094_『ガルヴェイアスの犬』 / ジョゼ・ルイス・ペイショット
太陽、地球、月。
それぞれに名前がある。
けれど、夜空に一瞬だけ現れる流星に名前はなくて、それでも、その軌跡に不思議な感傷を覚えてしまうのだから不思議。
偶然なのか、何かが引き寄せたのか『ガルヴェイアスの犬』という本を読んでいたら、深夜、東京の上空に現れた流星のニュースを知った。
人は名前を付けたがるもので、それはきっと名前を付けることで安心したいから。
逆に言うと、名前がない物は得体の知れない不気味な何がであるということでもある。
ガルヴェイアスという村の外れにある日落ちてきた隕石。
その隕石には名前はない。
それでも、そこから漂う何かによって村は着実に侵食されていく。そして、村人の日常も、まるで煙で燻されたかのように、その侵食された輪郭が浮き彫りになっていく。
名前のない物の存在を、長く記憶に留めておくことを人間はできず、でも、犬だけはその存在を忘れることはなく覚えていて、ページをめくる度、まるで犬の視点で人間の日常を垣間見てしまったかのような気分になる。
ポルトガルという遠い国の物語だからなのか、描かれる人間模様には不思議に親近感を抱くおかしみがあり、まるで知り合いになったかのような感覚が生まれる。街角で行われる井戸端会議に一緒に参加しているような感覚で読み進めてしまった。
日本人の作家が生み出す世界とは全く違う世界。これぞ海外文学を読む喜び。を心から堪能。
世界は、広い。