がタックスヘイブンを利用して巨額の資産を隠していたことを暴き出し、大きな衝撃を与えました。
タックスヘイブンを利用して、さらに富を蓄える富裕層。
タックスヘイブンを利用できない一般市民。
タックスヘイブンにより、これら二者の格差が加速しています。
それは、一般市民の納税制度に対する信頼を失わせることになり、国家を弱体化する結果を招きます。
よって、パナマ文章が暴露された結果、各国により富裕層に対する脱税対策が厳しくなりました。
また、「小国のタックスヘイブンが危険である」という認識が、富裕層の間で強まることに
結果、大国アメリカのネバダ州、デラウェア州のようなタックスヘイブンへと資金が流れているという状況になったそう。
(アメリカのなかにもタックスヘイブンが存在するとは知りませんでした!)
2. 外務省という特殊な組織
本書では、外務省のブラック企業体質が取り上げられる一方、語学学習や研究活動など、個人の成長を促す側面も紹介されています。
たとえば外務省は、佐藤さんに外交官の仕事の傍ら、モスクワ国立大学哲学部にてプロテスタント神学について、東京大学教養学部では、民族・エスニシティ理論について教鞭を取ることを奨励してくれたそう。
佐藤さんは、それらの外務省での経験(語学力や大学教師を務める過程で身につけた知識)が自身の作家としてのキャリアを築く上で非常に役立ったと述べています。
外務省は、厳しい労働環境と同時に、貴重な経験と知識を得られる場所でもあると言えるでしょう。
就職先を選ぶさいは、労働環境だけではなく、「そこで身につけられる知識や経験」に目を向ける重要性をおしえてくれます。
3. ブラック企業の洗脳と人材の育成
現代社会におけるブラック企業の問題についても、佐藤さんは独自の視点から分析。
村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を引用しながら、ブラック企業が従業員を洗脳し、企業の利益に貢献するよう仕向けるメカニズムを解説しています。
たとえば、洗脳プログラムをまったく受けつけない人間というのは2種類。
1つは反社会的な人間で、こういう人たちに何をしても時間のムダ。
もう1つは、本当に自分でものを考えられる人間。(これは意外!!!)
そういう人たちは下手にいじらずに放っておくと、順調にいけば、ゆくゆく指導的な立場に立つことに。
(オウム真理教の幹部も高学歴の人が多かったようなので、この説には説得力があります。)
そして、これら2つのグループのあいだに、命令のままに行動する層があり、その層が大部分を占めています。
佐藤さんは、教養を身につけ、思考力を養うことが、ブラック企業から抜け出すためのカギだと主張しています。
まとめ
『世界観』は、国際情勢から社会問題まで、幅広いテーマを深く掘り下げた一冊。
佐藤さんの鋭い分析力と豊富な知識に基づいた考察は、読者に新たな視点を与えてくれます。
本書を読むことで、国際情勢の流れを多角的に捉え、複雑な社会問題に対して自分自身の考えを深めることができそうです。
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