意外性っていいよね、という話
チャラついた男だと思っていた後輩がいる。Tinderで会った女が、とか元カノとヤってたときに、とかそんな話しかしない奴だな、という第一印象だった。
悪い奴だとは思わないけど軽薄だとは思っていた彼とはそれでもなんだかんだ喫煙所友達として仲良くしていた。彼の軽薄な話はぼーっと聞くには面白かったし、話し上手だったので一緒にお酒を飲むのにちょうどよかった。
仲良くしているうちに、音楽の趣味が合うことに気づいた。あのアーティストのあの曲のあそこの歌詞がすごい好きなんだよね、みたいな話をすると、俺その曲の2番のここの歌詞にめっちゃビビッときました、とか返してくれる、打てば響く感性が心地良くて話す頻度が増えていった。
ある日、高校の頃現代文で習った「何となく君に待たるるここちして出し花のの夕月夜かな」という短歌が衝撃的で忘れられないんだよね、と話した。確か鴨川で飲んでいて、月が見えたんだと思う。すると彼は「俺大学では誰にも話したことないんですけど、短歌が好きなんです。歌集を読むのも好きだし、自分で詠むこともありますね。何回か新聞に載りました。」と照れ臭そうに話してくれた。
正直そんな細やかな趣味がある男だとは思っていなかったので驚いた。と同時に、一気に信頼がおける相手に思えた。
彼はフォロワーが5人しかいないインスタグラムのアカウントを私に教えてくれた。そこには彼が書きためた短歌が載せてあった。どれも彼らしい、恋愛体質で軽薄で優しい歌だった。
人に言えない恥ずかしい面があると、なんであんなに人は魅力的に思えるんだろう。裏表のない人もそれはそれで魅力的だけど、人に見せない顔がある人に私は男女問わずとても惹かれてしまう。その顔を自分に見せてくれると信頼を得られたようで嬉しいし、相手をより深く知ることができる気がするのだ。
そんな私もこのnoteのアカウントは周りの誰にも教えていない。色々と知られたら困ることを書いていることもあるし、何より自分の書く文章を読まれるのが恥ずかしいのだ。何なら裸を見られるより恥ずかしいかもしれない。文章にはその人の知性や感性が、話し言葉よりごまかしの聞かないまま滲み出てしまう気がするのだ。
でももう少し時間が経ったら秘密を教えてくれた彼にはこのアカウントを教えてみようかな、なんて思ったりもする。